全国津々浦々、さまざまな方法で町おこしが行われています。大阪の東大阪市(ひがしおおさかし)では、なんと「カレーパン」での町おこしが盛んなのだとか。東大阪市とカレーパン、いったいどんな関係が? カレーのよい香りにつられながら、さっそく現地へとおもむきました。
※本記事はジモトのココロに掲載された記事です(2017年11月8日)
なんでやねん? カレーパンのまち東大阪
東大阪市。大阪府下では大阪市、堺市に次いで第3位の人口を擁する中核市です。高い技術力を誇る中小企業が多く集まっているところが特徴で、あのNASAのマシンに使われるナットも東大阪の町工場産。また、スポーツがお好きな方には花園ラグビー場をいだく「ラグビーのまち」として知られています。
▲花園ラグビー場の最寄駅、近鉄奈良線「東花園」駅の駅舎には大きなラグビーボールがデザインされている
そんな東大阪市を歩いていると、確かに「カレーパンのまち」をうたう黄色いのぼりをよく目にするのです。
▲東大阪市のあちこちに「なんでやねん!? カレーパンのまち 東大阪」とプリントされた黄色いのぼりが立つ
「なんでやねん? カレーパンのまち 東大阪」
でも、カレーパンと東大阪市って、どんな関係があるのだろう。カレーパンって、東大阪市が発祥だったかしら? そんな話、一度も聞いたことがないのだけれど。ほんま「なんでやねん???」。
カレーパンと東大阪市の意外な関係
そういうわけで、なぜ東大阪市が「カレーパンのまち」なのかを探るべく、東大阪市役所を訪問しました。
ご対応いただいたのは経営企画部企画室の岸本高延さん。東大阪カレーパン事業の発足は2011年。カレーパンによる町おこしは6年目を迎えているとのこと。
▲「東大阪カレーパン事業」を担当する東大阪市役所経営企画部企画室の岸本高延さん
そもそもの疑問として、中核市に指定される東大阪市になぜ町おこしが必要だったのでしょう。人口が多く、交通の便もよく、高速道路も整備され、申し分ないように思うのですが。
岸本 「東大阪市は、ものづくりの街として知られ、技術力は高いのです。そこに注目してもらうために工場見学なども実施してはいるのですけれど、観光や行楽で訪れるイメージがない。交通の便がいいがために、反対に素通りされてしまうのです。若手職員たちがこの状況に危機感を抱き、『これから他都市から東大阪市へお越しいただくためのスキームづくりが必要ではないか?』ということになったのです」
なるほど、言わば未来のための町おこしなのですね。でも、それがなぜ「カレーパン」なのでしょう。
岸本 「理由はふたつあります。東大阪市は花園ラグビー場を有する『ラグビーのまち』として全国的に知られており、ラグビーボールのかたちがカレーパンに似ていること。もうひとつは、カレーでおなじみなハウス食品の本社が東大阪市にあること。そのため地元のパン屋さんとも円滑な関係を結ばれていたんです。それを合わせて、『カレーパンで町おこしをしよう』ということになり、行政と民間がともに動く『東大阪カレーパン会』が結成されたのです」
おお! 官と民がカレーパンをはさんでスクラムを組み始めたのですね。
はじめは批判もあったカレーパン事業
この「東大阪カレーパン会」、起ちあげとともに、ハウス食品と地元のパン屋さんが共同で東大阪市のオリジナルカレーフィリング「カレンちゃんのこころ」を開発したというから、本気です。現在28軒の会員店舗があり、新しいカレーパンも続々と生みだされています。
▲市内のおいしいカレーパンを食べ歩きできる「東大阪カレーパンMAP」
しかしながら……ラグビーボールのかたちが「カレーパンのまち」の起因理由というのは、ちょっとタックルが強引な気がするのですが……。
岸本 「正直言って、そうなんです。たとえば栃木県の宇都宮市は“餃子の街”を表明されていますが、これはそもそも餃子の消費量が日本一であるなど地元の食習慣に根づいているからです。しかし東大阪市とカレーパンは、本来はゆかりがない。それゆえ当初は『行政が率先してこじつけで町おこしをするのは違うのではないか?』というご批判も確かにいただきました。ただ地元のお祭りにパン屋さんが交代で出張出店してカレーパンを売るなど、東大阪カレーパン会の方々の尽力によって、次第に理解を得られるようになってきました。大阪市内の百貨店から催事の誘いがあるなど、ブランドイメージがつき始めたと感じています」
やはりはじめはスパイシーな批判もあったのですね。とはいえ、お祭りにカレーパン、それはこれまでありそうでなかったアイデア。カレーパンはみんな大好きですから、きっと喜ばれますよね。では具体的に数値化できる経済効果はあったのですか?
岸本 「はっきりした数字はまだ出ていないです。ただ、パンを特集した全国誌に東大阪カレーパンを5ページも割いて紹介していただいたり、全国高校ラグビー大会では東大阪カレーパンの販売が名物となってきたり、少しずつ浸透してきていると思います」
腹ぺこの高校生たちにとって、冬のラグビー場で食べるカレーパンは、なによりのご馳走でしょう。東大阪のカレーパンを全国に知らしめるのは、観光客より先に、おなかをすかせた学生たちなのかもしれません。さらに2019年にはラグビーのワールドカップの試合が東大阪市でも開催されますから、世界的なブレイクもありえる!!
独断で選ぶ東大阪カレーパン3選
では、東大阪カレーパン会のリストをもとに、僕が独断で選んだ人気店3軒をご紹介しましょう。
ソーセージが横たわる迫力あるカレーパン
一軒目は、東大阪市役所からほど近い場所にあるCAFĒ&PAN「汎茶(ぱんさ)」。
毎日40種類ものパン、サンドウィッチなどを手作りしているベーカリーカフェです。 東大阪カレーパン登録商品が「ウインナーカレーパン」(180円)。ラグビーボールをイメージした楕円型生地にオリジナルフィリング「カレンちゃんのこころ」をはさんで焼き、そこへロングウインナーソーセージを大胆に一本丸ごとドーン! パプリカの赤が、選手たちの情熱や球場の熱気をあらわしているかのよう(使われる野菜は旬によって変わります)。
▲インパクトある見た目。CAFĒ&PAN「汎茶(ぱんさ)」の「ウインナーカレーパン」。イートインスペースがあり、店内でかぶりつける
店長の髙本敏江さんに商品化の経済効果をうかがったところ、 「こうして取材されることがあるのが効果なのかな。テレビ局の方がお見えになって『このパンを撮影させてほしい』って言ってこられたリ。ほかのパンにはない動きですよね」 とのこと。
▲「汎茶」(ぱんさ)店長の髙本敏江さん
実はこのウインナーカレーパン、たいへんな人気商品のようで、撮影させていただいたパンが最後の一個でした。このように、少なからず効果を感じていらっしゃるようです。
CAFĒ&PAN 汎茶(ぱんさ)
東大阪市荒本新町6-36
06-6789-0707
平日7:30~19:00 土・日・祝 7:30~15:00
定休日 不定
URL https://cafeandpan-pansa.jimdo.com/
名匠のワザが活きるラグビーボール型カレーパン
二軒目は近鉄奈良線「瓢箪山」駅の南出口からほど近くにある手づくりパンの店「フォーレ」。
店主は78歳のベテランパン職人、持田寿穂さん。 匠のワザから生み出されたのが「トライくんカレー」(120円)。商品名の「トライくん」とは平成3年に「ラグビーのまち東大阪市」を同市が表明したことをきっかけに誕生したマスコットキャラクター。その名を冠するとおり、パンのフォルムは長球と呼ばれるボールそのまんま。なかに詰まったカレーはやはり「カレンちゃんのこころ」。こちらも人気商品のようで、最後の一個が残っていてほっとしました。
▲手づくりパンの店「フォーレ」店主、78歳のベテランパン職人、持田寿穂さん。「トライくんカレー」は手のひらにおさまるかわいいサイズ
持田さん曰く「縫い紐の部分は硬めに手作りしたチーズマヨネーズ。紐の質感を表現するのに苦労しました。東大阪カレーパンの効果? 実はうちはもともとカレーパンが自慢なんです。カレーパンだけでも何種類もあって、それぞれにルーを変えています。東大阪カレーパンを目当てに来たお客さんが、ほかのカレーパンも買っていかれる。こうしていろんな商品のよさを知ってもらえるのがうれしいですね」。
▲縫い紐の質感を出すため試行錯誤のすえ、たどりついたのが硬めに手作りしたチーズマヨネーズ
▲「トライくんカレー」のなかは東大阪カレーパン会オリジナルフィリング「カレンちゃんのこころ」
東大阪カレーパンをきっかけに、地元に愛されてきた別のカレーパンにも「トライ」したくなる。こういった効果こそが町おこしにあるべき美質ですよね。
手づくりパン「フォーレ」
東大阪市瓢箪山町1-27
Tel: 072-984-4125
営業時間: 6:00~19:30
定休日 木
元ラグビー選手が営むカレーパン専門店
最後に選んだのが、JR学研都市線「徳庵」駅から徒歩5分の場所に今年5月にオープンしたカレーパンショップ「MASARA」(マサラ)。東大阪カレーパン会の最新鋭にして初の「カレーパン専門店」です。
店を切り盛りするのは、なんと元「近鉄ライナーズ」選手の山本健二さんと妻の翔子さん。店頭には山本さんが現役時代に着ていたユニフォームも掲げられ、「ラグビーのまち」「カレーパンのまち」というふたつのテーマ要素ががっちり肩を組んでいます。
▲カレーパン専門店「MASARA」(マサラ)を営むのは元「近鉄ライナーズ」選手の山本健二さん。店頭には山本さんが現役時代に着ていたユニフォームが掲げられている
▲調理と接客は基本、妻の翔子さんが担当
山本健二さんがお店を開いた動機は 「母と僕で梅田でカレーショップを営業しているのですが、地元の東大阪がカレーパンで町おこしを始めたのを知り、『うちのカレーの味をテイクアウトでも伝えられるんじゃないか』と思ってパンを使った専門店を開きました」。
名物の「マサラドッグⅡ」(380円)は牛肉100%のミンチを使ったカレーを店頭で温め、玉ねぎをトッピングしてホットドッグに。アツアツ状態を逃さずガブリとかじれば、親譲りな自慢のカレーを伝えたいという想いがドロップキックのように胃袋にゴールを決めます。
▲人気の「マサラドッグⅡ」。カレーは注文が入るごとに温めるのでアッツアツ
「マサラサンド」(230円)はシンプルながら、ホットサンドからスパイシーなビーフカレーがあふれ出すさまは興奮を禁じえません。フィリングを別添えのパンの耳につけるスタイルも観戦席で食べたくなるスタイルです。
▲「マサラサンド」はカレーを別添えのパンの耳につけて食べるユニークなスタイル
カレーパンショップMASARA
東大阪市稲田新町1-6-33
Tel: 090-7094-3012
営業時間:10:00〜17:00
定休日:月
おいしいカレーパンは全国どこにでもあります。しかし町おこしによってこうしてガッツに溢れた新店が誕生したり、長く地元に根付いていたパンに再評価の光が当たったりするなど、パスをしあって、じわじわと相乗と波及の効果が表れてきている様子。町おこしとは、つまるところ「チームプレー」なのだと改めて感じました。 東大阪カレーパン会の加盟店は毎月8日には割引やおまけなど、なんらかのサービスがあります。この日に食べ歩きにトライしてみるのもいいかも(ちなみに8日は“カレーパンのパ(8)”が由来なのだそう)。
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