クルマ好きの間では知られた存在だったという「辰巳会」なる集団が、夜の首都高をランボルギーニで暴走し集団摘発されたのが今年の6月。その裁判が始まったということで、裁判傍聴のプロこと今井亮一さんが自らのメルマガで、その模様をさっそくレポートしています。
ランボルギーニで首都高を暴走、その真相は
15日の発行号なのに、ごめん、ちょっと時空を超えて16日(水)のレポートを。
その日、4時間弱の睡眠で目が覚めてしまった、右足首が痛くてっ!
こんなに涼しくなって痛風が出るとは考えにくい。じんましんが足首の関節内に出たのか、そんな感じ。
痛くてひょこひょことしか歩けない。だがっ、今日は裁判所へゆかねばならぬ男がひとり。なのだ!
ひょこひょこと出かけ、11時~12時、東京地裁710号法廷(52席、石井俊和裁判官)で「道路交通法違反」の新件。
これはね、今年6月に「ランボルギーニやフェラーリで首都高暴走……スーパーカーグループ「辰巳会」会長ら書類送検 ナンバー付けず 警視庁」などと大報道された事件なのだ。ネットでもだいぶネタになった。
ところが、52席の広い法廷に傍聴人は数人ぽっち。なじぇ?
たかが「道交法」ってこともあるが、今日は同時刻から「強制わいせつ、強盗」や「準強制わいせつ、強制わいせつ」があり、かつ、「新宿母子不明事件 ギョーカイ人装う見栄っ張り男と白百合女子大出の令嬢はなぜ……」などと報じられた「死体遺棄」(傍聴券抽選)もあったんだねぇ。
そんなの目もくれず、たかが「道交法」へゆかねばならぬ男がひとり。ってうるせーよっ(笑)。
被告人は非身柄、もわふわの茶パツ、カジュアルな服装、会社役員、49歳。
公訴事実は2件。昨年11月、首都高湾岸線東行き、羽田空港付近(制限80キロ)を、109キロ超える189キロの速度で、および、今年4月、首都高の中野トンネル(制限60キロ)を、65キロ超える125キロの速度で、普通乗用車を運転して進行したというものだった。
その2か所のオービス(いずれも東京航空計器のループコイル式、電子式)の事件はよく法廷へ出てくる。首都高の稼ぎ頭かと。
11時05分、もう検察立証が終わってしまった。てか石井裁判官は4分前に始めちゃったのだ。バカ野郎っ。
情状証人は被告人の妻。2人の息子は本件をどう思ってるか尋ねられ……。
証人 「バカなことをしたなと呆れております、正直」
弁護人 「ここ最近の被告人の様子は如何ですか?」
証人 「そうですね、反省してるというか後悔してるというか、ちょっと沈んだ感じですね」
裁判官は、ランボルギーニを買うとき相談があったのか、尋ねた。
証人 「(きっぱり)ないです。あたしが知る前に、周りが知ってたのに、子どもとか父とか……あたしには内緒で」
裁判長 「安い買い物じゃないですよね」
証人 「だから言わなかったのかと思います」
明るくハキハキ、感じのいい奥さんだった。
11時21分、被告人質問。
被告人は2つの会社を経営していたが、1つは先日「退任」し、1つは今回の件が大報道されたことで大手の取引先から契約を破棄され、マズイことになってるんだという。
弁護人 「ランボルギーニは、いくらで購入したのですか?」
被告人 「1250万円くらいです……相場が、ランボルギーニ・ガヤルドで……2004年の発売……」
おぉ、やっと車名が出たょ。それを、頭金200万円くらい、1千万円くらいのローンで買ったんだそうだ。
弁護人 「これを買ったのは?」
被告人 「○○(上記2つ目の会社)を立ち上げたとき、若手メンバー2人に……2人ともポルシェ……社長なんだから1台くらい買おうよと……私が子どもの頃からスーパーカーにあこがれていたので、今じゃないと買えないのかなと……」
なんか、大報道の盛り上がりが萎(しぼ)んでいく。
前科はないものの、交通違反歴が8件。そこそこのスピード違反はしょっちゅうやってたのか? いや……。
被告人は仕事でホンダのフィットにほぼ毎日乗り、その走行距離は年間約6万キロ。
主に携帯電話のナビゲーションやメールのチェックで捕まったんだという。8件にスピード違反は1件もなかった。あれぇ……。
こうなると、残る悪質な点は「辰巳会」だ。なんかヤクザっぽいネーミングじゃないか。
弁護人 「辰巳会……(首都高の)辰巳パーキングエリアに集まるスーパーカー好き……SNSで連絡し合って……あなたが立ち上げた?」
被告人 「はい」
報道では「隊長」とされてる。
弁護人 「具体的に何をするんですか」
被告人 「スーパーカーに乗ってる人が……今まで交流の場がなかったので……名簿はありません……スーパーカーに乗ってる方はほとんどいない……乗ってるのは私ほか数人……」
サーキット族みたいな走りをやってるのか、弁護人が尋ねた。
被告人 「一切ありません。辰巳パーキングに集まるだけ……」
みんなで車を連ねてどこかへ行くこともないんだという。大報道の盛り上がりがどんどん萎んでいく。
ナンバーを外したのは、辰巳パーキングでいろんな人が写真を撮り、ネットにアップするので、イベント会場などで使う「ランボルギーニというプレート」に付け替えたんだという。
検察官 「(昨年)11月も(今年)4月も、ナンバー付けてないですね。オービスの前でナンバー外してるんですか?」
被告人 「そういうつもりはなかったです……」
オービス逃れでナンバーを外してたなら、もっと捕まってておかしくないんじゃないか。
普段は小型車で地味に走ってるおじさんが、スーパーカーを購入し、オービスへの警戒心もなく、ついスピードを出し過ぎてしまった、そんなものを感じた。
昨年11月の109キロ超過のとき、オービスのストロボが赤く光るのを見たらしい。
検察官 「(測定された認識があって)翌年またスピード違反している。今後、運転に気をつけようとか、そういうことは思わなかったんですか」
被告人 「2回目(今年4月)のとき、あまりスピードを出してる感覚がなかったっていう……」
検察官 「メーター見ないで運転していたんですか」
ここで被告人は、異様に押し黙ってしまった。
俺は思った。もしかして中野トンネルでの65キロ超過は、誤測定だったのか?
仮に誤測定だったとしても、弁護人は被告人に言うだろう。あんた、誤測定の証拠あるの? あんな大報道されて、しかも109キロは事実なのに。ここは全部認めて執行猶予をお願いするしかないょと。ま、真実は分かんないけども。
求刑は懲役6月。
首都高の普通車のスピード違反は、超過80キロ台は懲役3月、90キロ台は懲役4月が相場だ。100キロ台は滅多にないが、懲役5月のはず。
超過65キロは、ばりばり罰金刑だ。相場は9万円。
ナンバーを外しての運行は、道路運送車両法第19条の違反であり、罰則は50万円以下の罰金(同第109条第1項第1号)。
でもそれは公訴事実に含まれてない。今回の検察書証はごく普通。ナンバーはなかったが被告人の特定に至った、という書証は何らなかった。
109キロ超過の相場は懲役5月、罰金9万円を“1カ月”に換算し、懲役6月とした? うーん。
弁護人は、「誘惑の大もとを絶ち」ガヤルドを処分したこと、すでに欠格期間2年の免許取消処分を受けていること、テレビニュースで大きく取り上げられ、仕事が取引停止となって社会的制裁を受けたことなどを挙げ、「寛大な刑罰」を求めた。
被告人の最終陳述は……。
被告人 「えと、今ですね……」
家族の介護のことで服役は困るのだ、という趣旨のことを述べた。
つまり、実刑判決もあり得ると思っているのだ。俺なんかからすれば、執行猶予は鉄板なのに。
やっぱり実刑を怖れて65キロ超過の誤測定を主張できなかったのかな? と思う俺なのだった。
判決は9月30日(水)13時15分からと決め、12時05分閉廷。
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『今井亮一の裁判傍聴バカ一代』
著者/今井亮一
交通違反専門のジャーナリストとして雑誌、書籍、新聞、ラジオ、テレビ等にコメント&執筆。ほぼ毎日裁判所へ通い、空いた時間に警察庁、警視庁、東京地検などで行政文書の開示請求。週に4回届く詳細な裁判傍聴記は、「もしも」の時に役立つこと請け合いです。しかも月額108円!
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