NHKが総務省の有識者会議で要望した「テレビ設置者の届け出義務化」が議論を呼んでいます。受信料支払い拒否問題を一気に解決しにきた感のあるNHKですが、果たして総務省はこの要望を認めるのでしょうか。今回のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』では著者でジャーナリストの内田誠さんが、読売新聞に掲載された当案件に関する記事を検証し、届け出義務化がはらむ問題点をあぶり出すとともに、情報環境をNHKに支配されることの危険性を指摘しています。
NHK「テレビ設置者の届け出義務化要望」を新聞はどう報じたか?
きょうは《読売》の番になりますが、なかなか適当な用語が見つかりません。35面にNHKがテレビを設置した人に対する届け出義務化を要望していることについての記事がありますので、これを対象にします。
「NHK 設置 義務化」で検索を掛けると、《読売》のオンラインに公開されている記事の中に、今日の記事を含めて3件ヒットしました(4件ありましたが、1件は別ネタ)。いずれも今年の10月以降の記事ですので、時間的な流れを見るというよりは、論点を確認しておくことに目標を置くことにします。
まずは当該記事の見出しから。
NHKへ届け出 新聞協会が懸念
「テレビ離れ加速」
総務省の有識者会議が当該問題について関係団体から聴き取りを行ったところ、慎重な意見が相次いだという。
NHKは要望を一部修正して、届け出について「未設置の人は必要ない」としていた(当初は未設置の人もその旨届け出させる内容だった)。
日本新聞協会は「届け出義務の導入によって(テレビの)購入が控えられ、テレビ離れを加速させる」との懸念を示したという。
日本民間放送連盟は、国民の理解を得るには「受信料水準を相当引き下げることが重要だ」と指摘。
総務省は、経営合理化による剰余金を受信料値下げの原資として積み立てられる制度の導入を検討すると。
●uttiiの眼
受信料制度を合憲とした2017年の最高裁判決以来、NHKは調子に乗っている。受信料支払い拒否問題を一気に権力的に解決しようとして出てきたのが、「届け出義務化」作戦だったのだろう。
有識者会議が「関連団体」に話を聞いても別に構わないが、主要な論点は関連団体がどう考えるかではなく、ことは公共放送の在り方を巡る本質的な議論であるべきだ。最高裁判決には「NHKが受信設備設置者の理解が得られるように努め、これに応じて受信契約が締結されることにより運営されることが望ましい」としているのであって、税金や健康保険の保険料のように支払いを義務化してよいものではないだろう。
それにしても、日本新聞協会が「テレビ離れ」を心配するのは奇異だ。クロスオーナーシップだから当然なのかもしれないが、もはや「新聞離れ」は心配しても詮なきこと、というわけだろうか。哀しすぎる。
【サーチ&リサーチ】
2020年10月20日付
NHKのテレビ設置届け出義務化要望について、武田総務省は、「かなり厳しい意見がNHKに寄せられていることは承知している」として「今後の議論を見守りたい」と。NHKの大義名分は、受信料徴収コスト300億円の費用削減。
2020年11月4日付社説
「届け出の義務化は唐突に過ぎる」というのがこの問題に関する《読売》の基本的な評価姿勢。「届け出を強制すれば、テレビの購入をためらう人が出かねない。若者に広がる「テレビ離れ」が加速し、結果として言論の多様性を損なうことにならないか」というのは、新聞協会が今回行われた聴き取りで表明した懸念と重なる。さらに社説は、NHKが「契約していない人の氏名を、公益企業などに照会できるようにする制度の導入も求めた」ことを批判している。「ガスや電力の事業者から情報を得ることを想定している」らしく、家の中に立ち入ることがある電力やガスの事業者にスパイさせようということだろう。これに対し《読売》は「個人情報保護法では原則、本人の同意なしに第三者に情報提供はできない。不安を抱く国民は多かろう」とする。
●uttiiの眼
総務省は、経営合理化を条件にして、NHKの要望を認めていくのではないか。そのような気配を感じる。しかし、この中身にはいくつも大きな問題がある。NHKの強引さは尋常ではなく、届け出義務化だけでなく、電力会社やガス会社に届けていない人の名前を通報させようというに及んでは、個人情報保護の観点から到底許されまい。応じれば電力会社らは数多の訴訟に直面することになるだろう。
根底にあるのはNHKの「肥大化路線」。既にネット進出を果たし、莫大な受信料収入をさらに上乗せし、ネット事業費を受信料収入の2.5%以内とする自主ルールの撤廃の提案なども。情報環境をNHKに支配されてしまうことは、とりわけ安倍政権時代の「提灯持ち」ぶりを思い出すだけでも、この国の民主主義にとって良くないことが明らかだ。
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