日本に住む私たちには考えられないような動物たちが街を闊歩している国、インド。そんな不思議でカオスな国の日常を、今回も無料メルマガ『素顔のアジア(たびそら・写真編)』の著者でナショナルジオグラフィック写真賞作家の三井昌志さんが届けてくださいました。私たちが「野良」と認識している牛たちの実態は、ちょっとばかり意外ですよ。
インドで野良牛にエサをあげて功徳を積む
インドの街を歩くと、様々な動物たちに遭遇する。
その代表格が「野良牛」だ。街角をフラフラと歩きながら、道ばたに落ちている残飯を漁っている牛のことだが、実はちゃんと飼い主がいて、夜になると家に戻ってミルクを搾られている。牧草の代わりに家庭から出る生ゴミを主食にしている飼牛、というのがいわゆる「野良牛」の実態なのだ。
この「野良牛」たちは、市場に並べられている商品を勝手に食べてしまうので、市場で商売をしている人たちにとっては大変な厄介者なのだが、中には売り物のバナナを牛にあげている心優しい人もいる。牛はヒンドゥー教では神様の乗り物とされているので、大切にすれば功徳を積めるのだ。
インドの街角で寂しげな目をした野良犬を見かけた。インド人は野良犬を特にかわいがったりはしないが、邪険にもしない。ただそこにいるものとして、存在を許容している。
市場の片隅で、5匹の野良犬が身を寄せ合って眠っていた。振り返れば、そこに野良犬がいる。それを見て何となく切ない気持ちになる。それがインドという国だ。
気持ちよさそうにひなたぼっこしているインドの猫。ヒンドゥー教徒に嫌われている猫は、インドでは見かけることの少ない動物だが、ムスリムの街や漁村にはいる。やっぱり猫のいる風景って平和だな。
野良動物大国インドでは、飼い犬も少ないが、飼い猫はもっと少ない。この猫ちゃんは珍しく飼われているようだが、外に出たそうな顔をしていますね。
東南アジアと違って、インドの町や村で鶏を見かけることは少ない。鶏肉はインドでもっとも食べられている肉だが、ほとんどがブロイラーで、農村で鶏を平飼いにする習慣があまりないのだ。インドの農村では、コケコッコーの泣き声と共に朝を迎えるのではなく、ンモォーという牛の声で目覚めるのだ。
インドではサルをよく見かけるが、中でもハヌマンラングールは人間をあまり警戒しないようで、人の生活圏の中に普通にいてびっくりする。子供が母親に抱きついている様子なんて人間にそっくりだ。
インドの田舎を旅していると、昔話のような光景に出会うことがある。白いヒゲの老人が、山羊の群れを連れて村を歩いていた。インドも急速に変わりつつあるが、変わらない光景もまだまだある。
インドの暮らしは動物と共にある。パンジャブ州の農村で出会った山羊は、シク教徒の老人と一緒に家族みたいな顔で座っていて、朝食のチャパティの残りをむしゃむしゃと食べていた。きっと孫みたいなものなんだろうな。
リスもインドでよく見かける動物だが、小さくて動きが素早いので、撮るのが難しい。このリスは海を望む堤防の上でじっとしていた。まさか海を眺めていたわけじゃないと思うけど。
image by: Masashi Mitsui