流通大手のイオンが立ち上げたスポーツ専門ECサイト「イオン・シグナ・スポーツ・ユナイテッド」を、さまざまなメディアが大きく取り上げています。その存在は国内スポーツ業界にどのような影響を与えうるのでしょうか。今回の無料メルマガ『がんばれスポーツショップ。業績向上、100のツボ!』では経営コンサルタントの梅本泰則さんが、イオン・シグナ・スポーツ・ユナイテッドの実力を計るとともに、「日本のスポーツ業界がコロナ後に生き残る方法」を提案しています。
新しいECモールの提案
自粛も解除されて、スポーツ用品業界もゆっくり動き始めています。とはいえ、メーカーさんも問屋さんも小売店さんもどことなくちゅうちょをしている様子です。今後の方向性を考えているのでしょう。
メーカ-さんの苦労
このコロナ禍で、スポーツメーカーさんも大変な思いをしていることでしょう。問屋さんや小売店さんからいただいていた注文のキャンセルが続いています。ですから、予定の売上が出来ません。さらには、春先に納めた商品の返品依頼も来ています。学校が休校となり部活も行われないので、お店に並んだ商品の行き場を失ってしまったからです。メーカーさんは、この状態をどう乗り越えていくのでしょうか。
大手スポーツチェーンに安値で在庫を買い取ってもらうというメーカーさんもあるかもしれません。しかし、大手スポーツチェーンもコロナで受けた被害は同じです。メーカーさんや問屋さんの在庫を買い取る余力はないでしょう。それどころか、売場の商品を値引きして処分に入っているお店さえあります。メーカーさんにしても、在庫を掃きたいのはやまやまですが、値引き販売をされてはブランドイメージが下がってしまいますのでここは我慢ですね。一方、いくつかのメーカーさんは、最近のECショップでの価格の乱れに頭を悩ませています。
ですから、このコロナ禍を契機に、販売方針や生産方針を変えてくるかもしれません。例えば、価格を乱すお店との取引をやめるとか、大手スポーツチェーンとの取引を減らすとか、新製品の受注、生産、納品サイクルを短くするとか、何かこれまでとは違った戦略です。
そんな矢先、業界にとっては少し新しい動きがありました。イオンがスポーツ専門ECサイトを立ち上げたのです。「イオン・シグナ・スポーツ・ユナイテッド」と言います。
イオン・シグナ・スポーツとは
「イオン・シグナ・スポーツ・ユナイテッド」はドイツのシグナ・スポーツ・ユナイテッドとの共同出資で出来た会社です。そのドイツのシグナ・スポーツは年間640億円の売上を示す、スポーツ専門のECサイト。イオンは、そのノウハウを取り入れたスポーツ専門ECサイトを運営していくようです。
そこで、イオン・シグナ・スポーツのサイトを覗いてみました。今のところ、まだ内容は充実していません。チームスポーツ、テニス、自転車の3つのカテゴリーで構成されています。自転車はまだ準備中で、テニスは情報記事ばかりです。商品を販売しているのはチームスポーツだけで、それもチームユニフォームに限定されています。オンラインショップというまでには至っていません。
この先、どのように進化していくかは未知数ですが、ドイツ本国のシグナ・スポーツのようなスタイルになっていく可能性はあります。それならば、スポーツ業界へのインパクトは大したものにはならないでしょう。今のところ、国内の大手スポーツチェーンのオンラインショップの方がはるかに優れています。業界に新しい息吹を注ぎ込むのであれば、もっと違った戦略を打つことです。
日経ビジネスの記事には、イオン・シグナ・スポーツは「デジタル技術を活用してスポーツが好きな人たちの生活をさらに便利にする」という社長の言葉が載っています。「デジタル技術」と「便利な生活」がキーワードです。ぜひそんなECサイトを目指して、業界に刺激を与えて欲しいと思います。そこで、一つ提案です。
問屋が作るECモール
イオン・シグナ・スポーツがドイツ本国のようなECサイトになるとすれば、これは、スポーツブランドを集めて販売するスタイルです。それを、ブランドではなく、スポーツショップだけを集めたECモールは出来ないものでしょうか。言ってみれば、楽天やヤフーのECモールから、スポーツショップを抜き出したようなものです。
実は、このECモールの作成運営に適した会社があります。それは問屋さんです。メーカーさんは自社ブランドだけを販売するのが仕事ですから、当然このECモールを作っても意味がありません。また、どこかの小売店さんが頑張って作ったとしても、他のお店が参加するかどうかは疑問です。
それに対して、問屋さんはどうでしょう。問屋さんは全国のスポーツ店とつながっています。それらのお店を一つのモールに集めることは難しくないはずです。今、問屋さんの経営は決して楽ではありません。だからこそ、新しいスタイルのビジネスに挑戦してみてはどうでしょう。
そして、全国の多くの小売店さんがECショップをうまく運営できないでいます。そんなお店のために、EC販売のお手伝いをしてあげてはどうかと思うのです。
その収益は、他のECモールと同じようにモール出店社の売上の数%を販売手数料としていただくことで、稼ぎます。また、このECモールの特徴は、価格競争をしないということです。各お店は、自分の強みを活かした商品やサービスを提供します。運営会社は、しっかりとお店の戦略を練らなければいけません。さらに、お店は顧客情報を自由に使えることが重要です。また、運営会社は各店舗のコンサルタント業務を行います。グーグルアナリティクスを使って、デジタルマーケティングを進めることなどですね。
もしこんなECモールが運営できれば、問屋さんにとって新しい道が開けます。しかも、全国の小売店さんの役に立つことができるのです。イオン・シグナ・スポーツが業界に新規参入したこの機会に、考えられてはいかがでしょう。
■今日のツボ■
- イオン・シグナ・スポーツの業界参入は一つの契機となる
- ブランドではなく、小売店を集めたECモールを立ち上げる
- 問屋さんにとって、新しい道がひらける可能性がある
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