MAG2 NEWS MENU

現役アナが解説。役者の演技のように口調を操るための6要素

人前で話すあらゆるシーンに役立つプロの技を伝えてくれるメルマガ『話し方を磨く刺激的なひと言』の著者で、アナウンサー歴30年の熊谷章洋さん。「話し方の表現力を上げる5つのアプローチ」シリーズの「口調を操る」その2です。今回は口調を構成する6つの要素を具体的にイメージすると、役者さんのように口調で別人格を演じられるようになると解説します。さらに村上春樹小説の登場人物の口調を要素ごとに想像することで、口調を具体化する実験もしてみせます。

演技、役作りの考え方~口調に関する6つの要素

話す内容の良し悪し、完成度に関係なく、表面的な「しゃべりの技術」によって、話し方の表現力を上げる5つのアプローチのうち、アプローチその3「口調を操る」についての解説を続けます。

今回は、口調を変えて話す効果、その2番目の役作り、個性・キャラクターづくりをすることができる、という点について。

口調の要素を分析して、ひとつひとつイメージを設定していくことで、役者さんのように、別人格を演じられるぐらいになってみましょう。

ではまず、口調にはどういう要素があるのか、考えていきますね。

1.声色

声色については、口調の一つの要素として、既に前の記事でご説明しましたね。そのなかで、声色を構成する要素として、高低、強弱、ひっかける、細い太い、一つの音に含む息の量、などについて解説しましたので、詳しくは、まぐまぐサイトから過去記事「NHKの女子アナと女性アイドルを比べてわかる、声色を決める5要素」をご覧ください。

2.発音

発音と聞くと、多くの人がイメージするのは、滑舌、聞き取りやすくハキハキ話す、口をパクパク動かす…のようなことだと思うのですが、ひとくちに発音と言っても、実は、いくつかの要素があります。

明瞭さという点では、確かに、口を正確に動かすことで、曖昧な音を出さないようにする、という意味が大きいでしょう。

それに加えて、発音の粒立ちという点においては、母音や子音を強く出すために、息を強く吐く、舌で強く弾くなど、呼吸の仕方、力の入れ方も重要になってきますし、一音一音の長さという点では、出している音(主に母音)をどのぐらい響かせるか、でも違いが出ます。

さらに、欠かせないのは、調音点という要素です。調音点とは、その名の通り、口腔内で、音を作り最終調整するポイントのことです。例えば、同じ「カキクケコ」でも、口の前の方で出す音と、奥の方で出す音では、出る音の感じが全然違いませんか?奥の方で音を作ると、曇って内向的な音になりますよね。

3.表情と口の形

テーマは口調なのですが、実は表情、口の形という外形的な要素も、口調に影響を与えています。例えば、にこにこ笑顔の人は、声だけでも、笑っているように聞こえます。

これは、実際に笑顔になることで、口角が上がる、歯が出るなどして、発音が明瞭になる、乾いた音になる、ほか、高低も少し高めになったり、抑揚が付いたり、テンションが上がったりするからです。

逆に、陰気で嫌味な人を演じる役者さんは、わざわざ顔をゆがめたり、口をへの字にしたりします。また、歯を見せずに、上唇が被りがちな人は、音がこもります。内向的なキャラクターを演じるには、そういう口の形が持ってこいですね。

テレビや映画などの役者さんで、どんな役を演じても、あまり印象が変わらない人って、いますよね。そういう役者さんは、たいてい、顔が変わっていないんですよね。(イメージが大事なので変えられないということもあるでしょうが…)

役を演じる、という意味では、このような、イメージする人のように顔を作るというのは、ストレートなやり方ですが、最も導入しやすい方法かもしれません。

4.アクセント・イントネーション

抑揚を大げさにしたり、特徴的にすることで、口調は大いに変わります。アクセント、イントネーションは、音楽で言えば、音程です。音感が鋭い人は、すぐにイントネーションを真似できるかもしれません。

例えば、方言をイメージしていただければよいと思います。津軽弁、大阪弁、京都弁、沖縄弁…もちろん、それぞれ特有の語彙がありますが、語彙を知らなくても、音程を取り入れるだけで、キャラクターが作れますよね。

ちなみに、名古屋弁などを真似する時には、語頭のアクセントを、3音節目以降に持ってくるようにしたりします。標準語では、語頭の1音節か2音節目に、アクセントが必ず来るんですね。

例えば、サ/ンドウィッチであれば、2音節目に高くなるアクセントなのですが、サンド/ウィッチというように、4音節目までアクセントを遅くすると、名古屋弁になります。

また、デパートの館内放送は、語尾が半音上がる、と過去記事でお話ししましたが、そういう意味では、あれもひとつの方言みたいなものなのかもしれませんね。

このように、自分が再現してみたいイントネーションは、どこにアクセントがあるかを考えてみると、導入しやすくなると思います。

5.緩急と間(ま)

早いか、ゆっくりか、そして、間の取り方が特徴的な口調って、ありますよね。田村正和さんが演じた、古畑任三郎などは、発音と間を駆使した、絶妙な演技でしたね…。

6.言い回し、よく使う言葉

ですます、口癖、専門用語、使う言葉の傾向、漢語と和語など。上記のイントネーションの部分でも触れましたが、方言の語彙もそうですね。〇〇でんがな!と言ったら大阪弁(芸人さんしか使わない説もありますが…)〇〇だがね!と言ったら名古屋弁。

要するに、が口癖の人、ソリューションがうんぬん、ロードマップをどうこう、など、カタカナ語が好きな人、漢語中心の話し方は、真面目、男性的、論理的、頑固で融通がきかない…などの印象を演出できたりしますね。

村上春樹作品の口調を想像する

では、口調を設定することによる役作りの具体例として、前回記事の最後にご紹介した、作家、村上春樹さんの作品に登場する、比喩表現された口調を、想像から、要素で分析してみましょう。

お題は、「私、あなたのしゃべり方すごく好きよ。きれいに壁土を塗ってるみたいで。」(~『ノルウェイの森』)

相手の女性に好きと言われた、その人のしゃべり方はどういうものだったのでしょうか?この言葉だけを材料に考えますので、もしかしたら作品全体で言及されている表現とは、異なる可能性もありますが、その点はご容赦くださいね。

まず、きれいに壁土を塗っているようなしゃべり方、という表現から得られるイメージを挙げていきましょう。

大事なのは、同じ塗るという行為にしても、なぜここで、絵画やペンキではなくて、壁土でなくてはいけないのか?ということですよね。

それはおそらく、薄くて均一に塗ることができる塗料ではなく、厚み、質感、重厚感、素朴さ、空気を含む、粗さがある、ムラがでやすい、もろい、塗った跡が模様になる、もしかしたら、壁の下地にしかならないかもしれない、そういう材質、ということでしょう。

日本で言えば、漆喰のようなものか、あるいは日本建築で使われる本当の壁土か…そういう素材を、きれいに塗る。塗り残しなく、厚さを一定に、土を継いでいくところも丁寧に、角にちょっと丸みを持たせて、塗った跡は、自然な心地よい仕上がりに…。

そういう仕事をするような気質の人の、話し方といえば、丁寧、律儀、素朴、ゆっくり、相手に伝わる、落ち着き、美意識(悪く言うと神経質)、明朗ではあるがハキハキし過ぎない…きっとこんな感じでしょうね。

ではこのイメージを、上記の要素に変換していきましょう。

1.声色
声は高すぎないでしょうね。張り過ぎず、丸く柔らかく

2.発音
聞き取りやすさを意識しているため、発音はきれいですが、吐く息は強すぎず、一音一音の長さが揃っていて、調音点は平均的、最後までしっかり発音するため、母音を響かせる感じ

3.表情と口の形
表情は穏やかではあるが、笑い過ぎない、歯はたまに少し見える程度、口の形は歪みがない

4.アクセント、イントネーション
抑揚が大げさにならない程度に、綺麗な音程

5.緩急
ゆっくり話し、なおかつ、考えながら間を取る

6.よく使う言葉、語彙
ですます、丁寧語。村上春樹作品ですので、カタカナ語、外来語はもしかしたら使う人かも?ただ、相手にわかりやすく伝えることに、高い意識がある人なので、この言葉、この話、伝わったかな?と思ったら、「これはどういうことかと言いますと…」のように、すぐに違う表現で説明を付け足すような…ああ、もしかしたら、比喩表現やたとえ話が上手かも!

…と考えると、壁土を塗るような話し方って、村上作品そのものみたいな感じ、なのかもしれませんね。あくまで、私の想像です、悪しからず。

このような方法をとらず、直感的に、他人の特徴をまねることが得意な人もいらっしゃるかもしれませんが、印象をキャッチすることと、自分で再現することは、多くの人にとっては、次元の違う難しさがあるものです。

自分で再現するのがうまくなるためには、このように、その性質を分析して、各要素を、言ってみれば数値化すること。何を、どのぐらい、どうすると、イメージが再現できるかを考える。

この方法は、物まね、役作りに限らず、人生のいろいろなシーンに応用できるような気がします…。

image by: 663highland [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons

熊谷章洋この著者の記事一覧

アナウンサー歴30年、極限の環境で話し続ける著者が、実体験から会得した「話し方のコツ」を理論化。人前で話す必要がある人の「もっと〇〇したい」に、お答えしています。一般的な「話し方本」には無い情報満載。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 話し方を磨く刺激的なひと言 』

【著者】 熊谷章洋 【月額】 ¥346/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 月曜日(祝祭日・年末年始を除く) 発行予定

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け