Eコマースの先端を行くアメリカでは、好みやサイズや購入予算など、顧客個々の条件に合わせる「パーソナリゼーション」への取り組みが非常に重要視されていると伝えてくれるのは、『メルマガ「ニューヨークの遊び方」』の著者でNY在住の、りばてぃさん。マーケティングのスペシャリストでもあるりばてぃさんによれば、パーソナリゼーションはさらに進んで、専門性をどれだけ提供できるかが鍵となっていくようです。
「パーソナリゼーション」はなぜ大事?
以前、「米国では『パーソナリゼーション』が、特に小売業界におけるビジネス・チャンスの鍵になると言われている」とお伝えした。なぜなら、パーソナライズされていない買い物体験からはフラストレーションを感じたと回答した消費者は71%もおり、20代以下のZ世代や20~30代のミレニアル世代といった若い世代では、よりその傾向が強まっている。
強まるどころか、NRF(全米小売協会)の調査によると、Z世代の84%がパーソナライズされた小売業者のお勧めに従うとまで回答しているほど…というのが前回のお話。今回は、この『パーソナリゼーション』について、もう少し考えていきたい。
(1)Eコマースの普及
『パーソナリゼーション』とは、カスタマイズなどとも表現し、1人1人のニーズに合わせること。以前からカスタマイズ商品はあったし、特に新しい概念ではないのに、今、重要視されているのは、Eコマースの普及にある。Eコマースが普及する以前は、お店に買い物にいき、陳列棚を見て商品を選ぶだけだった。
商品かつ値段が希望に沿う物なら購入するし、そうでなければ別のお店に行くだけだった。でも、Eコマース普及後は、まずはオンラインリサーチをする。指定するEコマースサイトがあれば、そこで商品を探す。
でも、Eコマースに掲載されている商品数はたいがいの場合、めちゃくちゃ多い。デジタル化されているので、ほぼ無限に商品を追加していくことができるからだ。在庫切れになっても、「在庫切れ」と表示するだけで商品画像や値段などの詳細はそのままにしておく。
取り扱いを止めたとしても、絶版にならない限り(書籍などは絶版でもそのまま掲載していることもある)ニーズがあれば取り寄せる場合もあるため、そのまま掲載しておくというのは珍しくない。
つまり、年数が経てば経つほどEコマースに掲載される商品数は増加。お店によっては、1つのカテゴリーだけでも数十ページに及ぶこともあったりする。無限だ。
稀に、「うちはこだわりのお店だから取り扱い商品は5種類だけ」なんてところもあるが、希少価値の高いものやかなり限定された商品になっていたりする。たいがいの場合は、Eコマースに無限の商品が掲載されているのだ。
これに加えて、例えば、服の場合は、サイズやデザインも個々人で違う。また、最新の商品なのか?セール品なのか?お得なプロモーションの商品に興味があるのか?等々、購入時の条件はバラバラだ。
商品数が膨大だと条件に合う商品を探し出すだけでも時間がかかってしまう。そこで、登場する便利なものが『パーソナリゼーション』だ。
商品検索の条件を絞ることもできるが、会員登録しておくと過去の閲覧履歴や購入履歴、お気に入りリストなどから、その人の好むだろう商品や条件に合ったものが表示されやすくなるのである。
また、Eメールでオススメの商品情報も届いたりする。パーソナライズされることで企業にとっても商品を売りやすくお客にとっても商品を買いやすくなるのである。
(2)買い物はEコマースでだけじゃない
Eコマースでの買い物が便利になっていっても、必ずしもEコマースで買い物をするわけではない。
広告専門誌のAdAgeの9月28日の記事によると、米国のメジャーな小売店客のうち、Eコマースだけで買い物をするという客はたったの7%である一方で、73%が複数の購入方法、いわゆる「オムニチャネル」(Omnichannel)でショッピングしていることがわかったとのこと。また、複数の購入方法を柔軟に活用するという人も増えているという。
オムニチャネルとは、販売方法すべてを統合した販売戦略のこと。
例えば、実店舗、テレビ、ラジオ、ダイレクトメール、カタログ、といった従来の販路に加えて、Eコマース(含、Mコマース)もシームレスで繋がっていることを「オムニチャネル」と呼ぶ。
実店舗かEコマースのどちらかではなく、その両方だったり、はたまたカタログオーダーだったりと、客はその時の状況に合わせて柔軟に購入方法を選んでいるということなのだ。特に、デジタル機器を使いこなすミレニアル世代は、より便利なものを利用する傾向にあり、実店舗が便利な場合は実店舗でも積極的に買い物をしている。
実際、ミレニアル世代の半数を超える56%が、週に1度は実店舗で買い物すると答えている。ただし、これまでの世代(例えば、これまで米国の経済を牽引してきたベビーブーマー世代、日本の団塊の世代に近い世代層)などとの違いは、単純に実店舗を訪れているのではなく、事前にオンラインで商品情報を「リサーチ」した上で買い物に行っている人が67%もいるという点である。
説明が長くなったが、買い物はEコマースだけではないのだ。じゃあ、Eコマースが普及した今、実店舗で求められる買い物体験は何かというと、Eコマースやオンライン情報では得られない、より専門的な商品知識なのだそうだ。
(3)専門性の高まりがより高度なパーソナリゼーションを提供
2017年からはじまり今年で2年目となるインターネット上のマーケティング会社Sailthruによる「リテール・パーソナリゼーション指標」(Retail Personalization Index)というのがある。
小売企業100社を独自の指標をランキング形式で発表しているもので、例えば、お勧め商品が関係性あるかどうか、メールマガジンなどのニュースレターなどがウェブブラウザーの履歴を反映しているか、実店舗、ウェブサイト、Eメールなどの異なるチャンネルを通じた全体の購買体験がいかに統合されているか等を評価。
要するに、企業やブランド側が消費者をどれだけ理解しているかをどのように示してくれているかを評価した指標なのである。
調査の結果、2018年9月5日に発表された最新の「リテール・パーソナリゼーション指標」の第1位は昨年に引き続き美容専門店のセフォラ(Sephora、指標総合点92ポイント)だったのだ。
ちなみに2位以下は、ビューティ・ブランドのボディ・ショップ(Body Shop、84ポイント)、3位はタイで、大型量販店のウォルマート(Walmart、81ポイント)と女性用ファッション・アパレルのアーバン・アウトフィッターズ(Urban Outfitters、81ポイント)、5位はオンラインマーケットプレイスのイーベイ(eBay、78ポイント)となっている。
ご参考:
● Retail Personalization Index
パーソナリゼーション指標に関わる重要3要素とは?!
今回のランキング形式の結果を受けてSailthru社は、専門店はさらに専門店化していると分析。またそれが、Eコマース大手のアマゾンに対抗できる策であると指摘する。なぜなら、「リテール・パーソナリゼーション指標」のトップにランクインするための重要な要素は以下の3つ。
1.何がこの小売企業を特別なものにしているのか?
2.何が彼らのお客を特別にしているのか?
そして今年追加された、
3.「パーソナリゼーション」を使うことで消費者の買い物体験が専門的になっているかどうか?
Eコマースだけでなく、実店舗においても、1人1人のニーズに合わせてパーソナライズできれば単におすすめを表示するだけのアマゾンには提供できない、店舗ごとの専門性をお客さんに提供できるのである。
そんなわけで、前回、ご紹介したイタリア生まれのディエチ・コルソ・コモ(10 Corso Como)は、イタリアのミラノで誕生してから30年弱の歴史を持つが、専門性を高め、細分化した消費者の個々のニーズを満たすことを考えた世界初のコンセプト・ストアなので、今まさに注目すべき小売企業の1つと言えるのである。
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