大切な飼い猫に輸血が必要になったら―。あまり考えたくない事態ですが、もしもの時のためには正しい知識が必要です。『しんコロメールマガジン「しゃべるねこを飼う男」』の著者で現役医療研究者のしんコロさんに聞きました。
Question
猫の輸血、提供する側される側のリスクは?
先週、知り合いの知り合いからメールが、届きました。
「自宅の10歳になる猫に輸血して頂ける猫を探しています。血液量15%をきり、2日後に動物病院にて輸血が必要の為、大量に血液がいるのです。4キロ以上で、6歳未満の猫で、病気が無ければ、その場で一応健康診断等した後、ほんの少し50ccだけ頂けないでしょうか? 癌で、猫白血病も併発しています」
という内容でした。5年前、我が家の猫も慢性腎不全で、最後は毎日捕液に通院し、そんな中、余りの辛さに夜風に当たりに外に出て、交通事故で亡くなりました。「たった、50cc」とは言え、人間なら40キロから500cc採る事になりますよね。今は本当に猫の輸血が普通に行われているのでしょうか? また、提供する側される側のリスクはどのようなものでしょうか? 日本の状況もあまりわかりませんが、アメリカ等では犬猫の高度治療も盛んなのでしょうか? メールの猫ちゃんは、ボランティアさんの捕獲猫から採血出来る事になったそうですが、倫理的にも、しんコロさんの考え方を聞かせて頂けたら幸いです。
しんコロさんの回答
輸血による治療は外傷、手術、血管腫瘍の破裂、その他貧血性の疾患などの時に必要になることがあります。日本でもアメリカでも輸血療法は行われています。動物病院には献血犬や猫が飼育されている場合もありますが、頻繁に血液を採取することはできません。また、ペットには人間のように血液センターのような機関がありません。病院によっては、ドナー登録を募集している所もありますが、現状としては質問者さんのケースのように知人を通して血液のドナーを募集する場合も多いのです。採血量は10ml/kgを1回の採血の上限とし、再採血までには3~4週間開けるのが望ましいとされています。従って、4キロの猫から50cc採るのは上限を少し上回る量だと思います。
ドナー側のリスクは、血液を抜くことで血圧が低下し、元々心疾患があった場合にはその症状が現れるようになることがあります。レシピエント側のリスクとしては短期としてはアナフィラキシーショック、血小板減少、溶血などがあります。血液型が適合するようにクロスマッチテストというものを行いますが、それでも上記のような副作用が起きることがあるので、輸血中や輸血後には注意してレシピエントの状態を観察する必要があります。
また、長期のリスクとしては猫白血病ウイルスや猫免疫不全ウイルスなどにドナーが感染していた場合、輸血による感染が起きる可能性があることです。そのため、ドナーの猫は完全室内飼いで、それらの感染症がないことが求められる場合があります。捕獲猫は必ずしも栄養状態は良くないかもしれませんし、感染症もあるかもしれません。恐らく選択肢がなかったからそうなったのでしょうけれども、ドナー猫に対するリスクも含めて捕獲猫をドナーとして使うのは倫理的にも微妙な部分がありますね。
倫理的には、輸血ができずに命を落としている猫が多くいることを考えると、理想は公的な血液バンクができることでしょう。現実には各病院や血液バンク団体による活動によって輸血が支えられており、まだまだ血液不足の状態が続いているという状況だと思います。
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『しんコロメールマガジン「しゃべるねこを飼う男」』
著者:しんコロ
ねこブロガー/ダンスインストラクター/起業家/医学博士。免疫学の博士号(Ph.D.)をワシントン大学にて取得。言葉をしゃべる超有名ねこ「しおちゃん」の飼い主の『しんコロメールマガジン「しゃべるねこを飼う男」』ではブログには書かないしおちゃんのエピソードやペットの健康を守るための最新情報を配信。
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