大手格安旅行会社の「てるみくらぶ」の倒産は大きなニュースとなりました。組織ぐるみでの粉飾決算や旅行先での未払いが発覚し、遂には社長の逮捕まで発展する大事件となりました。今回は倒産のわずか2ヶ月前に「てるみくらぶ」のポルトガルツアーに参加し、実際に体験したてるみくらぶの旅行内容を紹介しています。
倒産の原因は裕福で、旅する回数も多いシニア層への転換?
格安旅行代理店のてるみくらぶの倒産が話題になっています。
実は、私、2017年1月に同社主催のポルトガルツアー7日間に参加しました。倒産はその2か月後の3月。危ないところだった!と、ほっと胸をなでおろしたのでした。あと2か月遅い日程を選んでいたら、ポルトガルのどこかの街か飛行場で路頭に迷っていたかもしれません。一方、私が払った旅費は、きちんと現地のレストランやホテルへの支払いに使われたのか…という疑問も湧きます。そうでないなら、無銭飲食や無銭宿泊をした日本人のような気がして、後味の悪いも残ります。自分の責任ではないにしても。
今思えば、ツアーの選定から申し込み、出発まで、あれは倒産の予兆だったのかもしれないと思えるような出来事がいくつかありました。それらを振り返りつつ、倒産の一つの引き金になったシニア世代への旅の提供についても考えてみることにします。
てるみくらぶの倒産は、ネットでの競争が激しくなったため、ターゲットを比較的裕福で、旅する回数も多いシニア層へ転換しようとしたことが要因の一つだと言われています。つまり、シニアはネットを使えない、だから、新聞広告を使って訴求しようと。山田社長は「大手がやらない隙間を狙った」と言っています。
その結果、昨年あたりはほとんど毎週のように、てるみくらぶの広告を見かけるようになりました。しかし、新聞の広告費は非常に高価です。私は広報の仕事をしていたことがあるので、あの格安旅の利益の中から、広告の費用が出るのだろうかと疑問に思うこともありました。相当な数を稼がないと難しいだろうなと。
安いから悪いとは限らないし…
さて、私は年に一度は海外旅行をすることを楽しみにしています。ポルトガルツアーのことを知ったのは夏くらいでしょうか。ぎりぎりまで他社の同様ツアーと比較しました。残ったのが3つ。検討した結果、日程も内容もほとんど他と変わりなくて、行きたいところが入っていて、もっとも格安だったツアーがてるみくらぶだったのです。
しかし、てるみくらぶにはもともと「あやしい噂」がありました。友人は怖いから、てるみは選ばないと言っていました。でも、噂だけではわかりません。そこで、今まで参加したことはなかったのですが、説明会に参加してみることにしました。
格安ツアーなので、参加者は比較的若い世代が多いのではないかと思っていたのですが、なんと、参加者のほとんどがシニア世代。旅好きそうな60代と思しき夫婦、杖を突いた夫とかいがいしく世話する妻、80歳近いと思われる一人参加らしい女性、などなど。同じテーブルについた女性からは、「あなたはいつ行くの?ご一緒できるのといのだけれど」と言われました。やはりひとり旅は心細いらしいのですね。
説明会も従来は開いていなかったと思います。ネットを見られないシニア世代のために、説明の場が必要になったのでしょう。この経費も増えたはずです。
説明会から帰り、それほど問題ないと判断し、申し込みました。すると、すぐに全額払えば、割引になるという連絡が届きます。それを利用しない手はありません。早速、電話をしました。しかし、全額払いますと伝えても、さほど嬉しそうなわけでもなく、淡々と事務的に対応し「ありがとうございます」の言葉もない。ここで、少し違和感を覚えたのを記憶しています。でも、それほど気にしませんでした。なにしろ、安くなってよかったと。
旅そのものは大満足
写真/松本すみ子
説明会では、添乗員は現地の空港で合流するとのことで、自分で飛行機に乗ってほしいと伝えられていました。ドバイでの乗り換えも指定のゲートまで行ってもらえば、添乗員はそのゲートあたりで待っていると。少々不安ながらも、まあ、安いから仕方ないかという感じです。
ただ、あの年輩のご夫婦やひとり旅の女性は大丈夫なのだろうかという思いもよぎります。でも、それが不安な人は当然、このツアーを選ばないだろうなと。
出発日、受付を済ませて飛行機に乗り込み、飛び立って安全ベルトを外した頃に、添乗員がやってきました。なんで! 実は、成田からちゃんと乗っていたらしいのです。「現地で合流と聞いていましたが?」というと、「皆さん、そういうんですよ」との返事。おかしいなとは思ったものの、いい方向への転換なので、むしろホッとしたものでした。
それにしても、旅行会社としては、添乗員が成田からしっかりお世話しますというPRをしたほうが、アピールするのではないでしょうか。すでに会社は混乱していて、連絡や手配がうまくいってなかったのかもしれません。
旅の途中、添乗員(添乗員派遣会社から来る)が、「てるみくらぶのツアーの安さはすごいです。私の日当はでるのかしらと心配になるくらい。でも、実績のある会社ですので、皆さん、安心して旅を楽しんでくださいね」と言っていたのを思い出します。実は、添乗員もびっくりな価格だったのです。
旅そのものは大満足でした。観光もホテルも食事も特に問題なく、いかにもポルトガルという感じの街並みを楽しみました。
写真/松本すみ子
リスボンでは夜の自由時間に、現地のガイドに聞いて、ファドの演奏も聴きにいきました。この店のマダムはとても親切で、女性の一人客ということもあり、タクシーを呼んでくれて、「心配なくホテルに帰れますよ」と言ってくれました。
写真/松本すみ子
今までの海外旅行の中でも、この旅の印象はすこぶるいいものでした。また、てるみくらぶを使ってもいいなと思ったほどです。
手頃な旅を何度も
だからこそ、今回の倒産は残念でなりません。もっときちんと経営し運営していたら、旅好きシニアから信頼される旅行社になっていたのではないでしょうか。
高齢者やシニア世代向けの旅行というと、豪華で旅費も高いものが多いのです。でも、そんなツアーに参加できるシニアばかりではありません。それでも、海外旅行に行きたい。そういう人が年金や貯金をやりくりして貯めたお金で海外旅行をしようとしたら、なるべく安いツアーを選ぼうとするのは当然。
今回の事件で、安すぎるのはやはり危ないと多くの旅行者が認識しました。とはいえ、旅行者が安くてお得なツアーを探す姿勢には変わりはありません。旅するシニアも同じ。必要以上に安くなくていいけど、でも高額ではない、手頃でリーズナブルなツアーを提供してほしいというのが願いです。豪華な旅に1度行くよりも、気軽にいろいろな旅に出たいのです。これは国内旅行も同じはずです。
そういう意味で、てるみくらぶは新しいコンセプトの会社になれる格好の機会を逸してしまったのかもしれません。つくづく残念なことです。
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