毎回、興味深い(!?)裁判の傍聴記を配信しているジャーナリストの今井亮一さんが今回レポートしてくださったのは…、よそ様のお宅でひとりHをしたカドでお縄となった被告人の法廷。なんというか、悲哀に満ちた「現場」が目に浮かぶようです…。
カーテンなしでHするカップルの部屋でひとりHした男
宇部支部の「裁判所は裸の王様か事件」に3号も費やしてしまった。
宇部支部のついでに寄った山口地裁の本庁でも、興味深いのを傍聴しており、レポートしたいのは山々なのだが、今号は傍聴ほやほやの事件でいこうと思う。
時空を超えて5月26日(火)、9時35分頃に裁判所(東京高地簡裁合同庁舎)着。
今日も今日とて(使用法は「赤色エレジー」参照)、傍聴人がやたら多かった。
普段そんなことを俺はしないのだが、開廷表の行列に並んだ。
俺の今日10時からの狙いは、親子3人で万引きし、逃走の際に警備員にケガを負わせたという事件の、母と娘の第2回公判だ。けど、9時50分から何か興味深い判決があれば、10時から「重過失傷害」とか「公務員職権濫用」とか最優先の新件があれば、と。
そしたら…。
10時~11時、東京簡裁534号法廷(20席、青木正良裁判官)で「住居侵入」の新件。
なぜか惹かれて、急遽これを傍聴することにした。傍聴人は俺1人、よしっ。
被告人は身柄(警察留置場)、水色の半袖Tシャツ、35歳。なんか迫力がなく弱々しい感じがする。ホームレス? と思いきや、仕事も住居もちゃんとあるのだった。
4月15日付けの起訴状を検察官が読み上げた。
検察官 「正当な理由がないのに、平成27年(※2015年)1月6日午前8時30分頃から同日午後11時頃…○○区…メゾン○○206号、○○○○方に、無施錠の南側窓から侵入したものである」
○○○○は男性氏名。てことは、下着ドロ方面じゃないのか? 同性愛関係のもつれ? いろんな妄想が俺の脳内をかけめぐる。
検察冒陳と書証(全部同意)の要旨告知により、事件の概要が分かってきた。乙3号証は被告人の調書。
乙3号 「以前、(被害者宅を)南側のアパートから覗き見したことがある…カップルが住んでいる…掃き出し窓にカーテンがなく、下着を干しているのがよく見える…」
なんと大胆な。引っ越し後、カーテンを買わないまま暮らしてたんかね~。
乙3号 「覗いたら、セックスしていた。衝撃的でとても興奮した…」
マジですか! そりゃ興奮するわ!
んで昨年の夏、無施錠の掃き出し窓から侵入し、室内にあった女性下着で自慰行為をしたんだという。しかし下着を盗まなかった。なぜ?
乙3号 「盗まないのは…窃盗になるから…(室内で)写真を撮ったり自慰行為をしたり…」
被告人は前科1犯。2002年に「住居侵入、窃盗」(下着ドロ)で懲役1年6月、執行猶予3年の刑を受けてるんだという。
本件犯行日である今年1月6日…。
乙3号 「年末だから帰省して(部屋に)誰もいないのではないか…入って自慰行為をしたい…冬なので手袋をして、ベランダに乗り移り…誰もいない…(机の上に自分の)携帯電話を立てかけ、室内を照らすように…」
室内の電灯は点けなかったんだそうだ。
乙3号 「カーテンレールに下着…ブラジャーとパンティ…手にとって…ベッドに座って自慰行為を…射精はティッシュへ…ティッシュは上着のポケットへ…」
被害者つまりその部屋の住人は、会社員で、12月29日から1月5日まで実家へ帰省していた。そんなに休めるとは、どんな会社なんだろ。
甲1号証は被害者の調書。
甲1号 「掃き出し窓…クレセント錠…普段からかけていない…」
>>次ページ なんてこった! 犯人が特定されたマヌケな理由とは?
1月5日の夕方、アパートへ戻り、翌6日は午前9時30分頃に出勤。新年会を終えて午後11時頃に帰宅した。
起訴状では、出勤のためアパートを出た午前8時30分頃から帰宅した午後11時頃までを、犯行時刻としてるわけだ。
もちろん、被告人は犯行時刻について自白したろう。でも自白だけで公訴事実を特定することはできないから、こういうことになる…のかな。
甲3号証も被害者の調書。
甲3号 「(帰宅して)電気を点けようとすると、机の上に光るものが…」
それは携帯電話だった。
被害者は、留守中に彼女(交際女性)が来て置き忘れたのかと、電話してみた。が、彼女は実家にいた。そこで警察に通報…。
甲3号 「何も盗られていない…物色された跡もない…警察官が、彼女の下着は大丈夫ですかと…彼女に確認…数が多くて分からない…おそらく(下着は)なくなっていない…」
警察は、遺留された携帯電話を解析。すると被告人が持ち主と判明し…。なんてこった。
書証の要旨告知が終わり、裁判官が言った。
裁判官 「朝8時30分頃から…被告人がその日、勤務していたのは明らかですので…勤務していれば…」
そういえば、乙3号証にこんな部分があった。
乙3号 「あわてていたため携帯電話を残してしまった」
被告人は勤務を終えてから本件犯行をやり、そしたら被害者が帰宅する気配があり、あわてて焦って掃き出し窓から逃げたのか。
それはともあれ、被告人の勤務時間を除いて犯行時刻を特定するほうが適切だ。
検察官 「はい、おっしゃるとおりです。訴因変更を考えます」
そして…。
検察官 「追起訴が1件…今月までには追起訴を…」
裁判官 「どんな事案ですか」
検察官 「同じ…侵入盗…被害場所は同じです」
被告人宅を家宅捜索したら、女性下着とか出てきて、追及したら本件被害宅から(別の日に?)盗んだと自白…そんなことなのかな。
次回は5月23日(火)10時からと決め、10時18分閉廷。
それから俺は、前述の「母と娘の第2回公判」(10時~11時)へは行かず、1階へ下りて開廷表をメモった。そうして…。
- 新法第3条1項、おそれあり危険運転致傷
- 周到かつ大胆な盗撮
- 妻の親族である17歳女子を、妻子が寝てる隣の部屋で強姦等した事件
- 運転免許取消処分取消請求の本人尋問
- アパートの隣室へ侵入しての強姦
- 万引きの否認
を次々傍聴したのだった。
どれも興味深い事件ばかり。次号でどれをレポートしよう、山口地裁のレポートはどうすんだ、悩む…。
『今井亮一の裁判傍聴バカ一代』 第1497号より一部抜粋
著者/今井亮一
交通違反専門のジャーナリストとして雑誌、書籍、新聞、ラジオ、テレビ等にコメント&執筆。ほぼ毎日裁判所へ通い、空いた時間に警察庁、警視庁、東京地検などで行政文書の開示請求。週に4回届く詳細な裁判傍聴記は、「もしも」の時に役立つこと請け合いです。しかも月額108円!
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