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過激発言でタブーに触れた大統領と米国メディアがデスマッチ

トランプ大統領のSNSでの過激発言が話題になっています。海外のメディアで報じられたニュースを解説する『心をつなぐ英会話メルマガ』では、このトランプソーシャル発言について日本のマスコミではあまり報じられない切り口で、本当はどういう意味で報じられているのかを解説しています。

大統領の言動はデスマッチのお笑いではすまされない?

海外ニュース

Just cannot believe a judge would put our country in such peril. If something happens blame him and court system. People pouring in. Bad!

【訳】裁判官が我々の国をこのような危機に陥れるとはどういうことだ。もし何か起これば彼とこの司法システムこそが批判の対象となるだとう。人々は怒っている。いいかげんにしろ!
(ドナルドトランプのツイートより)

ニュース解説

その昔、王や皇帝という個人が力によって政権を奪い君臨していた頃、権力は彼らに集中していました。王に人徳があれば、それはそれで国民は幸せだったかもしれません。しかし、どんなに人徳のある王でも、決裁ミスや感情による判断のブレがなかったとはいいきれません。そしてもしもそれが暴君であった場合、国民は理不尽に税金を取り立てられ、王の意に沿わなければ罰せられ、財産だけではなく、生命をも奪われてしまいます。一人の権力者や一つの組織が、法を作り、裁き、執行することの危険はそこにあるのです。

アメリカは、もともとイギリスの植民地でした。当時のアメリカにとって為政者はイギリスの王というよりは、イギリスという国そのものでした。18世紀の中頃、イギリスは新大陸での権益を巡ってフランスと戦争をしていました。その経費を植民地の住民に税金として押し付けようとしたことが、アメリカに住む民衆がイギリスからの独立を求め、革命をおこした原因でした。

その当時、アメリカの植民地の住人は、イギリスの議会に議員を送ってはいなかったのです。議員を送れないのに、イギリス政府が勝手に増税をしたことに、人々は反発したのです。この反発に対して、イギリス政府は軍隊を動員して弾圧しました。多くの人が財産や命を奪われました。ですから、アメリカが独立し、憲法が制定されたとき、人々は権力が一人の人物や組織に集中しないように、慎重に制度を整えたのです。

No Taxation Without Representation.(代表なくして課税なし)というスローガンが叫ばれたのです。

アメリカが独立を果たして間もなく、フランスではルイ16世下の王政に対して民衆が立ち上がり、フランス革命がおきました。皮肉なことに、イギリスをライバル視していたフランスが、イギリスからの独立を目指すアメリカを軍事的に支援したことも、革命がおきた原因の一つでした。対外戦争で膨れ上がった経費などが重税として国民に跳ね返ったのです。革命後、フランスでも権力が一点に集中しないよう、試行錯誤が続きました。こうして出来上がったのが三権分立 Separation of Powers という制度です。

そしてこうした歴史的背景から、三権分立を維持するためにいくつものタブーが世の中に生まれました。その中でも最も重要なことが、司法と立法、そして行政という3つの権力がお互いの暴走をチェックする Checks and Balances という機能を維持するために、それぞれがお互いに言葉や行動をもって相手を干渉してはいけないというタブーです。また、この制度を保証するために、権力者がメディアなどに対して透明性を保ち言論の自由を阻害してはならないというタブーも尊重されました。

この前提に立って、見出しで紹介したトランプ大統領の話題となったツイートをみてみましょう。これは行政の長である大統領が、中東7カ国からの人々の入国を禁止した大統領令に連邦地方裁判所からチェックがはいり、待ったがかかった直後に発信されたツイートです。ここで、行政の長である大統領が、司法権を執行した裁判官を直接批判したことが、このタブーに抵触し、ひいては三権分立を保証した憲法に違反するのではないかと多くの人が糾弾しているのです。そして、大統領があからさまに一部のメディアを批判し、取材にも応じないことも、権力者がしてはならないタブーに触れているとされるのです。

歴史を振り返れば、現代民主主義の根幹ともいえるこの3権分立制度が育まれるまでにはたくさんの人の血が流れています。それだけに、その3脚の一つを担う権力者が公に他の権力を批判することは、軽率を通り越した対応と非難されたわけです。

ところで、今回メディアの中でも、特に取材を拒否されたCNNは、トランプ大統領への批判を様々な論調で展開しています。ニュース記事の隅々に大統領への皮肉や、直裁な批判が込められています。それは、大統領がその表現に感情的に対応し、勇み足で失言をすることを狙っているかの激しさです。マスコミの意地をかけた果し合いといっても過言ではありません。

今後、大統領令に対してアメリカの連邦裁判所の上級審がどのような判断を示し、それを受けてトランプ大統領がどのようなコメントを流すか。さらに、それにマスコミがどう反応するか。プロレスのデスマッチさながらのやり取りに、深刻さを越えた滑稽さがあるのも事実です。

とはいえ、人々の経済活動や生活に直接影響を与えるアメリカの大統領の動向であれば、シニカルな笑いでそれをやりすごさないように、アメリカの有権者や世界の世論はそれをしっかりとチェックしてもらいたいものです。

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【著者】 山久瀬洋二 【発行周期】 ほぼ週刊

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