世間を驚かせた、元チェッカーズ武内享の息子逮捕。彼の罪状は、大麻取締法違反です。大人気のメルマガ『今井亮一の裁判傍聴バカ一代』では、その裁判の記録を詳細に紹介しています。なぜ、彼は大麻に手を染めたのか、その答えがココにあります。
元チェッカーズ武内享の息子が落ちた大麻への道
8日(火)、午前中に雑誌の締切原稿をばっちり書き上げ、急ぎ裁判所へ。
13時11分頃に法廷へ行くと、すでに行列ができており、俺は20番目だった。その後どんどん来て、傍聴席はほぼ埋まった。
13時30分~14時30分、東京地裁722号法廷(52席、齊藤啓昭裁判官)で「大麻取締法違反」の新件。
「元『チェッカーズ』武内享の息子2人が大麻…兄が調達、弟が高校で売買」
「息子が大麻で逮捕…元チェッカーズ武内享“甘い父親”の悲哀」
「武内享 初めて語った自身の離婚とチェッカーズ再結成の行方」
などと報じられた事件だ。被告人はその長男、21歳。保釈中で、良さそうな黒スーツ、レジメンタルタイ、黒フレームの眼鏡。スリムに締まってスタイルが良い。つか姿勢が良い。
頭はスキンヘッドなのだった。薄く毛が見える部分と、全く見えない部分がある。円形脱毛症的なことになってるんじゃないかと。
そんな被告人を証言台のところに立たせ、検察官が起訴状を読み上げた。
検察官「被告人はみだりに、第1、平成27年6月中旬頃、東京都世田谷区…当時の被告人方において、武内●●に対し、大麻を含有する乾燥植物片約0.2gを無償で譲り渡し…」
●●とは被告人の弟で、高校生なんだそうだ。
検察官「…第2、同月26日頃…(同じ場所でまた弟に対し)大麻を含有する乾燥植物片約0.3gを譲り渡したものである。罪名及び罰条…」
俺はしっかりメモしたょ、大麻取締法、第24条の2第1項と。
第二十四条の二 大麻を、みだりに、所持し、譲り受け、又は譲り渡した者は、五年以下の懲役に処する。
2 営利の目的で前項の罪を犯した者は、七年以下の懲役に処し、又は情状により七年以下の懲役及び二百万円以下の罰金に処する。
3 前二項の未遂罪は、罰する。
乙1~5号証は被告人の調書。
乙号証「15歳の夏、江ノ島の海の家でヒップホップのライブに初めて出演…先輩からお疲れさん、これ吸いなと言われて、葉巻のようなものを渡されて吸ったのが初めて…海で上がっていた花火の音が、耳元で上がっているように…花火の色も今までに見たこともないきれいな…その後、食事…食べたものがすべて旨い感じ…そのときの感覚が忘れられず…」
しかし高校生にとって大麻は高価で、「ハーブ」を吸うようになったが…。
乙号証「17歳の頃、渋谷の道玄坂のショップで購入…吐き気がして道端で吐いてしまった…いっしょに吸った先輩は顔が曲がってしまい…怖いのでもうヤメようと決めた…しかしハーブに対する依存が強くて…」
当メルマガで何カ月か前にご報告した、学者先生の証言、あの人は、ハーブは強烈ゆえイッパツで依存症になると言ってたね~。
乙号証「それからは仕事をやっていて(高校中退なんだそうだ)お金もあったので、大麻を購入して…逮捕まで約6年間、大麻を吸い続けている…」
弟になぜ譲り渡したのか。
乙号証「弟が高二に入る頃、弟が吸ってみたいと言ったため…平成27年1月…他の人には絶対に渡すな、売人から買うな、俺が渡す…」
順番は前後するが、甲4号証は弟の友人の調書。検察官がこう読み上げた。
甲4号「平成27年3月、弟の両親が不在…3人で鍋パーティ…ストックしていた大麻を3人で仲良く回して吸った…兄貴からまわしてもらうからと…」
弟は、被告人から無償で譲り受けた大麻を、その友人に売ったんだそうだ。
6月29日、6時間目の授業が終わって掃除をしていると、担任教師からコミュティルームへ呼ばれ、行くと「先生や警察官がいた」。
なんか、犯罪がバレていく典型のように感じる。
甲12号証は、被告人の父親、すなわち元チェッカーズのリーダー、武内亨氏の調書。
甲12号「2009年、離婚…息子2人の親権を…」
息子2人とで暮らし、弁当づくりや掃除、洗濯等の家事をやってたんだそうだ。「4、5年前」に再婚、新しい妻との間に生まれた子と5人で暮らしていたが…。
甲12号「2年くらい前、被告人と大げんか…(当時働いていた)六本木の居酒屋を辞め、家でだらだら…ハーブを見つけて怒った…」
それで被告人は、母親(実母)のマンションへ転がり込んだんだそうだ。
甲12号「(息子の性格は)明るい…ワルぶってはいるが、けしてワルにはなれない…音楽で飯を食べていきたい…頑張れ、応援すると…」
そして13時44分、情状証人は父親、武内亨氏!
今回のことは今年9月、自身のブログで明かしてる。マスコミが全く知らないときに自ら明かしたそうで、その腹の据わり具合は大したもんだと思う。
3つボタン3つ掛けの黒スーツ、たっぷりの髪をきちんとポニーテールにして、とにかく姿勢が良い、堂々としてる。
「何事も包み隠さず…」という宣誓の声は、洋画の声優さんのような良い声だ。…ただ、手に持った宣誓の紙が細かく揺れていた。
そんで、俺はね、この父親の証言ぶりに感動しちゃった。
良い声で、ゆっくり語尾まできちんと、文法正しく、包み隠さずという感じで真摯に簡潔に述べるのだ、姿勢良く。
なんかねぇ、真田広之さん演じる昔の武士のイメージがダブった。
一部拾えば…と言いたいところだが、その機微を再現してるとすごく行数を食いそう。あっさりヤメとく。
続いて被告人質問。スキンヘッドで顎に少しヒゲを伸ばし、悪そうにも見えるのだが、父親の血を引いたのか、似てるところがあるのだった。
留置場でいろいろ考えたんだろう、保釈されるとすぐ、「オヤジ、データ消して」と言い、携帯電話やパソコンの住所録等を全部消去させたんだという。
携帯電話は新しく契約し、今までの交友関係はすっぱり切って、音楽とも離れて、当分は六本木の居酒屋(父親の知り合い)で料理の修業をしたいんだという。
現在被告人と暮らしてる実母は、自宅を引っ越したんだという。
俺は事件数で6250件ほど傍聴してきたが、ここまできっぱりした被告人は、つか親子は、なかなかいねーよっ、と思えた。
求刑は懲役6カ月
裁判官「じゃよろしければ今日もう宣告をしますけど、よろしいですか? じゃ準備をしますので少しお待ち下さい」
待つほどは待たせず…。
裁判官「主文、被告人を懲役6カ月に処する。この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する」
裁判官は最後にこんなことを言った。
裁判官「ほかの人とは立場が違って、二度と失敗ができないということを、よく十分考えてね、これから…」
またやれば、今度こそ父親が破滅、という意味なんだろうか。
もうだいぶ長くなってしまったんだが、ごめん、許せ、被告人質問の、そこだけ異様だった部分を。
弁護人「この場で、(大麻を)誰からもらったかということは、言えますか」
被告人「いいえ、言えません」
取調べで、大麻の入手先を供述したか。いえ、しませんでした。なぜ?
被告人「友人や仲間たちを裏切ってしまうことになると考えたからです」
友人や仲間たちに大麻をヤメさせたいと思うか。思います。そしたら供述すればいいんじゃないか。いえ、そうは思いません。なぜ?
被告人「友人や仲間たちには、家庭を持ってる人がいる…その家族が路頭に迷うかもしれないと考えたからです」
息子や娘が、若気の至りの大麻で捕まって、家族が路頭に迷うって、そんなこと普通ある?
当然、検察官はそのへんを、自白へ誘導するテクニック(おお~、懐かし~と思う前科2犯、前歴多数の俺。ただし全部交通違反。笑)で突っ込んだ。しかし…。
被告人「黙秘します」
俺は傍聴席で思ったょ。「友人や仲間たち」の、その親もまた有名芸能人なのかも!
裁判が終わり、マスコミ記者が10数人か、被告人を、というより父親を待ち受けた。
別の出口から逃げる手はいくらでもあるのに、父親は取材を受け、全員で正面玄関の外、門前へ。俺もついて行った。
父親「私が厳しかった…それが裏目に出てしまったという思いはあります」と言ってた。
相当厳しかったんだろうね~。
大麻と音楽との関係について尋ねた記者がいた。
父親「それは大間違いだと思います。大麻と音楽、結びつけるのは間違い…こういう仕事、やはり目立ってしまうので…」
確かに、芸能人の大麻やシャブの裁判は希(まれ)だ。しかし、一般人の事件はほぼ一切報じられず、芸能人の事件は大きく報じられるのだ。
息子さんの姿を法廷で見てどう思ったか、記者が尋ねた。
父親はうつむき、ハンカチ(赤いバンダナ)を鼻に当て、しばし沈黙。それから顔を上げ、こう答えた。
父親 「バカ野郎ですけど、やっぱり息子ですから」
テレビニュースではその瞬間だけ報じられてるようだ。
父親はしばらく赤いバンダナで目や鼻を押さえ、拭き、こう言った。
父親「ただ、やっぱり、息子には頑張ってほしい…そのためには、俺は逃げる姿を見せたくない…これを自分に対する戒めとして、きっちり頑張っていく…息子たちにも見せていきたいと…」
最後に記者が、チェッカーズのメンバーには話したのか尋ねた。
父親「はい、連絡を取れるメンバーには謝罪しました」
その立ち居振る舞いが、格好いいおっさんだな~! 俺はつくづくそう思ったょ。
image by:Shutterstock
『今井亮一の裁判傍聴バカ一代』
著者/今井亮一
交通違反専門のジャーナリストとして雑誌、書籍、新聞、ラジオ、テレビ等にコメント&執筆。ほぼ毎日裁判所へ通い、空いた時間に警察庁、警視庁、東京地検などで行政文書の開示請求。週に4回届く詳細な裁判傍聴記は、「もしも」の時に役立つこと請け合いです。しかも月額108円!
≪無料サンプルはこちら≫