カー用品店最大手「オートバックス」がここ数年、かなりの苦戦を強いられているようです。「若者の車離れ」が原因と見る向きもありますが、それだけで片付けるのは疑問が残ると言うのは無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』の著者・佐藤昌司さん。オートバックスに足りないものは一体何なのでしょうか? 低迷の原因を探ります。
業績低迷のオートバックスに課せられた課題
本日のテーマはオートバックスの事例に見ることができる「店舗環境の重要性について」です。
オートバックスセブンは、5月の国内全店売上高が187億4,600万円(前年同月比4.0%減)、客数は293万5,000人(5.1%減)と発表しました。土日祝日日数が前年比で1日減ったこと、軽自動車を中心に新車販売台数が減少したことなどを理由として挙げています。
オートバックスセブン(以下、オートバックス)はカー用品店最大手のチェーン店です。しかし、業績は低下傾向にあります。直近の10年で見てみると、2007年3月期の売上高は2,425億円、本業の儲けを示す営業利益は122億円ありましたが、16年の売上高は2,081億円、営業利益は67億円にまで低下しています。
カー用品はその特性上、自動車の需要台数に大きな影響を受けます。自動車の需要があればカー用品が売れるという図式です。
ところで、若者を中心に車離れが進み自動車の需要が低下しているという認識が広がっていると言われています。それに合わせて、カー用品市場が縮小傾向にあるとも言われています。
自動車の需要は減っていない?
ただ、私はそういった認識には疑問を感じています。90年代やそれ以前と比べれば、現在の自動車の需要台数は低下していることには間違いはありません。しかし、直近の10年で見てみると、自動車の需要台数は必ずしも低下しているとは言えないからです。
日本自動車工業会が発表している、直近10年間の「自動車需要台数推移」を確認してみます。06年561万台、07年531万台、08年470万台、09年488万台、10年460万台、11年475万台、12年521万台、13年569万台、14年529万台、15年493万台となっています。上下はあるものの、おおむね横ばい圏で推移していることがわかります。
自動車需要の推移から、カー用品市場が縮小傾向にあるとは言えない状況にあります。そういった中でオートバックスの収益が低下している最大の理由は、競合に顧客を奪われていることにあるでしょう。イエローハットなどの競合に押されているのです。
業界2位のイエローハットの業績は好調に推移しています。リーマンショックの影響で09年3月期の売上高は896億円にまで落ち込みましたが、その後は一貫して上昇しています。16年の売上高は1,259億円となっています。
顧客の奪い合いが激化している
オートバックスの競合は、イエローハットなどの同業者だけではありません。カーディーラーや家電量販店、ホームセンター、ネット事業者、ガソリンスタンドなど多岐に渡ります。業界を超えた競争を見据えていかなければならないのです。
若者の車離れは加速しています。一方で、女性やシニア層の免許の保有率は上昇傾向にあります。女性とシニア層の取り込みがカギとなるでしょう。今までのような若者向けの品揃えや店舗空間では女性やシニア層を取り込むことはできません。パラダイムの転換が必要です。
では、カー用品店が今後採るべき戦略には何があるのでしょうか。私は、同じくカー用品を扱うジェームス唐木田店が具体的なモデルになると考えています。ジェームス唐木田店は従来の「男性若者御用達のカー用品店」とは一線を画しています。女性や子供、シニア層でも気軽に利用出来るカー用品店です。
従来の店舗と違うのは、飲食ができる「カフェコーナー」や子供が遊べる「キッズコーナー」、シニア層や買い物をしない人でもくつろぐことができる「リラクゼーションコーナー」など、カー用品販売コーナー以外のスペースを充実させていることにあります。
店内には観葉植物が置かれていたり、ウッド仕様の棚にタイヤを陳列したり、通路スペースを大きく確保したりしています。女性の店員比率が高いのも特徴的です。私が訪れた時の店内の店員は女性3名、男性1名でした。店内は清潔感がありました。
ファミリーでの来店が多く、女性や子供、シニア層の来店が多かったのですが、かといって、男性の若者が少ないというわけではありません。男性の若者も取りこぼさずに、女性やシニア層を取り込んでいました。
気軽に立ち寄れる店舗環境の構築が必要
オートバックスがジェームス唐木田店のような施設や設備といった「ハード」を同様に投入することは難しいでしょう。ただ、女性やシニア層が来店しやすい雰囲気や店舗環境を構築することは難しくはありません。そのためには、接客サービスといった「ソフト」が重要になります。女性やシニア層、自動車に詳しくない人でも気軽に来店できるようにするべきです。
私見的要素が強くなりますが、カー用品店の接客サービスは改善の余地が大きいと考えられます。おそらく、カー用品は専門性が高い製品特性があるため、製品の説明だけをしっかり行えばいいという考えが蔓延していたのではないでしょうか。笑顔での接客や丁寧な接客といったことは疎かになっていたと考えられます。そのため、それに嫌気を感じた客がカーディーラーや家電量販店などに流れてしまったのでしょう。
オートバックスは10年5月に「中期経営計画」を発表し、「接客・接遇を強化」を盛り込みました。14年4月の「中期経営計画」には「顧客価値の再構築による競争優位性の確立」を盛り込んでいます。15年7月には「2014年 中期経営計画」の見直しが行われましたが、事業戦略骨子に「お客様とつながり続ける関係の構築」という文言が加わりました。
同社の中期経営計画からは、「接客サービスの強化なくして業績の回復はない」という認識を強く感じ取ることができます。認識は間違っていません。ただ、認識に実態が追いついていないというのが現状のようです。まだまだ取り組みは十分とは言えない状況でしょう。気軽に立ち寄ることができる雰囲気と店舗環境の構築が急務となりそうです。
image by: Wikimedia Commons
『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』
著者/佐藤昌司
東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。
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