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ブラック苦境のワタミ、倒産寸前どころか奇跡の業績回復へ

女性社員の過労自殺や創業者の耳を疑うような発言などですっかりブラック企業のイメージが定着、一時は倒産秒読みとまで囁かれたワタミ。5月にはコーポレート・アイデンティティを刷新し「脱ブラック企業」を高らかに宣言しましたが、その業績に回復の兆しは見られるのでしょうか。無料メルマガ『ビジネスマン必読!1日3分で身につけるMBA講座』の著者でMBAホルダーの安部徹也さんは、先日発表された同社の決算書を読み解きつつ、ワタミの今後を占っています。

ワタミが2017年3月期中間決算を発表! その中身は?

11月10日、ワタミの2017年3月期中間決算が発表されました。売り上げは、前年同期から30.6%減の483億円。本業の儲けを表す営業損益が11億円の赤字、そして最終損益は14億円の赤字という結果になりました。

数字だけ見れば、ワタミの業績はまだまだ厳しいものの、赤字額は前年同期に比べて改善しており、回復の兆しが見てとれます。果たして、ワタミの今後の経営はどうなっていくのでしょうか? さらに詳しく公表された決算書を分析しながら、予想していくことにしましょう。

ワタミの資金繰りは大丈夫?

経営危機が取り沙汰されてきたワタミですが、まずはキャッシュフロー計算書を分析して、資金繰りがどうなっているのかを確認してみましょう。

2017年3月期の中間決算で、どのくらいワタミが営業活動でキャッシュを生み出したかを確認すると、11億円ほど営業関係でキャッシュが流出したことがわかります。


また、投資活動によるキャッシュフローでは55億円のマイナス、そして財務活動によるキャッシュフローは多額の借入金を返済して37億円のマイナスに終わっています。つまり、ワタミはこの半年間で「11億円+55億円+37億円=103億円のキャッシュが消えてなくなった」ことを意味します。ワタミは、介護事業を売却して200億円を超えるキャッシュを手にしましたが、2017年3月期の中間決算期末には、そのキャッシュも大きく目減りして残高が85億円まで落ち込んでしまったのです。

通常、健全な企業であれば、営業キャッシュフローはプラスとなり、営業で得たキャッシュを将来の成長のための投資に回すために投資キャッシュフローはマイナスとなります。そして、営業キャッシュフローだけで投資負担を賄いきれなければ、金融機関などから資金を調達して財務キャッシュフローはプラスになったり、もし投資しても余るようであれば借入返済を行って財務キャッシュフローはマイナスになったりするというパターンです。

また、ちょっと雲行きの怪しくなった企業であれば、営業キャッシュフローがマイナスに陥り、事業資金をこれまで投資した資産を売却することによって賄うようになるので、投資キャッシュフローがプラス、そして金融機関などは貸付の回収に走るので財務キャッシュフローはマイナスというパターンが典型的です。

ところが、ワタミの場合、すべてのキャッシュフローがマイナスになっています。これは、この半年間でキャッシュが湯水の如く流出し危機的な状況に陥っていることを意味します。早く止血しなければ、早期にキャッシュは底をつき、事業継続を断念せざるを得ないような事態に追い込まれることも想定されます。

ただ、さらに細かくキャッシュフロー計算書を分析していけば、そこまで深刻な事態ではないことがわかります。

たとえば、営業キャッシュフローのマイナス要因は税金の支払です。金融機関に支払った借入利息や税金関係の支出を除けば、ワタミの営業キャッシュフローは7億円のプラスになっています。支払利息は前年同期比10億円以上減っていますし、支払うべき税金も減少が見込まれるので、今後の営業キャッシュフロー大きく改善することも期待できます。

また、投資キャッシュフローについては、55億円のうち、47億円は定期預金の作成によるものです。つまり、実際にキャッシュが流出したわけではなく、定期預金という形で銀行に預けられただけなので、実質の投資キャッシュフローのマイナスは8億円程度にとどまっているということもできるでしょう。

そして、最後の財務キャッシュフローのマイナス分は大半が借入返済であり、借入の元本が大きく減少した影響で、支払利息も大きく減少し、今後は営業キャッシュフローの大幅な改善に大きく寄与することにつながるでしょう。

このような分析から、今後はワタミのキャッシュフローは大きく改善していくと見込んでもあながち間違いではないといえるのです。

ワタミの問題点はどこにあるのか?

続いてワタミの事業のどこに問題点があるのか、もう少し細かく見ていくことにしましょう。

ワタミは、現状5つの分野で事業を展開しています。その5つとは、「国内外食事業」「宅食事業」「海外外食事業」「環境事業」「農業」です。

ここでは、主要な「国内外食事業宅食事業」を見ていきます。

国内外食事業は「和民」を始めとした居酒屋事業ですが、売り上げは229億円で、9億円弱の営業損失に終わっています。居酒屋業界自体が縮小傾向にあることに加え、ブラック企業批判で「ワタミ」ブランドが消費者に敬遠されてきたことから、依然として厳しい状況といえるでしょう。

ただ、現状「和民」を「ミライザカ」へ、そして「わたみん家」を「三代目鳥メロ」へと業態転換を加速していて、「ミライザカ」や「三代目鳥メロ」は低価格の焼鳥などが好評で業績の底上げに貢献していると決算説明で述べられています。実際に当期は9億円弱の営業損失が発生していますが、前年同期の営業損失は16億円弱であり、大幅な改善が見てとれることは確かです。

一方、宅食事業の売り上げは176億円と前年同期に比べて7%ほど減少しましたが、営業利益は9億円を超えて大幅な伸びを記録し、現状ではワタミの屋台骨を支える存在となっています。

このように事業を細かく分類してみると、現状ワタミの足を引っ張っているのが外食産業ということがわかります。先ほどもお伝えしたように、ワタミに限らず、現状居酒屋という業態自体が全般的に不振のうえに、「ワタミ」ブランドが大きく傷ついてしまった今では、なかなか外食事業の業績を急回復させることは難しいといえます。そこで、ワタミが外食事業の業績回復を目指して力を入れているのが新業態への転換というわけです。

ワタミは、「ミライザカ」や「三代目鳥メロ」といった「ワタミブランドを感じさせない新たなチェーン店の出店攻勢をかけています。その背景には、ブランドが失墜し、顧客の信頼を失えば、元に戻すまでに想像を絶するような努力が必要になってくるという事実もあることでしょう。傷ついたブランドは捨て、新たなブランドを立ち上げた方が同じ売り上げを上げるにしてもハードルは低くなるのです。

加えて、「鳥貴族」など低価格帯の居酒屋業態はまだまだ成長分野であることを考えれば、同じような業態の「ミライザカ」や「三代目鳥メロ」には大いなる可能性があります。そこで、新業態への転換がさらに進めば、現状不振の国内外食事業も立ち直ってくることが見込まれます。このような業態転換に力を入れるワタミの方向性は正しいといえるでしょう。

昨年、虎の子の介護事業を売却し、200億円を超えるキャッシュを手に入れたワタミ。この資金が続く限りはワタミも持ちこたえられますが、この半年で手にしたキャッシュのおよそ半分、100億円以上が流出してしまったのも事実です。ワタミ生き残りの鍵となるのは、いち早く新業態を大きな柱にして外食事業の赤字を解消し、事業の安定化を図ることができるかどうかにかかっているといえるでしょう。

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著者/安部 徹也
テレビ東京『WBS』への出演など、マスメディアで活躍するMBAホルダー・安部徹也が、経営戦略やマーケティングなどビジネススクールで学ぶ最先端の理論を、わかり易く解説する無料のMBAメルマガ。
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