先日掲載の記事「南シナ海裁定で完敗した中国、世界の『判決を支持』反応に逆ギレ」の中で、「中国は自ら孤立の道を選択している」とした国際関係アナリストの北野幸伯さん。そんな北野さんに対して「フィリピンの新大統領は親中派、よって中国は孤立などしない」という意見が読者から寄せられました。はたしてそれは正しいのでしょうか。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で北野さんが反論・検証を展開しています。
中国、脅迫外交で、親中フィリピンを敵に回す
RPEでも2回取り上げましたが、仲裁裁判所は、「南シナ海における中国の主張には、まったく根拠がない!」とする判決を下しました。この判決を日本、アメリカ、インド、ベトナムなどが歓迎した。しかし、当の中国は逆切れ。「仲裁裁判所の判決が間違っている!絶対従わない!」と宣言した。
こういう中国の態度では、「国際的にますます孤立していく」と、常識的な結論を書きました。ところがその後、複数の読者さんから、「北野さん、中国は孤立なんてしていませんよ! 仲裁裁判所の判決なんて大したことではありません!」との意見をいただきました。皆さん、その根拠は同じです。
- 中国を仲裁裁判所に訴えたフィリピンで政権が交代した。
- 6月30日、反中のアキノ大統領から、親中のドゥテルテ大統領にかわった。
- ドゥテルテ大統領は、領有権問題について中国と「二国間協議」する意向を示している。
- だから、仲裁裁判所の判決は、無意味である。
そう、フィリピンでは、親米反中のアキノさんから、反米親中のドゥテルテさんに大統領がかわった。それで「仲裁裁判所の判決は、無意味なのだ!」と。ところが…。
※ ちなみに今回の話は、「続報」になります。まずこちらからご一読ください。
→「南シナ海裁定で完敗した中国、世界の「判決を支持」反応に逆ギレ」
フィリピン、中国との二国間協議を拒否
中国の「希望の星」であるドゥテルテ新大統領。早速期待を裏切りました。なんと、早々に「中国との二国間協議」を拒否したのです。
比大統領「中国と交渉しない」=南シナ海領有権、譲歩せず
時事通信7月19日(火)22時37分配信
【マニラ時事】フィリピンのドゥテルテ大統領は19日、米議会代表団とマニラで会談し、南シナ海の領有権問題で中国と交渉する計画はないと明らかにした。大統領は、南シナ海問題をめぐる12日の仲裁裁判所の判決を受け、領有権問題で特使を派遣するなどして中国との対話解決を模索したが、改めて譲歩しない強気の姿勢を示した形だ。
会談に参加したクリス・マーフィー米上院議員のツイッターによると、会談でドゥテルテ大統領は南シナ海問題で中国と交渉する計画はないことを表明。また南シナ海の主権に関しては中国と取引せず、フィリピンの全面勝訴に終わった仲裁判決について「交渉の余地はない」と指摘した。
仲裁判決について、「交渉の余地はない!!!」そうです。なぜ、こんなことになったのでしょうか? 実をいうと中国の「自業自得」なのです。
南シナ海問題 フィリピンは中国との協議拒否 王毅外相が持ちかけも「仲裁裁定無視が前提だった」
産経新聞7月19日(火)20時36分配信
【シンガポール=吉村英輝】フィリピンのヤサイ外相は19日、南シナ海問題に関する二国間協議を中国の王毅外相から持ちかけられたが、「仲裁裁判所の裁定を無視する」ことが前提条件だったため拒否したと明らかにした。地元テレビのインタビューに答えた。
「仲裁裁判所の裁定を無視する」ことが前提条件…。フィリピンからすると、「ふざけるな!」ですね。仲裁裁判所で勝利し、国際的に「中国の主張は、インチキ。フィリピンの主張は、全面的に正しい!」と認められた。だから、国際社会は、「フィリピンと中国の領有権問題があるところは、フィリピン領である!」という認識になった。フィリピンが完全に有利な状態にあるのに、不利な立場にいる中国は、「仲裁裁判所の判決を無視することが二国間協議の前提条件だ!」という。フィリピンからすれば、「別に交渉する必要はない。国際社会は、フィリピンが正しいことを認めているのだから」となるに決まっています。しかも、中国の態度は、非常に「問題あり」でした。
ヤサイ氏は、先週に行われたアジア欧州会議(ASEM)首脳会議へ出席するため訪れたモンゴルで、王毅氏と対談。「フィリピンの憲法や国益、国際法のルールにそぐわない」と、裁定を無視した二国間協議の提案を拒否したとした。
王毅氏からは「仲裁裁定に言及しそれに沿った議論をするなら、(両国は)敵対することになるだろう」と圧力を受けたという。
(同上)
「仲裁裁定に言及しそれに沿った議論をするなら、(両国は)敵対することになるだろう」
これは、中国の外相が、フィリピンの外相を「脅迫」したのです。脅迫されて、「すいません、仲裁裁判所の判決は二度と口にしません!」となりますか? 普通に考えれば、「マフィアみたいな中国と組むのはやめて、アメリカに走ろう!」となるでしょう。
世界の大局は?
実際、世界では今、ほとんどすべての国が、「アメリカにつくのがお得かな? 中国につくのがお得かな?」と迷っている状態。
09年から、中国の影響力は急上昇しつづけ、15年3月「AIIB事件」の頃がピークでした。要するに、みんな「チャイナマネーがほしい」ということです。ところが、つきあいはじめてみると、中国は、いわゆる「素行が悪い成金」である。中国経済が急減速している事実もあって、世界における「中国離れ」が加速しています。もちろん、アメリカもボロボロ。「AIIB事件」で、日本以外誰もアメリカのいうことを聞かないことが明らかになった。
しかし、現状を見ると、「中国離れ」のスピードのほうが速いです。その主な理由は、「中国自身」にある。「脅迫すれば小国は従う」というのは、まったく甘い考えです。中国が唯一の超大国なら、ある程度有効かもしれませんが。今なら、「中国は怖いから、やっぱりアメリカに頼ろう」となるでしょう。
というわけで、中国。稚拙な外交で、せっかく誕生したフィリピン親中政権をアッという間に「反中」にしてしまいました。しかも、中国は、「自分に問題があること」にまったく気づいていません。気がついて言動を変えなければ、共産党の一党独裁体制も長くないでしょう。
image by: Wikimedia Commons
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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