6月23日に行われる「EU離脱の是非を問う国民投票」を前に、イギリス国内はこの話題で持ち切りとなっています。無料メルマガ『出たっきり邦人【欧州編】』では、ロンドン在住の日本人・藤隼人さんが、今まさに目の前で起こっている「Brexit=EU離脱問題」について、独自の見解を交えながら詳しくリポートしてくださいました。
街角の風景 Brexit
今現在、欧州で大きな焦点の1つとなっているのは英国が欧州連合(EU)にとどまるかどうかで、これは「Brexit」(英国のEU離脱)問題として大きな波紋を引き起こしています。スコットランドによる英国からの独立や、カタルーニャ州のスペインからの独立以上に大きな問題と言えるでしょう。
巨額な拠出金の割りにEU内で正当な配分を受けていないとの不満が英国内で根強い上、シリアなどからの難民増加へのEUの対応の不備に対する疑念の高まりを反映して、残留を目指すキャメロン首相率いる英政府は他のEU加盟国から譲歩を引き出そうとしてきました。こうした努力が実ってからある程度の譲歩についての言質をEUから得たキャメロン首相は6月23日にEU残留・離脱をめぐる国民投票を実施することを決めました。
第三者の目からするとどうも、残留派、離脱派ともに歯がゆい展開を繰り広げています。残留派は経済的や自由の移動などの利点を強調する一方、離脱派は域外での経済繁栄のほか、経済政策と外交政策の自主性を謳い、かなり楽観的な見方を示しています。双方ともに自分たちの主張を支えるため、都合の良い数字を利用しているような感じを受けます。
英調査機関YouGovが14日公表した世論調査によれば、残留派が40%、離脱派が39%、投票しないまたは立場を決めていない人たちは21%となっています。
こうした主張を真に受けているかは分かりかねませんが、多くの一般市民がそのまま吟味せずに考えを受けているような印象があります。大英帝国時代ならまだしも国際化が進んだ現代世界で、EUの一部である有利性をないがしろにする意見には疑問を感じます。国境での検査を経ずに移動の自由を保障するシェンゲン条約に加盟していないことから違法移民が大量に押しかけてくることはまずなく、逆に他のEU加盟国に暮らす同胞のことはまったく無視しているように見受けられます。EUへの拠出金は多いでしょうが、経済・政治・金融面で大きな恩恵を受けていることは疑うことのできない事実です。
これまでEU残留を支持する観点から話しを進めてきましたが、万が一離脱することになったらどうなるのでしょうか? 残念ならが離脱派はこの点において明らかな将来像を描くにはいたっていません。あくまでEUから主権を取り戻すことが目的でどのように国家を運営するかにまで考えが及んでいないかのようです。
ノルウェーなどはEUに対抗するため、欧州経済地域(EEA)を設立・運営してきました。EEA加盟国であるノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインはEUに加わることなく、加盟国とほぼ同様の扱いを受けています。また、スイスはどこにも属さず一連の条約によりEUと複雑な取り決めをしています。とりわけ英国は欧州でも1、2を争う経済規模であることからEU離脱を決めても完全に袂を分ける事態には発展することはないでしょう。
エコノミストではないため具体的な経済的な影響は分かりませんが、現実的に考えてEU離脱はないでしょう。たとえもし起こったとしても英国に与える影響はそれほど大きくなく、双方にとっての大きなマイナス材料はいずれも国際社会における影響力が薄まることになると個人的には見ています。
英国民が欧州統合への道を進むか、それとも孤立を選ぶのか見ものですが、世界大戦を2度も引き起こす原因となった欧州諸国で、統合という形で域内での対立を未然に防いできたことを鑑みて、健全たる良識が将来的な不透明感を拭い去ることを祈るばかりです。
著者/藤隼人(「街角の風景」連載。イギリス・ロンドン在住)
米国に長年住んだあとに意を決して帰国したものの、ちょっとした縁からロンドンに移住。欧州の歴史や文化に惹かれた著者が、東西奔放し欧州の今を多角的な観点からお伝えします。日本ではあまり知られていない音楽シーンなどもぜひ紹介していきたいと思います。
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