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元カノ・元カレからの脅迫メール、法廷ではどう裁かれる?

前回、池袋脱法ハーブ暴走事故の裁判の模様をレポートしてくださった傍聴マニアでジャーナリストの今井亮一さんが、またまたハイブローな法廷の模様を届けてくださいました。元彼に脅迫メールを送り続けた女性。けれどもその送信した場所と犯行に及んだ理由というのがまたよくわからないもので…。

出会い系で知った男宅から元彼へ脅迫メール

東京地裁422号法廷(52席、安藤範樹裁判官)で「脅迫」の新件。被告人は女性氏名。男と女のもつれが予想される。もしかしてモンスターペアレントとか?

傍聴人は、最初は20数人、途中でどんどん入ってきて40人を軽く超えた。他の法廷の事件も勘案すると、15時30分頃にこの庁舎にいた傍聴人は、およそ50~60人かと推認できる。

どうでもいい話? いやいや東京地裁の傍聴で生き抜くには重要なことなのですょ。←んなとこで生き抜くな(笑)。

被告人は身柄(拘置所)、グレーのジャージ上下。ずばり、おでぶ。おっぱいが風船のよう。年齢は、少しぼかしとこう。30代後半だ。現在無職。

オードリーの若林正恭さんに5%くらい似た若い検察官が、起訴状を読み上げた。

検察官 「元交際相手である○○○○(※40代後半)を脅迫しようと、平成27年(2015年)3月4日午前6時9分から同月6日…29回にわたり、被告人方ほか1カ所から携帯電話…携帯電話…別表記載のとおり…」

「殺すかもしれないから」「絶対殺すから」「殺します」などとメールを送信し、閲読させ、もって脅迫したんだという。

「俺は浮気はしない/たぶんしないと思う/しないんじゃないかな…」(さだまさしさん『関白宣言』)が俺の脳裏を走り去る。

被告人は前科なし。不起訴か罰金刑(略式)で終わってもよさそうな事件じゃね?

審理が進むにつれ、もう少し深いことが分かってきた。被告人は離婚歴あり。長女と、母親と3人暮らしで、トラック運転手をしてたんだそうだ。お~!

今年1月、被害者が同じ会社に勤務し始めた。2月15日から交際を開始、同月25日、口論になり、交際を解消。

乙2号証は被告人の調書。

乙2号 「私は交際を続けたかった…」

甲4号証は、被告人の携帯電話の料金明細。

甲4号 「2月25日から頻繁に電話をかけていた…」

2月26日、被害者は警察に相談。警察はストーカーの警告をしようと被告人に電話したが、被告人はすぐ切った。警察は被告人方へ行ったが、応答がなかった。

同日、被告人は被害者に「妊娠したから責任とって」と電話。

乙2号 「妊娠しましたと…(堕胎に)だいたい10万円かかる…半分の5万円…」

2月15日に交際を開始して、2月26日にもう妊娠が判明するもんなの? 俺は女体のことは疎くて。

甲2号証は被害者の調書。

甲2号 「妊娠したと…いっしょに産婦人科へ…堕胎費用…5万円を渡した…」

3月3日、妊娠は虚偽と発覚した。なぜ発覚したのかは不明。

甲2号 「結局妊娠していなかった…連絡してこなくなるなら5万円は返さなくていい…その後、殺すとメール…」

乙2号 「好きで、あきらめきれない…お金、受け取ってもらえないなら、殺すかもしれませんと…」

>>次ページ 被告人の母親出廷! 情状酌量を求めるはずが…

15時43分、弁護人立証。書証はなく、情状証人は被告人の母親。容貌も体型も被告人によく似た母親は、こんなことを言い出すのだった。

証人  「ときどき(被告人から)暴力、ふるわれていました。あと、お皿で頭を殴られてケガを…孫(被告人の長女)もいるので、ちゃんとしてほしい…」

弁護人 「お孫さんはどう言ってますか?」

証人 「親は親なので(孫は被告人に)会いたいと…ちゃんと母親らしいことをやってほしいです」

被告人の暴力の原因について尋ねられ…。

証人  「些細な言葉で、突然暴力なので、心当たりはないです」

被告人は感情の制御が困難な場合があるのか。事件がストーカー系であるところに、被告人のキャラが加わって、地裁へ公判請求となったのかも。

裁判官はこんなことを尋ねた。

裁判官 「お孫さんには事件のことを話してあるんですか」

証人  「悪いことをしたので警察の人に捕まったと…。(孫は)泣いてました」

裁判官 「そのことは娘さん(被告人)には伝えましたか?」

証人  「い~え、話してないです」

15時46分、被告人質問。

弁護人 「なぜ脅迫を?」

被告人 「お金、受け取ってくれなかったので、返そうと…」

弁護人 「やり過ぎでは?」

被告人 「そう思います…迷惑かけたなと思います」

今後は介護ヘルパーの仕事をするのだと言わせ…。

弁護人 「娘さんに対しては今回の件を…」

被告人 「…………(泣き出し)年頃なんで…(聞き取れず)…と思ってます」

弁護人 「最後に何かお話ししたいこととかあれば」

被告人 「被害者の方にはほーんとにご迷惑をかけたなと(泣)…今後は絶対にこのようなことがないよう…(泣)」

弁護人 「終わります」

弁護人(長身の年配)は2分で終えた。早っ! こんなものどう転んだって、罰金か執行猶予付き懲役刑と踏んでるんだろうね。

検察官はこんなことを尋ねた。

検察官 「××さんの家からも(脅迫の)メールを…おうちへ泊まりに行く関係だったんですか?」

被告人 「はい…」

起訴状にあった「被告人方ほか1カ所から」の「ほか1カ所」とはその××さん宅であり、「出会い系サイトで知り合った男性」(甲6号証)なんだという。

検察官 「そのような人ができたなら、もう(被害者へ)メール送る必要がないのでは?」

被告人 「はい…」

検察官 「なぜ?」

被告人 「(被害者と)別れたっていうか、また付き合いができればと思ったので、メール送りました」

うーん、そんなもんなのか。俺はそっち方面はどうも不得手で…。

求刑は懲役8月。弁護人が最終弁論でこんなことを言った。

弁護人 「被害者に実害は生じておらず…(いろいろ述べた後)…身体拘束(=実刑)は被告人の娘の精神に重大な障害を与える…」

29回にわたり「殺す」とかメール送信されても「実害」がないのに、おいおい、そりゃねーんじゃねぇの?被告人の犯行に対する弁護人のこういう「持ち上げ」が、再犯の原因になり得るんでは? と思う俺。

15時07分、被告人の最終陳述。被告人は用意してきた文書を読んだ。

被告人 「危害を加えようとは本当は思っていませんでした…殺すなどという言葉を使用しなくとも…」

ありゃりゃ、弁護人に書いてもらったのを丸写し…な雰囲気がばりばり感じられる文体だった。

判決は5月13日(水)13時20分、423号法廷(20席)と決め、15時11分閉廷。

男と女の色恋沙汰の方面は、俺はなぜ不得手なのか。

今ふり返れば、10代の頃、漫画界の金字塔の1つというべき『空手バカ一代(講談社漫画文庫)』を読みふけり、なんだっけ、

「男が色恋を追うな。己を磨いて突き進めば、その背中に女は惚れるのだ」

といった趣旨の「哲学」に感動したから、かもしれない。結果、女たちは俺の背中に惚れたか? ま、そこは言わずにおこうょ、えーん。

『今井亮一の裁判傍聴バカ一代』 第1488号より一部抜粋
著者/今井亮一
交通違反専門のジャーナリストとして雑誌、書籍、新聞、ラジオ、テレビ等にコメント&執筆。ほぼ毎日裁判所へ通い、空いた時間に警察庁、警視庁、東京地検などで行政文書の開示請求。週に4回届く詳細な裁判傍聴記は、「もしも」の時に役立つこと請け合いです。しかも月額108円!
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