日本で「オリーブ」といえば、小豆島などの温暖気候で作られているイメージが強いですよね。しかし、実はいま九州や四国、山陽、東海地方などの全国でオリーブ栽培が広がっているそうです。有料メルマガ「あるきすと平田のそれでも終わらない徒歩旅行~地球歩きっぱなし20年~」の著者である、あるきすと平田さんは、温暖な気候とは対照的な北陸・石川県でオリーブ作りをし始めたそうです。今回は視察目的で訪れた神奈川県二宮町のオリーブ栽培についても紹介しています。
太平洋側と日本海側のオリーブ園を視察してきました
11月、2ヶ所のオリーブ園を視察してきました。
何度かここでも取り上げてきましたが、僕は仲間と一緒に「フェリーチェ」というグループを作り、この寒い北陸富山の地でオリーブを栽培しています。3年前の春に約40本の苗を植え、今春さらに60本の苗を植えたことでほぼ100本の規模になりました。
最近のフェリーチェのオリーブ畑
オリーブと聞くとみなさんは真っ先にオリーブオイルを思い浮かべるのではないでしょうか。あの俳優さんのおかげで日本でのオリーブオイルの認知度は格段に上がりました。
しかしオイルではなく、オリーブの実を食べる習慣は日本ではほとんどありません。僕たちのめざすのはオイルではなく、食べるための実(テーブルオリーブといいます)を収穫することです。
イタリアレストランで食事するとおつまみとして新漬けオリーブが数粒出てきたり、カクテルのマティーニのグラスの底に沈んでいたり。あれです、あれ。あれを作りたいのです。
場所は太平洋側に位置する神奈川県二宮町と、対称的に日本海側の能登半島にある石川県七尾市です。もともと温暖で乾燥気味の気候に適したオリーブ栽培は、日本では香川県の小豆島がパイオニアです。
いまでも小豆島はオリーブ生産のメッカですが、すでに苗木を植えるスペースが限界に近づいていると聞きます。4年前に視察に行ったときにそれを強く感じました。なにしろ山の斜面の雑木林を伐採してまばらな間隔でオリーブを植え、塩害に弱いオリーブを海っぺりにまで植えています。
そのため、小豆島のオリーブ関連会社で働いて経験を積んだ熟練者たちは、小豆島を離れて比較的気候条件が似通っているといわれる九州や四国、山陽、東海地方など太平洋側の各地に移り住んでオリーブ栽培を手がけています。
最近では神奈川県や山梨県もオリーブ栽培の適地として脚光を浴びているような状況です。そんな中、神奈川県二宮町では町をあげてオリーブ栽培を後押ししています。
相模湾に面する二宮町は丹沢山系の山がちな地形が占めていることから平野部が狭く、長年、山の斜面で栽培されるみかんが特産でした。ところが近年は生産農家の高齢化や後継者不足のため耕作放棄地が広がり、あちこちでみかんの木が伐採されています。
山肌にみかん畑とオリーブ畑が広がり、後方に二宮町の町並みと相模湾
15年ほど前に一軒のみかん農家が試みにオリーブ栽培を始めたところ、やはり気候風土が合っていたのでしょう、苗はすくすく育って実も収穫できることが実証されたことが契機となり、町がみかんに代わる特産「湘南オリーブ」として育てようとオリーブ栽培を推奨するようになりました。具体的には苗の購入費の半額から75パーセントを町が助成したり本場の小豆島から専門家を招いて講習会を開催するなど、手厚い太っ腹な政策で農家の新規参入を後押ししています。
その甲斐あってか参入者は徐々に増え、現在では40軒ほどの農家が合計1500本ほどの木を育てているとのこと。将来的には町内で5000本まで増やす計画だそうです。
二宮町を視察
今回二宮町で視察したのは「まつき農園」さんと湘南オリーブの先駆者「ユニバーサル農場」さんのオリーブ園で、まつき農園の松木秀雄さんが案内してくれました。
二宮町は「湘南オリーブの郷」としてブランド化を推進している
観光農園化をめざすまつき農園のオリーブ畑
みかん畑とオリーブ園が混在する山間の「ユニバーサル農場」では現在500本もの木を植えています。日照量が多く苗木の生長が早いため定植から3年か4年で4メートルにも達するとのことで、これは羨ましい話でした。
大きく生長したユニバーサル農場のオリーブの木
ただ、山を伝ってイノシシが園内に侵入し、あちこちの地面が掘り返されていたし、それ以上にオリーブにとっては致命的なオリーブアナアキゾウムシによる被害やカメムシやアブラムシが原因の煤病なども蔓延し、対策に追われていました。
丹沢山系の山並みに隣接するように広がるオリーブ畑
掘り起こされたところはイノシシの仕業
カメムシが原因とみられる煤病
ところでIBMの技術者だった松木さんは定年後に夫婦でオリーブ栽培に傾倒し、観光農園化をめざしています。オリーブをベースに次々に事業化を目論む松木さんのアイデア力に感服した次第。
「草刈り作業って大変でしょ? でもさ、来てもらったお客さんに乗用草刈り機に乗ってもらって自分で運転して園内を回ってもらえば、それだけで雑草はほとんどなくなってしまうよ。それにオリーブの盆栽のワークショップだってここでやってるよ」
うーん、こういう発想は僕のような凡人にはできません。松木さんは実際に中古の乗用草刈機を導入していたし、イベント用にと園内に2畳の畳を敷いていました。
まつき農園の乗用草刈機。客に運転させて草を刈るそうな
オリーブ園の中に敷いた2枚の畳。イベントなどで使用する
能登島オリーブ園入口のプレート
またユニバーサル農場さんと組んでオリーブの実や葉っぱを使った六次化にも取り組み、いくつも商品化を実現しています。とにかくびっくり仰天のアイデアマンのうえに度量が広く、オリーブ栽培の後輩である僕たちにとって参考になることを惜しげもなく披露してくださるありがたい先輩でもありました。
松木さん、本当にお世話になりました。
北陸地方でオリーブ栽培!
さて、寒冷で雨量も多い北陸地方でオリーブを栽培している人はまれです。
そんな変わり者が僕だったり、能登半島の能登島で奮闘する農事組合法人ラコルトの洲崎邦郎さんだったりします。
七尾湾を見下ろす斜面に広がる能登島オリーブ園
洲崎さんは元ホテルマンで、現在は自分でオリーブ園の面倒を見るとともに石川県の農家さんと消費者をつなぐイベントを企画するなど食にまつわる広範囲な活動をされています。
オリーブの幹にべったり付着したカビ
オリーブ栽培に関しては僕たちより1年早くスタートし、いまでは300本まで苗を増やしています。
定植から4年めになる木々には今秋多くの実がなるはずでしたが5月の強風で受粉直後の小さな実の多くが落下してしまい、実際に収穫できたのはほんのわずか。
今回現地を訪問してわかったのは、島内3ヶ所のオリーブ園のうちもっとも早く苗を定植した畑は山の斜面で、海から吹き上がってくる冷たい風がまともに木々に当たります。そのせいでほとんどの木は風に煽られてグラグラする状態で、幹と添え木を縛った縄も切れていたりと、管理が追いついていない状態でした。
僕たちのグループは現在100本の木を3人で管理していますが、草刈りや施肥、水やり、ハマキムシの防除、雪対策などなどやるべきことは多く、本数を増やした今年は特に後手後手に回ってしまった感があります。
能登島は基本的に洲崎さんが300本を管理しているわけで、ボランティアの手を借りているというものの、やはり責任ある立場の人がひとりでは厳しいのかなあ。
また、別の畑は海から離れていますが山を切り開いた土壌が固い赤土の場所で、これでは根っこを張るには条件が悪すぎます。
オリーブの根は横へ横へと伸びる性質があり、ただでさえ土中深くには伸びていきません。それがこれほど固い赤土だとその傾向がいっそう強まり、強風に耐えられるか心配です。
山中の固い赤土の上に広がるオリーブ畑
そのせいか僕たちが育てているオリーブに比べ、全体的に生長が遅い気がしました。寒い地でオリーブを育てるのはやはりハンディがありますが、それだけやりがいもあるのです。
洲崎さんとは今後も意見交換してお互い切磋琢磨し合う仲でありたいと強く感じました。
ジモトのココロ