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買収が生んだ破産劇。トランプ氏「プラザホテル」への異常な愛情

米国の新大統領に就任したドナルド・トランプ氏。日本のマスコミでは「不動産王トランプ」などと、出馬前は敏腕ビジネスマンとしての経歴を紹介することが多かったのですが、実は過去に4度も破産を経験していたことはご存知でしょうか? 2月5日創刊の有料メルマガ『「ニューヨーカーたち」 by ケニー・奥谷』(初月は無料です)の著者で、NYのプラザホテルにてアジア地区営業部長を務めたケニー・奥谷さんは、トランプ氏が破産する要因となった「プラザホテルへの溺愛」ぶりを紹介。トランプ氏がいかにして世界最高のホテルを手中に収めていったのかを明かしています。

ニューヨークホテル物語  「不動産王トランプ氏とプラザホテル」

【プラザホテルに恋したトランプ氏】

7歳の時だったと思う。両親と一緒にプラザホテルに来て、パームコートでランチを食べたんだ。それ以来、プラザのことは忘れられなかった。大学を出てから買いたい物件リストがあった。プラザはいつもナンバーワンだった。

これはドナルド・トランプ氏がプラザホテルのオーナーだった1993年に語ったこと。後に「ザ・プラザ」を出版することになるウオード・モアハウス氏のインタビューに応えたときのものだ。

マンハッタンの中央を縦に走る目抜き通りがフィフスアベニュー。そのアベニューはセントラルパークの最南端59ストリートを境に、北方向はミュージアムがひしめきあうミュージアムマイルに、南方向は世界の一流ブランドが乱立するブランド街へと姿を変える。その真ん中に立つフレンチルネッサンスシャトースタイルのホテル、ザ・プラザ(プラザホテルの正式名称)

これほどニューヨークを代表する豪華ホテルは他には無いと言っても過言ではない。トランプ氏が、たとえ破産を経験することになろうとも、手に入れたかったのは無理もなかった。

1975年、ウエスタン・インターナショナル・ホテルズ(後のウエスティン・ホテルズ)がプラザホテルを25ミリオンダラーで購入。その1年後トランプ氏は当時の総支配人フィリップ・フューズ氏にプラザホテルを購入したいと話をもちかける。「いくらまで出せるんですか?」というフューズ氏の問いに「50ミリオンダラーまでならだします」と言ったという。

昨年払った額の2倍のオファーを無碍にはできず、フューズ氏はシアトルの本社に電話を入れた。

だが、ウエスタン・インターナショナル・ホテルズにフラッグシップのプラザホテルを手放す意思はなかった。トランプ氏は聞いたという。「一体いくらなら売ってくれるんですか?」「100ミリオンダラーなら」というフューズ氏の応えは“売るつもりはない”という意思表示に等しかった。

次にトランプ氏にチャンスが訪れたのは、ウエスティン・ホテルズが青木建設に買収された1988年のこと。奇しくもその機会を作りあげたものは、1985年9月22日にプラザホテルで締結された“プラザ合意”だった。日本経済は「プラザ合意」で引き起こされたバブル経済の真っただ中。「プラザ合意」を決めたG5の日本代表として参席した当時の大蔵大臣は竹下登氏。その元秘書だった青木宏悦氏率いる青木建設が約1730億円でウエステインホテルズを買収する。

その際に、2つのホテルを売るという条件が含まれていた。プラザホテルは415ミリオンダラーでトランプ氏に、そして、ロックフェラーが造った超豪華リゾート、マウナケアビーチホテルは315ミリオンダラーで西武鉄道に売られていった。

1975年に25ミリオンダラーだったホテルを13年後の1988年に415ミリオンダラーの値段で買うには相当の無理があったに違いない。50ミリオンダラーまでしか出せなかったトランプ氏が、わずか13年間でいかに巨大な力を持つに至ったかを象徴する数字とも言える。だが、その“つけ”が、後年回ってくることになるとはトランプ氏も予想がつかなかったのだろう。
(つづく)

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image by:shutterstock

 

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オフィスに戻ると、同僚が泣きじゃくっていた。「どうした?」「今朝レイオフになったわ。今日の5時で皆とお別れよ」私がプラザホテルに赴任した1994年から最初の2年間はレイオフの嵐が吹き荒れた時代。プラザホテルを溺愛したオーナー、ドナルド・トランプ氏も破産の危機に直面。最良のオーナーを失いかけた世界最高峰のホテルは競売へと傾いていく。恐怖に怯える私にできることは、ニューヨーカーたちの働きぶりを一心にまねることだけだった。ここに私が学んだニューヨーカーたちの生き方、考え方、そして人生観について述べてみたい。

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