「しくじり先生」などを担当するフリーのテレビディレクター宮本大輔さんが、具体的なテレビ制作のノウハウや手法を毎週解説するメルマガ『テレビ解体新書』。今回は、ワイドショー番組で増加している「芸人コメンテーター」に対する視聴者側の意識変化と、芸人が「鬼嫁自虐ネタ」を封印しはじめた背景について、2号分を丸ごとご紹介します。テレビ業界を志す人はもちろん、企画やマーケティングで悩むすべての方に役立つ『テレビ解体新書』、お試し定期購読は初月無料です。
なぜワイドショーに芸人さんがコメンテーターとして座るようになったのか(メルマガ第194号)
「リアル←→フィクション」の狭間を浮遊するワイドショー番組
ここ2、3年でしょうか。ワイドショーのコメンテーターの席に芸人さんが座り始めたのは。
コメントの中でチョクチョク「笑い」を入れ込んでいる人はいるものの、基本はまともなコメントを求められる場です。その場にここ数年芸人さんが座るようになりました。テレビに出る人に真っ当な人間像が求められている世間の風潮も一つの要因です。
「見ている人を楽しませる事」が芸人さんですから、この状況はワイドショーのバラエティ化ともいえます。それと同時にバラエティがワイドショー化しているともいえます。
どういう事なのか、少し掘り下げたいと思います。
テレビ番組の一つの座軸として、リアル←→フィクションというのがあります。
リアルのテレビ番組のジャンルは、報道、スポーツ。逆にフィクションのジャンルは、ドラマ、アニメ。そして、この座軸の中央を浮遊しているのが、バラエティとワイドショーです。
バラエティいうと、コントのようなフィクションからドキュメンタルバラエティのようなリアルなものまで様々。そしてワイドショー、芸能、情報を扱うこともあれば、報道の側面も併せ持ちます。いわば「ごった煮」です。
ワイドショーに芸人さんがコメンテーターとして出演しはじめた要因として、ワイドショーとバラエティが共に侵食しあい、クロスフェードを始めたとボクは考えています。
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若い世代の視聴者は「芸人さんの真面目なコメント」に違和感を抱かない
バラエティの会議ではこんなことをよく耳にします。「最近の若い人はリアルか非リアルか気にしない。なので現象で分かりやすいようにしよう」これがバラエティをやっている人の大枠の考察。
ボクはこの考察は少しズレていると思っています。
リアルか非リアルかを気にしないのではなくて、リアルと非リアルを使い分ける事が世間一般的になったのだと考えています。芸人さんとはいわゆる人に笑われてナンボのピエロですから、オンとオフがはっきりしている人は多いです。
カメラの前では全くの無口。だけどカメラが回ると別人格になる。これがテレビで活躍する人の特徴であったのは昔の話。今の若い世代はみんな、オンとオフを使い分けている。
では、テレビカメラが回っていないオンの時の人格はどこで生息しているのか?それはSNSです。バイプレイヤーのように何種類ものオンを使い分けてもいます。それは裏アカです。
今の若い世代はリアルが非リアルでないかを気にしなくなったのではなくて、リアルと非リアルの人格を使い分ける事が日常化したのだと考えています。
なので、ワイドショーに芸人さんがコメンテーターとして出演していることに、SNS成熟世代は違和感を感じないのだと思います。
変わりつつある芸能人の「嫁」紹介(メルマガ第193号)
鬼嫁自慢は今どき流行らない
ひな壇によるトーク番組のトークテーマでよくあるのが、「聞いてください俺の嫁」です。
定番のトーク「嫁話」。芸能人の嫁と聞いて真っ先にイメージするのが「鬼嫁」ではないでしょうか?
特に芸人さんの「嫁さんは怖い」。その理由は簡単で「鬼嫁」でないと笑い話にならないからです。なので、実は鬼嫁でないけど、あえて鬼嫁として紹介している人も事実います。
「嫁が怖い」の逆は「嫁が優しい」になるわけですが、それは結果として「のろけ話」になってしまい、特に芸人さんなんかは視聴者が「鼻につく」ことを懸念するので、あえて鬼嫁にしているところが多いと思います。
しかし、その常識が昨今変わりつつあると感じています。如実に出ているのがSNSです。
SNSでは嫁への批判コメントよりのろけに近い肯定コメントの方が「いいね」が多い傾向にあります。そして、それにより芸能人の中でも「嫁の素敵なところ言ってもいいんだ!」となっています。
おそらくその理由は「芸能人」と「一般人」の距離感に変化が出ているから、だと分析しています。
インタラクティブなSNSの影響で、もともと雲の上の存在であった芸能人が今では非常に身近な感覚になっているから、友達とまでいかないけど「芸能人もカメラの前でないときは普通の人なんだな」という感覚が世間に広まっているのだと思います。
それはもっと深く考察すると、芸能界という幻想神話が崩れていっているということになります。
ジャニーズがSNSを懸念する傾向にあるのも本質はそこにあります。
これはエンターテイメント論や宗教論になってくるのですが、幻想は幻想であるからこそ吸引力があって信じれるものであって、幻想が現実に近づいてくると、本質的なものを見失う可能性があります。
芸能人のユーチューブなどが盛んですが、所詮、幻想を切り売りしているに過ぎません。今後、芸能界という幻想はどうなっていくのでしょうか?
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