「池袋駅東口乗用車暴走事故」という事件を皆さん覚えていらっしゃるだろうか?昨年8月池袋の繁華街の歩道にベンツで突っ込み多数の死傷者を出したこの事件、単なる居眠り運転と当時は報道されていましたが、実際はそうではなかったようです。被告人である医師が話した、驚きの証言とは…。メルマガ『今井亮一の裁判傍聴バカ一代』で、前代未聞の暴走運転事故裁判の詳細が伝えられています。
医師のベンツ暴走、5人死傷事件
大報道されたんでご記憶の方も多いだろう。以下は昨年8月16日21時59分付けの産経ニュース、速報だ。
東京・池袋の繁華街歩道に乗用車突っ込む 6人けが、2人重体
16日午後9時35分ごろ、東京都豊島区東池袋の歩道に乗用車が突っ込んだ。東京消防庁などによると、この事故で少なくとも6人がけがを負い、うち2人は重体という。警視庁池袋署が事故原因を調べている。現場はJR池袋駅東口に近い繁華街。
これを絶対傍聴しようと、俺は10月から裁判所へ問い合せ続けた。やっと期日が分かった、と思ったら傍聴券抽選になった!
傍聴券抽選は学生諸君などの注目をひく。べつに興味ない者も来ちゃう。そのぶん抽選の倍率が高くなり俺が外れたらどーすんだ。う、訴えてやるっ。
抽選は14時締切、当たり券は33枚。倍率は2~2.5倍くらいだった。なんとか俺は当たり、不穏な事態は回避された(笑)。
一目散に法廷前へ行くと、70歳代と思しきご婦人が熱心に開廷表をメモしてた。傍聴するつもりらしい。声をかけてみた。するとっ、事件に大いに関係する人物から頼まれ、傍聴に来たんだという。裁判傍聴は初めてなんだという。
あら~、可哀想に。俺は職員に交渉した、なんとかこのご婦人を…と。どうやら傍聴できることになったのかな、分かんない。
そのうち別の年配女性が来て、職員に検察庁からの郵便を見せた。やはり関係者らしい。さらに、公的方面なのかスーツの男女が3人来た。
どうしても傍聴したい関係者は、弁護人を通じて席を取り置きさせるとか、並び屋さんを自力で雇うとか、いろいろ手を尽くさねばならぬこと、裁判所の門前およびHPに大きく掲示すべきと思う。
んなことも踏まえて3月17日(木)14時30分~15時30分、東京地裁813号法廷(52席、家令和典裁判長)で「危険運転致死傷」の新件。「危険運転致死傷」だけども裁判員裁判じゃない。
2014年5月20日、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」という新法が施行され、危険運転は2つに分かれた。
従来の危険運転は同法第2条に取り込まれ、その致死または致死傷は裁判員裁判の対象になる。
今回の事件は同法第3条、いわば「おそれあり危険運転」。新法により新たに危険運転とされたが、裁判員裁判の対象事件じゃない。
以下は新法第3条第2項。
自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた者も、前項と同様とする。
前項ってのは、致傷で12年以下の懲役、致死で15年以下の懲役。かなり重い。ちなみに第2条の危険運転は、致傷で15年以下の懲役、致死で1年以上の懲役だ。 ※有期懲役の上限は20年。併合加重でもっと重くなり得る。
医師の言い分は…?
さて、2分間の法廷内撮影(←俺の禿げ頭が映ってる)が終わり、刑務官2人に伴われて被告人が入廷した。
54歳、大柄で、グレーのセーターに黒ズボン、薄い坊主頭で眼鏡、特徴的な顔立ちで、眉間にしわを寄せて文句ありげ~な感じだ。職業を「医師です」と答えた。
検察官が起訴状を読み上げた。昨年8月16日午後9時30分頃、豊島区の池袋で普通乗用車(ベンツ)を運転して帰宅するため地下駐車場から出る際、てんかん発作で意識障害となって突然時速50キロに加速、歩道に佇立(ちょりつ)していた歩行者に次々衝突、1人を死亡させ4人に重軽傷を負わせたのだという。
起訴状の内容に対する意見(認否)は、まず被害者らに対する深い謝罪を述べてから…。
被告人 「衝突させてしまったのは…いつの時点で発作が起きたのか…どのような…全く記憶がありません…私は、てんかんの薬を、医師の指示通り飲んでおり、当日まで発作を起こしたことはありません…(当日は)薬を昼に飲みました…運転を開始した時点で、意識障害が起きるような兆候もありませんでした…そのときまで…おそれがある状態、とは認識していませんでした。以上です」
弁護人 「…長年にわたり医師の処方により抗てんかん薬を服用しており…本件に至るまで、一度たりとも…ような兆候はありませんでした…故意が認められず、危険運転致死傷罪は成立しないと思料します」
ほ~。
検察官の冒頭陳述によれば、被告人は大卒で医師。婚姻歴なし。30年ほど前に髄膜炎に罹患し、その後遺症でてんかんの診断を受けた。
当初は、医師である父親から薬の処方を受けていたが、やがて父親が亡くなり、一般の医療機関へ。
そして、いずれも2013年中に、自宅で水槽を掃除していたら気が遠くなる感じがあり、気がついたら部屋が水浸しになっていたり、飲食店で食事を注文した後、気がついたら電車に乗っていたり、車を4~5時間運転した後に発作を起こしたり。医師からは車を運転しないよう注意を受けてたんだという。なにぃ?
検察官 「被告人は、平成25年(2013年)12月…運転免許の更新をした際、病気を原因として意識を失ったことがあるかとの質問票に、該当しない旨を記入し…」
本件当日、朝は抗てんかん薬を服用し、ベンツを運転して横浜→所沢、寺に参り、趣味の海水魚、熱帯魚を見てまわり、池袋で食事して帰るところだったんだという。走行距離は少なくとも約150km。
甲号証のうち、被害者らの調書は申し訳ないけど省略する。目撃者らの調書は…。
地下駐車場係員 「サービス券を渡してきたので、駐車料無料でゲートを開放し、ありがとうございました…その男は車を発進させず、じっと私の顔を見ていた…焦点が合ってない感じでぼーっと…どうかされましたか? 全く反応がなく…ますます変だと思って、気持ち悪いなと…そのうち後方から車が来たので…身振りでどうぞと出庫をうながした…全く反応がなかった…どうしようかなぁ…その男性は何事もなかったかのように…ゆっくりと車を発進させました…」
目撃者 「(地下駐車場を出たベンツが)右折しかできないのに変なところに停まっているなと注視していた…(運転者は)両目を開けて目が吊り上がり、焦点が合っていない…いきなり大きなエンジン音をあげて急発進…考えられないスピードで歩道に乗り上げました…報道で居眠りだと…いっしょにいた人と顔を見合わせ、絶対に居眠りじゃないよねとお互いに…」
目撃者 「ベンツの窓枠に肘を掛け、両目を開けていろんなところをにらんでいた…ニュースで居眠りと聞いて…このまま居眠りで処理されるのは納得いかず警察に電話した…」
被告人の調書にこんな部分があった。
乙2号 「(抗てんかん薬を)朝の分は飲んでいた…夜の分は、食後、帰宅してから飲もうと…長時間運転して疲労していた…家まで近く、買った魚を水槽に入れたい…サービス券を渡し、スロープを上がり、信号を確認したが色は憶えておらず、そこから記憶がない…」
乙3号 「寝不足、疲れも良くない…気をつけていた…現在の病院に月1回通院し…抗てんかん薬を処方…発作は起きなくなった…医師から当面車の運転をするな…憶えていない…」
とにかく、検察官請求の書証を弁護人がいくつも不同意とし、検察官は追加書証を出すのか、多数にわたるらしい証人をどう絞るか、尋問の日程はどうするか、そのへんを次回、5月13日(金)10時30分~11時に決めるってことで、15時20分閉廷。
どうなんだろ、もしも服薬が1日3回だとして、かなり疲労してたうえ夜の服薬が遅かったなら、「おそれ」の認識があったとされるはず。
「当面車の運転をするな」と医師が言っていたことが立証されればアウトだ…。
弁護人は3人。おそらく私選なんだろう。勝ち目のない争いで期日を重ね、弁護士報酬ばかりが膨らむ…この段階ではそのように思えるけど。
『今井亮一の裁判傍聴バカ一代』
著者/今井亮一
交通違反専門のジャーナリストとして雑誌、書籍、新聞、ラジオ、テレビ等にコメント&執筆。ほぼ毎日裁判所へ通い、空いた時間に警察庁、警視庁、東京地検などで行政文書の開示請求。週に4回届く詳細な裁判傍聴記は、「もしも」の時に役立つこと請け合いです。しかも月額108円!
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