1月31日に行われたKDDIの決算会見で、同社社長が楽天モバイルの商用サービス開始の遅れについて「ちょっとひどい」と発言。この苦言の背景をケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川温さんが、自身のメルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』で深堀りします。さらに、au PAYが2月10日から展開するキャンペーンに触れ、ドコモの反応とともにQRコード決済戦争の今後を予想しています。
楽天モバイル、サービス開始当初はスカスカで快適?――KDDIに手の内を知られた楽天はどう攻めていくのか
先日、これまでの5000名から2万名の追加募集を行った楽天モバイルの「無料サポータープログラム」。本来であれば10月から商用サービスが開始されるはずであったが、5000名限定ということで、端末メーカーなどは販売計画台数が大幅に狂ったはずだ。
それはローミングパートナーも同様で、KDDIの高橋社長は「楽天が10月から始めるとあって、こちらも準備を進めていたが、商用サービスが延期となり、ローミング収入のあてが外れた。これは、ちょっとひどいじゃないかという話になった」という。
ライバルであるKDDIはローミングパートナーでもあるが、KDDIにとってみれば、楽天モバイルのユーザーがどれくらいデータ容量を使い、楽天のネットワークはどこか使えて、どこが使えないかなど、楽天モバイルの状況は手にとるようにわかっているはずだ。
無料サポータープログラムが開始され3ヶ月が経過するが、KDDIは楽天モバイルをどのように見ているのか。決算会見で高橋誠社長は「無料期間ということもあり、思ったより使われているようだ」という。確かに先日、行われた楽天モバイルの説明会でも12月にはユーザーひとりあたり15GBも使われていると明らかになっている。
一方、高橋誠社長は、楽天モバイルにおけるサービス開始当初の「特有な状況」を危惧している。「4月サービス開始時はエリアは狭いが、加入者が少ない。そのため、言い方は悪いが、ネットワーク的にはスカスカなので、すごく速く快適に見える。最初は品質がよく見えるので、警戒をし、エンゲージメント施策もしっかりして楽天に対応していく」(高橋社長)とした。
確かに楽天モバイルのネットワークにつながれば、周波数帯は1.7GHzしかなくてもユーザーが少なくスカスカな状態。ネットはサクサクとつながるはずだ。また、auローミングであれば安定して使えるため「楽天は意外と快適」という評価になりかねない。そこにKDDIは危惧をしているというわけだ。
一方、楽天モバイルが攻めてくる料金プランに関しても、KDDIからは手の内が見えている感がある。高橋社長は「大容量プランをメインにしてauのローミングエリアに入ると非常に高額な……いや高額なって言うと違うな。データ量に応じたローミング料が発生するため、大容量プランには来ないかなと内心思っている」と語った。
提供している側が、ローミン料を高額と口を滑らせてしまうのはどうかと思うが、確かに1GB500円という設定であれば、大容量や定額プランは仕掛けづらい。つまり、楽天モバイルはネットワークと料金でKDDIに手の内を明かした状態で戦いを挑まなくてはいけないということだろう。
ペイメントサービスで求められる「継続的なポイント発行」――QRコード決済戦争は4キャリア陣営に収束か
KDDIは2月10日よりau PAYで「誰でも!毎週10億円!もらえるキャンペーン」を開催する。一人あたり最大7万ポイントを還元。しかもauユーザーだけでなく、他社ユーザーも還元が受けられるという。
ここ最近、どのPayも還元率は20%や40%と高いものの、還元額自体は1500円や3000円という上限があったため、魅力に乏しかった。au PAYのキャンペーンは、PayPayが最初に行った100億円キャンペーンに匹敵する大規模な還元額と言える。最大の7万円を還元されるには7週間で35万円分の買い物が必要となるが、家電量販店などでもau PAYが使えるため、大型家電を買うにはちょうどいいタイミングだろう。
KDDIの高橋誠社長は決済事業に対して「ペイメントサービスは、ポイントの発行が連携していないと生き残れない。通信会社はいままでのポイントの仕組みがあるので連携しておくと強い」という。
携帯電話会社のポイントサービスは毎月、発生する通信料の支払いに対してポイントが発生する。さらにPontaを取り込むことにより、街なかでもポイントが発生する仕組みがようやく整う。KDDIではau WALLETというブランドをau PAYに統一。au WALLETアプリもau PAYアプリとなり、KDDIグループの金融関連会社のシナジーを載せ「金融に強いスーパーアプリ」を目指していく。
PayPayも同様にスーパーアプリ化を狙っているが、PayPayは「これからの計画」であるのに対し、au PAYはすでに金融に関する関連会社を数多く持っているのがアドバンテージとなりそうだ。
一方、NTTドコモは「何億円を何日間とは言わない。一時的な何百億円、何日で10億円というやり方はちょっと……」(吉澤社長)とPayPayやau PAYのやり方とは距離を置くと明言。それよりも、コンビニやドラッグストアなどでのポイント還元率を上げるキャンペーンを継続的に展開していく姿勢を示した。
また、スーパーアプリ化に対しては「そういう言い方はあまりしない。そもそも、スーパーアプリの定義もよくわからない」(吉澤社長)と一刀両断。ミニアプリを載せることで利便性を上げていく。いずれにしても、QRコード決済戦争は体力勝負になってきた。早晩、大手4キャリア陣営の殴り合いになりそうだ。
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