奈良県の吉野地方では室町時代から造林・植林が行われていたと言われています。そんな歴史と伝統のある吉野郡で、奈良県農林部の奈良の木ブランド課が主催する「奈良の木見学ツアー」が行われました。ツアーの参加者は、建築関係や造園、ガーデナーなどほとんどが建築関係者の人たちです。
人間も木も自然が一番。徳田銘木で奈良の木を見学
奈良県吉野郡黒滝村にある「徳田銘木」は日本三大人工美林に数えられる優良木材供給地“奈良県吉野地域”で銘木を販売している会社です。
強力な水圧で木の皮を剥いでいく
地元で伐採された吉野杉・吉野桧などの材木をはじめ、他では手に入らない変木・自然木の製造販売などを行っています。耐久性と強さ、そして美しい艶を特長とする銘木がズラリと並ぶ倉庫を見学させてもらいました。
子供が家の中で木登りができるようにと購入する人もいる
大きくて立派な材木がズラリと並ぶ
丸太は決して真っ直ぐでツルツルしたものだけでなく、節があったり曲がっていたり個性的な形のものもたくさんあります。最近は、あえてカーブしている木や枝が付いた木を室内のインテリアとして利用し、個性的な空間造りをする施主さんが増えてきているそうです。
徳田銘木の徳田浩社長
徳田銘木の社長、徳田浩さんは「同業者や建築業界の他に、家具屋などの木工所、店舗オーナーなど、木に興味がある方に奈良の木の良さをもっと知って欲しい。実際に奈良の木に触れて木の温もりを感じてもらえたら」と語りました。
奈良県の産業のひとつである「集成材」の製造工場を見学
化粧貼りの作業風景
奈良県の産業のひとつである「集成材」の製造工場も見学。薄く削られた木を、一つずつ手作業で貼っていきます。
材木の強度を測るグレーチングマシン
集成材の製造工程のなかでも、特に奈良県吉野地域が得意とする「化粧貼(けしょう貼り。木材にきれいな吉野材の薄い板を貼り、見栄えを良くする技術)」の工程や「木材の乾燥機、グレーチングマシン、減圧乾燥機で乾燥させた吉野材木の美しさや強度」なども見学。
建築関係者が参加するツアーだけあって、内容が専門的。木材を熟知した方からの質問が飛び交います。
伐採現場にドキドキ!!目の前で伐採され倒れる木を眺める
そしていよいよ伐採が行われている山へ。
道なき道を何とか登って行く参加者たち
急な斜面をどんどん上に登って行き、樹齢約110年の木の近くまで行きました。思っていたより急斜面で、かなりキツイ・・・。下を見たらかなり高い場所まで来ていた(汗)
気が付いたらこんな高いところまで登っていてギョッ!となる
何とか登れたけど、戻る方が怖いかも・・・こんな急斜面で、林業の方たちは仕事をしているんですね。
木が倒れる方向に手際よくロープを張る
おもむろにチェーンソーを構えるとブィーン!!と大きな音が経ち、その音が山に反響して、何を話しているのかほとんど聞こえない。
かなり離れたところで見学する私
反対側からも刃を入れる
角度を変えたりしながら、チェーンソーの刃を入れていきます。そういえば、昔はこれを斧やノコギリでやっていたんですよね。
息を飲んでいつ倒れるのか凝視していると、バリバリバリバリ!!ザザザーッ、ドオオオオン!!と、ダイナミックな音を立てて木が倒れました。
切り倒された木に近づくと、爽やかな杉の木の香りが漂っています。根から水分を吸い上げるので、切株は水分がたっぷり含まれ、触れるとしっとりしています。
切りたての切株に触れると想像以上にしっとりしている
樹齢約110年の木だけあって、数えきれないほどの年輪が刻まれています。台風などいろいろな難を逃れて100年以上も育てられた木で建てられた建物は強いはず。
敷居を跨いだ瞬間、土地のたくましさを体感できる「吉野杉の家」
吉野町にある「吉野杉の家」(奈良の木を使用した建築物)は、建築家 長谷川豪 × Airbnb 共同創業者ジョー・ゲビアのコラボレーションによって生まれました。
吉野のスギやヒノキをふんだんに使ったこの施設は、民泊予約サイトの「Airbnb」で宿泊の予約ができるようになっています。(宿泊は最大7名まで)
「吉野杉の家」はほぼ吉野スギと吉野ヒノキでできている
地元の若者を中心としたコミュニティがゲストのおもてなしをし、収益は地域コミュニティや文化遺産を守るために使用されます。
広々としたテーブルで会話を楽しむ
この家は、壁や床、テーブル、棚などあらゆる部分に吉野スギと吉野ヒノキを用いて造られています。デザインは奇をてらわず、「ずっとここにいたい」と思えるような温かい空間に仕上げてあります。
使い勝手の良さそうなキッチン
「夕日の部屋」
「朝日の部屋」
奈良の木ブランド課では、奈良県で生育したスギ・ヒノキと他県産のスギ・ヒノキを比較する試験を行った結果、奈良の木には「大腸菌の増殖抑制」「カビの生育抑制」「ダニの忌避」「ウイルスの不活化」「紫外線の軽減」の効果があることも証明されたそうです。
サイクリング用の自転車もある
施設内はほっこりと木の香りが漂い、座って写真を撮っていると徐々にリラックスして、ゴロンと横になりたくなってしまいました(笑)。
目の前には吉野川が流れ、川遊びなども楽しめる
そして、「吉野杉の家」は、吉野川のほとりに立っています。サイクリングをしたり素敵な景色を眺めたりしながら、縁側で乾杯。地元の人たちとのコミュニケーションなど、想像するだけでワクワクしますね。
【吉野杉の家】
住所:奈良県吉野郡吉野町飯貝624
お問い合わせ:吉野杉の家公式サイト
奈良の木見学ツアーレポート
木の手触りと温もりが心地よい「吉野杉」
手作業でサンディングが行われている
奈良の木は、建物だけではなくいろいろな工芸品にもなっています。
お弁当箱なども特注で作ることがある
吉野周辺では祝箸や普段使いの割り箸が売られている
「割り箸」は環境破壊と思われると思いますが、建築資材から出る背板など、廃棄されるはずだったもったいない部分を使ったエコなプロダクトなのです。大切なお客様へのおもてなしに、吉野杉の素敵な香りがするお箸がおススメ。
首都圏でも「奈良の木」に触れることができるイベントも
奈良の木ブランド課は、奈良の木のことをたくさんの人に知ってもらおうと、首都圏を中心に「奈良の木」のイベントを行っています。
奈良の木を使ったキッチングッズや生活雑貨が展示販売された
奈良の木で造られた食器は手触りがとてもよい
東京の代官山蔦屋書店で行われたイベントでは、樹齢約270年の吉野杉でできた、世界で1つのバイオリンが披露されました。本来、杉は強度が弱く、楽器には向かないそうですが、年輪が緩密な吉野杉は美しい音響を奏で、トウヒやカエデに負けない木ということが実証されました。
内田果樹さんによる吉野杉のスギバイオリン演奏
参考までにお値段を伺ってみましたが、値段はまだついていないそうです。
吉野杉でできた吉野スギバイオリン
いずれにしても、バイオリンには手が届きませんが、吉野杉でできた食器や割り箸などの生活雑貨なら手にすることができそう!香りや手触りの良い吉野杉は暮らしを豊かにしてくれる素敵なプロダクトです。
また、奈良の木のプロダクトやイベントについては、【奈良の木のこと】でも紹介されていますので是非ご覧ください。
※本記事はジモトのココロに掲載された記事です