7月28日に日銀がETF(上場投資信託=株と同様、自由に売買できる信託投資)の買い入れをこれまでの3兆円から6兆円とする金融の追加緩和を決定しました。しかし、メルマガ『国際戦略コラム有料版』の著者・津田慶治さんはこれについて「追加緩和手段が限界に達したことを示すもの」であるとし、我が国を真の再生に導くのは「新自由主義からの脱却」であり、それには経済政策ではなく構造改革こそが必要だと論じています。
経済政策を構造改革へシフトする必要
日銀の金融緩和も欧米の新自由主義も行き過ぎると利点より欠点が目立ち、その欠点を克服するために、もとに戻ろうとする力が働く。その検討。
現状
日銀が量的緩和を7月28日に決めたが、内容は「ETFについて、保有残高が年間6兆円に相当するペースで増加するよう買い入れを行う」という、ETFの買入れ額をほぼ倍増させるというものであった。今回の量的緩和でヘリマネの導入も予想されていたが、国債買取の量を増やさずに、ETFの増額だけであった。
しかし、この追加緩和は、追加緩和手段が限界に達したことを示すものであり、マイナス金利も銀行の経営を危機に落とすと、深掘りをしなかった。
そして、3年の量的緩和で、物価が上昇したかというと、ほとんどゼロであり、この量的緩和は効果が無かったことを示したことになる。とうとう、去年の消費税を8%に上げてから1年以上もなり、それを原因ともできなくなってしまった。ということは、より根源的な問題があるのだ。
世界全体の景気が落ちたか横ばいの状況で、米国以外の先進国の中央銀行が量的緩和をしているために、円安どころか円高に向かっている。米国も横ばい状態で金利を上げることができない。
量的緩和での円安は限度に来て、円高のために企業収益は減益になってきた。3年の猶予をもらいながら、アベノミクスは何をしたのであろうか? と英国エコノミストは、アベノミクスの失敗を宣言している。
とうとう、金融緩和が行き過ぎて、持続不能状態に陥り、今後日銀もテパーリングに向かわないと、買う国債がなくなる事態になっていく。そろそろ、次の手を考えることが必要であり、一時しのぎの金融政策でもなく財政政策でもなく、日本社会の構造改革を行わないと景気は、よくなることはないし、物価も上昇しない。
今の社会の問題点は、人口減少と少子高齢化のダブルでの問題と、新自由主義での貧富の差が拡大して、15%の大企業社員とその他大勢との格差が出て、消費が伸びないために、景気は横ばいになっている。
その上に、円高で大企業も減益になり、これ以上の賃金UPはできなくなる。このため、全体的な消費も落ち、デフレ経済に逆戻りする方向であるが、その対応策は今までの延長の政策ではない。この3年間で真の問題への構造改革を行わなかった結果が、今の景気を作り、そして対策として、ヘリマネという毒薬を使う提案が官邸周辺では囁かれている。
しかし、それは突然の金利上昇、円安、ハイパーインフレになる可能性が有り、起これば、2度と日本は世界の大国としての地位を維持できなくなる。余りにも危険な政策であり、現状でも危険なのにより一層のリスクを犯すことになる。
欧米の問題
欧米でも同様に、サッチャーが始めた新自由主義による規制緩和で市場主義を取る経済活性化の欠点が大きなくなり、その結果が英国EU離脱を招き、米国のトランプ大統領候補が出てきたのである。新自由主義での貧富の差が拡大して、富者が1%に対して貧者が99%となり、民主主義で貧者の不満が得票になり、富者の利益代表にNOを突きつけているのだ。
このように、新自由主義の上に、2008年のリーマンショックを乗り越えるために、景気刺激策として金融政策をとってきたが、それが行き詰まり状態になったのが今の時点であり、この先、違う経済社会政策を取らないと、複雑骨折した社会問題を解決できないのである。
もう1つが、米国で量的緩和による資産バブルが大きくなり、それが崩壊の可能性も出てきたようである。FRBが金利を上げたいとしていたのは、資産バブル崩壊の危険を認識していたからであるが、その危険が出てきたようである。
解決策
新自由主義がなぜ、英国でサッチャーが行ったかというと、社会保障政策や国民を保護するための規制が多数あり、それが企業活動を妨げていたからである。規制の根本には国民の保護が有り、それが企業活動にとっては邪魔になっていたから、それを取り、外国企業への規制も緩和したことで英国への投資が増えたのである。
このため、英国ロンドンは欧州の金融ハブとしての地位を確立できたのであるが、これで利益を得るのは、金融の大手企業に就職できるエリートであり、庶民は置いてきぼりにされたのである。
その上に、量的緩和で金融資産、不動産資産の価格上昇で、金持ちだけが得をすることになり、とうとう、英国の庶民が怒って英国のEU離脱になったのである。同様なことが米国でも起こっているので、トランプ氏が共和党の大統領候補になったのだ。
このようなことが、日本でも起きて、量的緩和で、株価は7,000円から一時2万円になり、同様なことが起きているのである。
この解決は、再度、国民の多くが利益や保護を得ることができることであり、新自由主義とは逆な方向になる。その良い例が日本のタクシーでの規制緩和で、タクシー車両台数が大幅に増加して、運転手の手取りが大幅にダウンしたことで、規制を復活している。
このように働く人の立場も考慮した規制緩和を行わないと、貧富の差が広がることになる。働くものを守る規制も必要なのである。
ムダや問題になっていることを解決する規制緩和でも、国民に取り損得を考えて、規制緩和を行わないといけないし、過去の規制で、時代に取り残されることもいけない。ITの利用で、大きく時代は変化しているからである。
解決としては、量的緩和ではなく、少子高齢化、人口減少などの構造改革に寄与する政策を早急に行い、日銀や政府の財政政策を早く止めることができようにする必要がある。
もう1つが、貧富の差を拡大しないように、分配の調整を行う必要がある。富者から税金を取り、貧者に配ることは重要な政策である。これにより、過度な貧富の差が生まれないようにすることである。
それと貧者の仕事でも生活給が稼げるようにしないといけない。国民を15%の富者と85%の貧者に分断すると、民主主義では、貧者の反乱が起きて、富者の利益を損ない、それは国全体の利益も失う事になる。
中庸が必要
社会の利害が入り組んでいるので、徐々に変革していくことで、早く問題点を見つけて、対処することが必要であり、極端に振れる時は、弊害は何かを見る必要だある。
論語に、中庸という観念があるが、極端に触れずに徐々にバランスを取りながら社会構造を変革していくことである。
欧米社会は、極端な政策に振れてしまうことが多いので、そのときは徐々に日本は変革して、欧米の様子を見ていて、弊害を早く見つけて、その部分を修正した政策にして、実施することである。
新自由主義も、竹中さんが積極的に推進していたが、多くの日本国民の抵抗で徐々にしか実行できなかったので、欧米が問題点を明確化させてくれたのである。これで、日本国民は新自由主義から脱却できるのである。国民全体の富をアップする新自由主義前の政策に戻れることになる。
中庸が重要であるということである。
さあ、どうなりますか?
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『国際戦略コラム有料版』より一部抜粋
著者/津田慶治
国際的、国内的な動向をリアリスト(現実主義)の観点から、予測したり、評論したりする。読者の疑問点にもお答えする。日本文化を掘り下げて解析して、今後企業が海外に出て行くときの助けになることができればと思う。
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