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uttii20170615

日本の民主主義は死んだのか。「共謀罪」強行採決を各紙はどう伝えたか

充分な議論がなされたとは言い難い中で15日朝、法案成立となった共謀罪。与党が取った「中間報告」という手段は国会法で認められており、安倍政権としては第1次政権時の2007年以来、二度目。しかし、乱暴とも受け取れる成立過程には各所から非難の声も上がっています。この事態を新聞各紙はどのように伝えたのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんが自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で詳しく分析しています。

「共謀罪」法案成立! ついに議会制民主主義を「省略」! 暴走する安倍政権と与党の所業を、各紙はどう報じたか

はじめに~民主主義の「省略」

国会の状況はまさしく「異常」の一言。参院法務委員会での審議をわずか17時間あまりで「打ち切り」、しかも委員会では強行採決さえ行わずに「採決を省略」。参院本会議で「中間報告」なるものを行った後に採決を行うという方針なのだという。そのことを、さも当然の手順」であるかのように野党に「伝えた」というのだから、驚きを通り越して呆れるより他はない。これがルールに則った手続きであり、可能であるというならなら、国会にも、国会議員にも存在する意義さえないではないか。

民主主義は、いや、少なくともこの国の民主主義は、実に弾力的な姿をしているらしい。多数党は何でもできる。これを「驕り」と言わずに何と言おうか。いや、話は簡単だ。これは自民党と公明党による暴力そのものだ。

ということで、6月15日の『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』と参ります。

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「『共謀罪』法案 きょう成立」
《読売》…「テロ準備罪 きょう採決」
《毎日》…「『共謀罪』法案 成立へ」
《東京》…「『共謀罪』成立へ強行」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「『共謀罪』自公突進」
《読売》…「テロ準備罪 与党『奇策』」
《毎日》…「疑問点山積のまま」
《東京》…「『加計隠し』野党批判」

ハドル

きょうはノーハドルで良いくらいです。午前8時、「共謀罪」法案が成立したと速報が入りました。参院の委員会審議を省略し本会議で採決を強行した末のことです。今日のテーマは…「共謀罪」法案成立! ついに議会制民主主義を「省略」! 暴走する安倍政権と与党の所業を、各紙はどう報じたか、です。

今朝の8時に強行採決によって成立させられたものについて、この間の経緯を細かくなぞっても仕方がないので、見出しだけはできるだけ丁寧に拾い上げつつ、各紙の問題全体に対する姿勢について、紹介と分析、そして評価を試みようと思う。その際、政治担当の編集委員など、シニア記者の署名記事や社説が手掛かりになる。各紙、議会制民主主義が陥っている今の状況に危機感を表明するものが多いが、一人《読売だけはどこ吹く風、問題全体を俯瞰するような署名記事が見当たらない。

基本的な報道内容

自民、公明両党は、共謀罪の趣旨を含む組織的犯罪処罰法改正案に付き、参院法務委員会での審議を打ち切って採決を省略し、参院本会議で「中間報告」を行った後に採決するとの方針を野党に伝えた(15日午前8時、参院本会議で可決成立した)。

与党は、国会を会期内に閉じることで、学校法人「加計学園」を巡る野党の追及をかわし、23日告示の都議選への影響を少しでも小さくしたい狙いと見られる。

与党は政府の下請け

【朝日】は1面トップ、2面解説記事「時時刻刻」、3面4面の政治関連記事に加え、7面には都議選と民進党についての記事、14面社説、34面に各界の声、35面国会前の抗議行動についての記事まで、フルスペック。見出しを抜き出す。

1面

2面

3面

4面

7面

14面

uttiiの眼

1面記事の最後に、国会担当キャップ石松恒記者の「視点」が付いている。「疑惑封じ 異例の手続き」とのタイトルで、「中間報告」という異例の手続きで「共謀罪」法案の成立を図った与党の姿勢を、「国会の存在意義を自ら否定するに等しい」と、まず糾弾している。

政権側の狙いについては、「加計学園疑惑を封じることとする。森友学園問題以来一貫した姿勢で、首相は野党の具体的な追及を「印象操作」と突っぱね、質問者に対して「質問に責任が取れるのか」と恫喝まがいの反論までしたと。こうした政権の姿勢に対して与党は「政府の下請け」に甘んじていて、「もはや『国権の最高機関』の一員としての気概も感じられない」と、最大級の非難をぶつけている。

基本的に同意する内容ばかりで、特に付け加えることもないが、今回の「中間報告」の悪用は、政権が法律というものを、常に自己に好都合な方向で恣意的に解釈するものだということを示している。野党議員が委員長のケースで何度か使われたことがある「中間報告」を、今回のように与党委員長で使うという、規定の趣旨をねじ曲げた解釈が行われたことになる。

山のようにある疑問点が払拭されぬまま「成立」させられたこの法律もまた、政権の恣意的な解釈の下、権力を維持するためだけにフル稼働させられる心配が募ってきた。

野党のせいで「中間報告」に?

【読売】は1面のトップ記事と左肩に関連記事。3面の解説記事「スキャナー」、その後は記者の解説も社説もなく、34面社会面にようやく国会の状況についての記事。他紙と違い、薄い対応しかしていない。見出しを並べておく。

1面

3面

34面

uttiiの眼

既に別のところに書いたように、《読売》は政治部長などによる特別な署名記事もなければ、編集委員などの名による記事もない。仕方がないので、中では1番分析的な発想で書かれている「スキャナー」を中心に見ていく。

「スキャナー」のタイトルは「テロ準備罪 与党『奇策』」というもの。「中間報告」を使って委員会審議を省略し、本会議で採決してしまうやり方について、さすがに《読売》も違和感を持ったのだろう。だが、「中間報告にはカギ括弧を付けず、奇策に付けているのはどのような含意からか。「中間報告」は国会法に定められたキチンとした制度だということで、括弧を付けずに使っているものと思われる。つまり、《読売》は、「中間報告を使って何が悪い?という開き直り」的な立場。他方、「奇策」については、まあ、珍しい方法ではあるし、野党は怒ってそんな言葉を投げ付けるだろうから、「彼らの言うところの奇策なるもの」という意味でカギ括弧付きとなったのだろう。《読売》自身は、「奇策でも何でもない」と言いたいのだと思う。他紙は括弧無しで「奇策」を、括弧付きで「中間報告」を用いている。

「中間報告」という禁じ手を選んだ理由について、「スキャナー」は、「公明党に配慮した」という、実にユニークな説明を紹介している。参院法務委の委員長は公明党議員なので、議長席を野党議員が取り囲んで怒号が飛び交うような映像を見られたくないという要望に応えたのだと言いたいようだ。ここに、そのような「勝手でルールを無視したことに対する批判の言葉は全く見られない

さらに、野党が抵抗を強め、委員長解任決議案まで出してきたのだから、審議を続けられる状況ではなくなったのだと、野党に責任を転嫁するかのような議論も紹介する。本末転倒を正論のように紹介する《読売》。

党の都合を国会審議より優先した公明党

【毎日】は1面トップに政治部編集委員のコメントが付いている。関連記事は2面、3面の解説記事「クローズアップ」、5面に政治記事と社説、11面の「論点」は識者のコメント、12面に論点整理のQ&A、26面と27面社会面にも。見出しから。

1面

2面

3面

5面

26・27面

uttiiの眼

政治部編集委員の平田崇浩記者によるコラム。タイトルは「立法府の劣化深刻」というもの。議院内閣制の本義は、国権の最高機関である立法府が、内閣に連帯して責任を負うこととし、その立法府の役割には、審議を通じて政権が法治を逸脱しないよう、コントロールすることも含まれていると。「共謀罪」の審議では、「一般国民が適用対象にならないことを繰り返し政府に確認し、具体的な答弁を議事録に残すことによって法制化後の運用を縛る必要があった」とする。この指摘、非常に具体的で重要。

にもかかわらず、政府は「中間報告」という奇策を用い、審議の機会を奪ってしまった…これは「数の横暴」であり、立法府は責任を放棄したに等しいと。文末近くには、以下のように公明党に苦言を呈する部分も。

乱暴な奇策による早期閉会方針は自民党の発案だが、公明党も賛同した。同党が重視する東京都議選への影響を抑えるためだとすれば、国会審議より党の都合を優先したことになる。

この言い方は重要。《読売》などがよくやる手だが、ある政治的な行動について、その「狙いは…」と書き始めると、記事の中で、いつのまにかその行動が「致し方ない」、「やむを得ない」ものに化けていき、気が付くと「当然の行動」に昇格、免罪されてしまう。平田氏はそうしたロジックの流れを許さず、批判の意思を貫き通している

また、平田氏は一貫して“中間報告”には括弧を付け、“奇策”はそのまま使用している。平田氏自身、これは与党の奇策であると感じているからだ。

下降する内閣支持率

【東京】は1面トップ記事に、金井辰樹政治部長によるコラム。関連記事は2面に解説記事「核心」を含む3本、3面には法案内容への批判と国会ドキュメント、5面に社説、24面25面に「こちら特報部」は地方の法案反対の声、26面有識者のアピール、27面社会面に国会周辺の人々、さらに最終面28面には「9つの論点」を整理した「永久保存版」的な一覧。見出しから。

1面

2面

5面

24・25面

26・27面

uttiiの眼

フルスペックでの対応。

「民主主義ないがしろ」と題した金井政治部長のコラムは、1行目から、「異常というしかない」と、今回の事態を評する。採決の強行が珍しくない安倍政権下でも今回は特に異常で、自民党内からも全くの想定外という声が漏れたという。「審議時間の長短で採決時期を語ることには賛成できない」とする金井記者だが、参院法務委員会での審議時間17時間50分は、与党が目安とする「衆院の7割程度」にも遙かに及ばないとして、「質も量も、採決の機が熟していないのは明らか」であり、良識の府、熟議の府を標榜している参院の看板が泣いている」と。

金井氏のコラムの最大の特徴は、政府・自民党が「共謀罪」法案の採決を急いだ理由として、「各種世論調査では内閣支持率は下降カーブ」を描いている点を強調しているところ。差し当たり、都議選投票日の7月2日までには、今回の事態を有権者に「忘れてもらいたい」のではないかという。

だとすれば、金井記者が言うように「忘れないことが大事ということになるだろう。

さらに言えば、これから2週間余り、日本の有権者、特に東京都の有権者を取り巻く情報環境には、大きな力でバイアスが掛かることを覚悟しておかなければならないだろう。自民党が是非ともその評判を貶めておきたいと考える人物に関するスキャンダルなど、否定的な情報には特に注意を要する。耳目を引き、テレビの情報番組などが連続的に大きく取り上げやすい芸能人・有名人の醜聞なども要警戒だ。どれもこれも、「政治的健忘症」を引き起こす毒物と見定めるべきで、今から身構えておくことにしたいものだ。

あとがき

以上、いかがでしたでしょうか。

議会制民主主義については、無条件で素晴らしいものと見なすべきではないのかもしれません。しかし、今回の与党の振る舞いは、「民主主義を省略」する暴挙、いや、「民主主義を回避した犯罪的な行為。この行為に責任のある政治家たち、とくに、安倍萩生田二階山口の各氏は、永く、責任を問われ続けることでしょう。これを許してはならないと思います。

というわけで、きょうはここまで。文科省が「加計文書」の「再調査」結果を公表し、「19のうち14の文書が存在していた」ことを認めました。文科大臣はもちろん、「怪文書」などと言っていたどこかの官房長官はどんなふうに責任を取るつもりなのでしょうか。

image by: 首相官邸

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額440円(税込) 【発行周期】 毎週 月・火・水・木・金曜日(祝祭日・年末年始を除く) 発行予定

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