新型コロナウイルスの感染が拡大する中、アメリカのトランプ政権は世界保健機関(WHO)に対し、脱退を正式に通知しました。正式な脱退は、1年後の来年7月6日になるそうです。WHOは中国に完全に支配されていると、批判を繰り返してきたトランプ大統領。しかし、この選択は正しかったのでしょうか。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』の著者で、ジャーナリストの内田誠さんが新聞各紙をウォッチ。WHOの知られざる情報を紹介するとともに、米国の厳しい惨状も明らかにしています。
WHOからの脱退を表明した米国を新聞各紙はどう伝えたのか?
【ラインナップ】
◆1面トップの見出しから……。
《朝日》…Go To 強まる逆風
《読売》…都「夜の街」実態調査へ
《毎日》…都、警戒最高レベル
《東京》…都 感染警戒度最高に
◆解説面の見出しから……。
《朝日》…中国包囲網
《読売》…香港 揺らぐ「金融都市」
《毎日》…Go To「なぜ今?」
《東京》…防止指針 守られたか
【プロフィール】
*何か、第1波のときより緊張感が漂っているように感じます。コロナでまた1つ大きな岐路を迎えています。
■寄付を頼みとするWHO■《朝日》
■「再流行防ぐ戦略」は?■《読売》
■ポリアンナ症候群■《毎日》
■米国の惨状■《東京》
寄付を頼みとするWHO
【朝日】は13面のオピニオン欄に、日本国際交流センター執行理事・伊藤聡子さんの寄稿。タイトルを以下に。
コロナ対策の司令塔
WHOへの更なる寄付 期待
このコロナ危機の最中、WHO(世界保健機関)は民間からの寄付による資金調達に踏み切ったという。米国の脱退表明の影響もあり、各国政府の拠出が伸び悩むなか、わずか7週間に世界で2億ドル(216億円)以上の寄付が集まり、日本からも10億円を超える寄付があったという。この寄付が、WHOの新型コロナ対策を支える最大の資金源だという。
政府拠出の場合、意思決定や手続きに時間がかかったり、各国の政策的判断から地域や使途に縛りが掛かっていたりするが、民間資金にはそれらがなく、迅速かつ柔軟に支出できる。新型コロナのように感染拡大の震源が世界地図の上を頻繁に移動するような相手と戦うには、民間資金の方がよいと言える。
米国は「自国第一主義」を掲げて脱退したが、寄付の多くは米国の企業と個人からのもので、その多くがテック企業(IT企業)からのものだという。「世界中に市場を持つ以上、国際社会への支援は必要な社会貢献であり投資でもある」と。
●uttiiの眼
知らなかった。大変興味深い内容で、WHOが一種のNGO化していて、しかもその方が行動しやすいのだという話と受け取った。日本国際交流センターは、WHOへの寄付の日本の窓口で、伊藤聡子さんの寄稿は「さらなる支援を期待したい」と寄付を促すものになっている。
現状でIT企業からの寄付が圧倒的であることについて、肯定的な文脈のみで書かれているが、仮にWHOが「テック企業」寄り、あるいはテック企業の所在する米国寄りの判断や決定を行う懸念はないのだろうか。反対に、テック企業にとってマイナスになるような決定も行う自立性は確保されているのだろうか。併せて、トランプ氏による「中国寄り」批判の当否についても一言欲しかった気がする。
「再流行防ぐ戦略」は?
【読売】は3面の社説を取り上げる。タイトルを以下に。
コロナ予算委
政府は再流行防ぐ戦略を示せ
「経済活動を着実に進めつつ、感染が再び拡大する事態を防がなければならない」として、そのために政府には「明確な戦略」を示すことが求められているという内容。
昨日の衆院予算委の閉会中審査では、Go Toキャンペーンについて野党は「延期」を要求した。全国知事会は一律でなく段階的に範囲を拡げるよう提言。野党も知事も、需要喚起策の「修正」を求めた形になっている。社説子は、「経済活動を軌道に戻すのは重要な課題だ。そのためにも政府は感染拡大防止と両立させる戦略を練り、幅広く理解を得ることが求められる」と言っている。
●uttiiの眼
タイトル通りであれば「再流行防ぐ戦略」を政府に求めているはずだったが、議論に具体性がなく、これでは話にならない。経済再生と感染拡大防止の両立というだけなら、誰にでも出来る。「両立」をいう議論から、肝心の「両立の方法」を聞いたことがない。つまり、出来ない、いや、「運任せ」ということなのだろうか。
この社説、昨日の衆院予算委の閉会中審査でのやりとりを中心に、各方面の意見を箇条書きでまとめたような不思議な社説になっている。社説というより、記者のメモのような内容。
社説の最後に、このところめっきり姿を見せることが少なくなった安倍首相について書いていて、ここだけ興味深い。野党が閉会中審査の場に安倍首相と関係閣僚の出席を求めたのに与党が拒否したとして、「国の対処方針や現状認識について、首相が積極的に説明することは大切だ。政府は適切に情報を発信し、国民の不安を払拭するよう努める責任がある」という。
《読売》的にはギリギリの安倍批判。「野党の求めに応じて予算委員会に出てくるべきだ」と書かなければ、首相批判であることさえ大半の読者は気付かないだろうが…。
ポリアンナ症候群
【毎日】は1面下段の定番コラム「余録」を取り上げる。
楽観的な主張、楽天的な言葉の方が選挙で有利、影響力が大きいのだという。心理学で「ポリアンナ効果」と呼ばれるわけは、日本でもアニメになった「少女ポリアンナ」の物語に由来する。不幸な境遇でも「良かった」面を探し出して人を幸せにする物語だったらしい。ところが、少女の名前には「症候群」がつくこともあると。
コロナ感染が広がり、九州や中部が水害で喘いでいる時に、「全国一律」、前倒しで行われようとしている「Go Toトラベル」。余録子には、需要喚起策に前のめりの政府が「楽観的に過ぎる」と見えている。最後に、「政治のポリアンナ症候群のさんたんたる始末は、米国やブラジルのコロナ対策の示す通りである」と結んでいる。
●uttiiの眼
ポリアンナのアニメは観たことがなかった。不幸のどん底にありながら、健気に前向きに生きようとする少女の物語は、感動を呼んだことだろう(ポリアンナ効果)。ただ、皮肉屋の私から言わせれば、モンティパイソン的なパロディーの餌食にもなりやすい形にも見える(ポリアンナ症候群)。
ポリアンナ症候群とは、「楽観主義が過ぎての現実逃避を指す言葉」と説明されている。「正常性のバイアス」に少し似ている。
米国の惨状
【東京】は1面国際面に米国の驚くべき現状について、ワシントン特派員の記事。見出しから。
若者から拡大 医療危機
米コロナ感染1日6万人
政権楽観論吹き飛ぶ
米国の1日あたりの新規感染者は、ニューヨークなどが感染の中心だった4月頃の倍、6万人前後になっている。トランプ政権は若者の感染が多いと高を括っていたが、高齢者にも感染が拡大。医療崩壊が危ぶまれる状況で、死者も再び増加しているという。
感染が再び増加し始めた6月半ば、政権は「新規感染者の半数は35歳未満。若者は重症化しにくい」とし、トランプ大統領は独立記念式典の演説で「ウイルスは99%無害だ」と吹聴。実際には若者への爆発的な感染拡大で、免疫力が弱い高齢者らにも感染が広がり、医療機関が逼迫する状況になっているという。
調査によれば、病院の集中治療室(ICU)使用率は、フロリダとアリゾナで100%、テキサスでも91%といい、この3州での死者が急増。それぞれで、1日に数十~百人超となり、全米の新規死者数も1日1000人近くまで増えている。
●uttiiの眼
まさしく《毎日》の余録子が言う「ポリアンナ症候群」の話。楽観論は吹き飛び、米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は「完全に封じ込める前に経済を再開した。50年後、歴史的に反省するだろう」と案に政権批判を行ったというが、トランプ氏に反省する気配はなく、経済活動や学校の再開を急ぐ姿勢だという。特に問題の3州はいずれも共和党知事の州。記者は「大幅な再閉鎖に消極的で、危険な状況が続く恐れはぬぐえない」と言っている。
日本でも、経済界にせっつかれたのか、理屈にならない理屈を弄して政府はGo Toキャンペーンを前倒しで実行しようとしている。この先の感染状況の推移によっては、「トランプ・ボルソナロ級の愚策」と指弾されることになるだろう。
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