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前代未聞「森友文書改ざん」問題、新聞各紙がどう報じたか徹底比較

先日掲載の「朝日新聞の刺客、『森友文書』改ざん問題は内閣を2つ吹き飛ばすか」でもお伝えしたとおり、政界を大混乱に陥れた朝日新聞のスクープ。3月12日、ついに財務省は森友学園を巡る決裁文書の14件の書き換えを認め、野党はもちろんのこと与党内からも批判が相次いでいます。前代未聞のこの大問題を、新聞各紙はどう伝えたのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんが自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で詳細に分析しています。

財務省の森友文書改ざんを新聞各紙はどう伝えたか

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「財務省 公文書改ざん」
《読売》…「森友文書15ページ分削除」
《毎日》…「森友14文書 改ざん」
《東京》…「森友14文書改ざん」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「削られた『昭恵氏』」
《読売》…「森友 見えぬ収束」
《毎日》…「にじむ官の配慮 揺らぐ安倍政治」
《東京》…「消された『政治の関与』」

ハドル

一も二もありません。財務省が公文書改ざんを認め、事態を大きく変わりました。各紙フルスペックかと思いますので、見出しが多くなりすぎるかもしれませんが…。

基本的な報道内容

財務省は、森友学園との国有地取引に関する決裁文書14件を意図的に改ざんしていたことについて、国会に報告した。森友学園の問題が発覚した昨年2月から4月までに理財局の職員によって行われていた改ざんは、14文書でおよそ300カ所。合計で75ページ分あった14の文書から15ページ分が削除されていた。削除された部分には、学園に対する特別扱いや価格の事前交渉を窺わせる記述、複数の国会議員による働きかけなどの記載、さらに、安部晋三氏麻生太郎氏などの名に加えて、安倍首相夫人の昭恵氏の名や昭恵氏の発言とされる内容も含まれていた。改ざんの理由については、佐川理財局長の国会答弁との整合性を取るためだったと説明した。

安倍首相は「行政全体の信頼を揺るがしかねない事態で、行政の長として責任を痛感している。国民の皆さまに深くおわびしたい」と謝罪。麻生財務相については「全容解明のために責任を果たしてもらいたい」と続投させることを表明。麻生氏も「進退は考えていない」と辞任拒否。麻生氏は、理財局の一部の者が行ったことであり、最終責任は当時の理財局長佐川氏だとした。

財務省による森友文書改ざんに抗議して、東京・永田町の首相官邸前に1,000人が集結。もとSEALDsの奥田愛基さんらがSNSで呼び掛けたもので、「うそつくな」「安倍内閣は終わりだ」「国民をなめるな」など怒りの声を挙げた。抗議行動は13日以降も続けるという。

昭恵氏の喚問は是非もの

【朝日】は1面トップに2面、3面、4面に関連記事、7面は麻生氏への一問一答、12面と13面に全14文書の削除部分を全掲載、16面社説、17面は識者3人の見方(耕論)。38面にも識者(行政や司法の出身者)3人の意見、39面には官邸前のデモについて。まずは見出しから。

1面

2面

3面

4面

16面

39面

uttiiの眼

《朝日》は“火付け役”だけあって、今朝の紙面には特別に力が入っている。最上段、横位置の大見出しは白抜き黒バックで「財務省 公文書改ざん」と大書していて、有無を言わさない印象。行政による大犯罪が行われたと天下に知らしめる勢いだ。

見開きの2面と3面も、同じく白抜き黒バックで、「必死の責任論封じ」(3面)と「削られた『昭恵氏』」(2面)が横に並べられている。次の段階の焦点を、「麻生氏の進退昭恵氏の国会招致」に見定めていることがここに顕れている。

特に昭恵氏については、この国有地取引に関与していたことを強く窺わせる記述が削除されていたことが確定した。「夫人からは『いい土地ですから前に進めて下さい。』とのお言葉をいただいた」との記述が、近畿財務局との打ち合わせで籠池氏が語った内容として書かれていたのだが、削除されていたのだ。安倍首相は昨年2月17日の衆院予算委で「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」と発言していて、「昭恵氏の関与」は「総辞職議員辞職に直結する。

《朝日》は慎重に、「削除部分は、昭恵氏による取引への明白な関与と言える記載ではなかった。ただ、学園と昭恵氏との関係を財務局が意識していた事実は消されたことになる」と言っているが、そこから先は、昭恵氏の国会での「証人としての証言」、あるいは参考人としての意見で確認していく必要がますます強まったということだろう。

政治家ら関与の存在

【読売】は1面トップに2面関連記事。3面には解説記事「スキャナー」と社説、4面にも関連記事。8面に「調査報告」の要旨、9面識者3人による論点スペシャル、11面にも関連、38面と39面にも関連。見出しから。

1面

2面

3面

4面

11面

38面

39面

uttiiの眼

以前から、問題を財務省の責任だけに限局しようとする傾向はあったものの、昨日までの《読売》は、「もはや安倍政権を見限ったか」と思わせるほど、熱心に報じていたこの問題。いよいよ財務省が改ざんを認める段階になり、あらが目立つようになってきた

1面記事にはぶら下がり会見で麻生氏が語った内容が書かれていて、「書き換えは、最終責任者が(当時の)理財局長の佐川氏ということになる」と話したことになっているが、実は麻生氏は「佐川と呼び捨てにしたのであって、「佐川氏などとは言っていない。15分間の記者会見中、質問に引きずられて一度だけ「佐川さん」と言ったことはあったが、あとは9回、「佐川」と呼び捨てにしている。確かに、発言を括弧で引用する際でも、省略をしたり、若干手を加えたりすることが全くないとは言わない。しかし、文書改ざんの責任者は佐川理財局長までで、その上、とりわけ、大臣である自分の所に責任はあがってこないという内容の会見で、現在は部下でもない人物を呼び捨てにしていることには意味があり、それを誤魔化すように「氏」を付けてしまうのは間違っている。麻生大臣は、「咎人とがにんは佐川だと言いたかったのだから。

3面記事「スキャナー」でも、《読売》は「佐川主犯説」(?)を強化しようと試みて、次のように書いている。

麻生氏自身への報告や相談は『ないです』と言下に否定し、9日に国税庁長官を辞任した佐川宣寿・前理財局長までしか書き換えの事実を把握していなかったことを暗に強調した。

と。

この文章の中では、「佐川宣寿・前理財局長までしか書き換えの事実を把握していなかったこと」が“名詞化”され、そのことによって、「佐川宣寿・前理財局長までしか書き換えの事実を把握していなかった」という不確かな評価を、まるで事実であるかのように読者に誤信させる効果が期待されている。大変悪質な誘導と言わなければならない。

それでも「スキャナー」は貴重な指摘もしていて、「書き換え」の理由として説明された「佐川答弁との整合性を取るため」ということに対する野党の反発を記している。政治家の働きかけに関する記述の削除は「政治家の関与はないとしてきた政府答弁との矛盾を意味するとの指摘は重要

尊大な麻生財務相

【毎日】は1面トップに2面・3面と4面5面のそれぞれ見開きの特集記事、5面にはさらに社説、9面には「削除された主要部分」、11面「論点」は識者の見方、30面と31面にも関連記事。見出しから。

1面

2面・3面

4面

5面

30面

31面

uttiiの眼

《毎日》も《朝日》と同様、「安倍昭恵氏の関与麻生氏の進退を次なる段階のテーマに据えようとしている。ただ、2面・3面の特集記事では、取り上げ方に独特なものを見せていて興味深い。

「昭恵氏」について書かれていたのは貸付契約締結前の経過表の中だった。そこには、籠池氏が昭恵氏を伴って近畿財務局との打ち合わせに国有地を訪れたことや、昭恵氏が学園を訪問したことを伝えるインターネットニュースの内容まで紹介され、「安倍首相夫人が学園の教育方針に感涙した」ことなど、「こうした経緯は本来であれば、貸付契約に直接関係ない記述」。そうした内容がわざわざ書き込まれていたことになる。そして、問題発覚後の財務省の姿勢と矛盾する内容の1つとして削除されたということになるわけだ。

これはなかなか鋭い分析であって、要は、特例的な扱いをするに当たって財務官僚は言い訳をする必要があり、この案件が「特別扱い」である理由を、経過表の中に書き込んでおいた。ところが国会で問題となり、開示させられたら大変なことになるとして、公文書であるにもかかわらず、改ざんして「証拠隠滅」を図ったということだろう。もちろん、これはまだ「忖度」レベルの話であり、政治家の直接的関与がなかった場合のことだが。

「麻生大臣の進退」の方は、秋の総裁選への影響に照準されている。麻生氏を切ればパワーバランスが崩れて総裁選の行方が不透明になるし、麻生氏を守ろうとすれば野党の追及は止むことがない。「いずれの選択も首相にとってはいばらの道だ」と。

麻生氏についてはもう1点。社会面での取り上げ方は、尊大で傲慢、しかし責任は回避する政治家、麻生太郎氏に対する容赦ない批判的なトーンで満たされている。大見出しには「麻生氏 頭下げぬ謝罪」とあり、記事中には「…書面に目を落としながら謝罪はしたものの、頭を下げることはなかった」とする。興味深いのは、麻生氏が手にしていた資料。冒頭のコメントもそこに書いてあったようで、《毎日》は「用意された書面には、言い間違えのないよう「捜査(そうさ)」「調査(ちょうさ)」と読み仮名が記されていた」(実際はルビ)。そしてさらに、「取材中ほとんど表情を変えなかった麻生氏だが、「(1社で)5問も6問も質問しないでくれえねかな」といら立ちを滲ませ、記者の質問を遮る場面も。わずか15分で打ち切った」と憎々しげに書いている。

麻生氏の「誤読」の歴史を知るものにとって、「捜査」と「調査」にルビと聞いて失笑するしかないが、実は会見中、「調査」と言うべきところを何度も「捜査」と言い間違っていた。官僚も大変だ。

官邸前に怒りの声が響く

【東京】は1面トップに2面の解説記事「核心」、3面関連、5面社説、7面に「改ざん報告詳報」、24面「こちら特報部」の「ニュースの追跡」、26面と27面にも関連。見出しから。

1面

2面

3面

5面

24面

26面

27面

uttiiの眼

普段から見出しを多く出す傾向の強い《東京》だが、今朝は“火付け役”で完全フルスペックの《朝日》と比べても、勝るとも劣らない見出しの数と量になっている。1面記事のなかに、まず「『首相』『昭恵氏』削除」と縦に大見出しをうち、黒バック白抜きで目立たせた2行を紙面中央から左側に掛けて散らしている。その中身は「昭恵夫人から いい土地だから進めて」「『私や妻が関与なら 首相も議員も辞める』」。つまり、この文書改ざんをしなれば、昭恵氏の関与が白日の下にさらされ安倍氏は退陣を余儀なくされていたということだ。そして、その連関は今も変わらない…。

もう一つ、見出しの2行目には、「財務省公表 『佐川氏に最終責任』」と“佐川氏に最終責任がある”という表現を括弧の中に入れ距離を取っている。つまり、財務省の主張であって、事実あるいは真実として確認されたわけではないということ。この丁寧さは重要

官邸前でデモがあったことについて、《朝日》、《毎日》、《東京》の3紙は写真入りで伝えている。しかし、このデモをSNSで呼び掛けたのが元SEALDs(シールズ)の奥田愛基さんだと書いているのは《東京》のみ 現場でマイクを握って訴えている奥田さんの写真も掲載されている。

あとがき

以上、いかがでしたでしょうか。

ややこしい話を追っていくと、要するに「削除された部分」には「隠したかった事実が書かれているのだという単純な意味を忘れてしまいがちです。起こったことはニュートラルな「書き換え」ではなく、不都合な事実を覆い隠すための改ざん、隠蔽工作だったということが、まず確認すべき事柄でしょう。

この改ざんを官僚機構による「忖度」犯罪と言うべきかどうかはまだ分かりませんが、2月17日に安倍氏が「私か妻が関与していたら総理も議員も辞める」と答弁したことと、「2月下旬から4月に掛けて改ざん」したことには関係があるとしか思えません。「忖度」と言いますが、安倍氏の答弁は、むしろ脅迫に近いものとして官僚諸兄諸姉に受け止められたのではないかと思います。

官僚とすれば、改ざんをしなければ、自分が安部晋三氏を首相の座から引きずり下ろし、議員辞職までさせたと言われかねないと感じ、悪事に手を染めたということでしょうか。勿論、もっと分かりやすい“政治の関与”があり、命令されたということかもしれませんが。

いずれにせよ、本当に大変なことになってきました。

また明日。

image by: 首相官邸

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額440円(税込) 【発行周期】 毎週 月・火・水・木・金曜日(祝祭日・年末年始を除く) 発行予定

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