なかなか続かない運動も、今の時代は「フィットネスアプリ」を利用し、気軽に楽しく続けられるようになりました。しかし、そこには予想だにしなかった危険性が潜んでいるようです。軍事アナリストの小川和久さんが主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』の中で、静岡県立大学グローバル地域センター特任助教の西恭之さんが、軍事的な機密情報が軍人のフィットネスアプリの利用で漏洩していたという衝撃の事実を伝えています。
フィットネスアプリで軍や情報機関の位置が特定
米軍やCIA(米中央情報局)の秘密基地の位置や、各国軍の基地内の人員の行動パターンが、ジョギングなどの運動を記録するウェアラブル(装着用)端末やスマートフォンのデータから明らかになっていることが判明、各方面に波紋が拡がっている。
米ストラヴァ社は、こうした端末のGPS機能を用いて、フィットネスアプリ利用者の位置情報を集めて、「アスリートのソーシャルネットワーク」を提供しており、2017年9月までの運動のヒートマップ(数量を色として可視化したグラフで、この場合は地図に落とされている)を11月1日に発表していた。ストラヴァ社が2009年にデータ収集を始めてから、世界各地の利用者が10億回運動し、のべ20万年間にのべ270億キロの道のりを通った際の、3兆カ所の位置情報が含まれている。
豪国立大生のネイサン・ルーサー氏は、「金持ちの白人がどこにいるか」を示しているという父親の一言をヒントに、ストラヴァ社のヒートマップを眺めたところ、シリアに展開した米軍の配置がわかることを発見し、1月28日にツイッター(Nrg8000)で指摘した。ルーサー氏は安全保障と中東研究を専攻しており、2月から3年生になる。
ルーサー氏の指摘を受けて、ビッグデータや軍事の専門家が、それぞれ関心のある地域の活動を分析し、ツイッターやネットメディアで速報することになった。一般紙では、まずワシントンポストが1月29日に報じている。
それによると、シリアに展開したロシア軍とトルコ軍、サハラ砂漠南縁部の米軍、ソマリアの首都モガディシュのCIA基地、イエメンに外国軍が持ち込んだパトリオット・ミサイル、ウクライナ東部の親ロシア勢力、南シナ海・パラセル(西沙)諸島のウッディ島(永興島)の中国軍、台湾軍の巡航ミサイル司令部などについて、施設周辺の衛星写真に、フィットネスアプリ利用者の行動パターンが示されている。米国家情報長官室の庁舎では、GPSの電波が届かないはずの地下階の人の行動も、無線通信用の電波を利用して追跡されている。

ロシア軍が展開しているシリア西部のフメイミム空軍基地。赤線はストラヴァ社のフィットネスアプリの利用者の行動を示している(同社サイトの写真、アダム・ローンズリー氏 rawnsleyのツイート、1月28日)
ストラヴァ社が公開したデータからは、ある経路を通った人のユーザー名のリストを簡単に作成し、個別のユーザーの行動を数年間にわたって追跡することができる。例えば、用途の不明な施設に、かつてCIA基地にいたユーザーが滞在したら、その施設はCIAまたは同盟国の情報機関の基地と推定することができる、というわけだ。
各国軍や情報機関のユーザーが、位置情報通知機能を停止していれば、以上の情報は暴露されなかったはずだが、この種のアプリは、位置情報を運営側に通知することが初期設定になっており、少なくない軍人や情報機関職員が停止していなかった。
IS(いわゆる「イスラム国」)と戦う米国主導の多国籍軍は、ワシントンポストの取材に対し、「無線機器・アプリのプライバシー設定に関する新たな規則を周知徹底しているところであり、特定の施設・活動においては利用を禁止している」と回答している。
※『NEWSを疑え!』(2018年2月1日特別号)より一部抜粋
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