MAG2 NEWS MENU

なぜ「熟年離婚」で女性の年金額が減ってしまうのか?年金のプロが解説

新型コロナウイルスの影響もあり、熟年離婚が増えています。離婚することでお互いに幸せになれればよいですが、離婚後に女性側が金銭面で困ることが多いようです。年金においても、女性の年金は低いケースがあるといいます。それはなぜなのでしょうか?メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』の著者で年金アドバイザーのhirokiさんは今回、離婚時の女性の年金額が不利になる理由と離婚時の年金の分割について詳しく紹介しています。

離婚した時は女子は年金額が不利になる事が多い歴史的な理由と、離婚時年金分割で年金を増やす

熟年離婚が話題になってからもう随分年月が経ちますが、時々心配になるんですが離婚後の奥様のその後ですね。年金に限って言えば、どうしても女性の年金は低い事が多い。

低いってどのくらい?というと男女で多少違うのではなく、かなり金額的に違う事が多い。夫婦合わせて年金額を考えれば、なんとか生活するだけならやっていける金額ではあっても、一人になるとかなり厳しい金額になる。特に女子は。

まあ、死別の場合は遺族厚生年金が残された妻に支給される事が多いので、死別の際の心配は離婚時ほどではないです。しかし、離婚すると離婚した夫が死亡しようが、遺族年金なんて貰う権利は発生しない。

離婚すると遺族年金は発生する事は無いというのは常識的ではありますが、18歳年度末未満の子供がいるとなると話は変わってくる事があるので家族の状況の聞き取りは大事。

さて、離婚すると特に女子の生活が厳しくなってしまう危険性があるのですが、どうして女子は年金の面で不利になる事が多いのか。

戦後以降、昭和の日本は劇的な経済成長をしてきたわけですが、この昭和の時代って女子が厚生年金に加入して働くという事自体がかなり少数派だったんです。何回か話してきたとは思うんですが、昭和61年3月31日までの厚生年金って細かい事は省くと20年以上の期間が無いと貰えない制度でした。

就職して働くのは主に男子でしたから、将来厚生年金が貰える人の割合としては男子は約70%の人は貰えるけど、女子はせいぜい10%くらいの人しか貰えなかっただろうとだいぶ昔の資料で見た事があったんですけどね^^;

確かに女子で20年以上の厚年期間がある人は、特に今の70代以上くらいの人では見かける事は男子に比べて圧倒的に少なく感じます。

なぜそんなに女子は厚年期間が少ないのかといえば、昭和って男は外で働いて、女子は家の事をするっていうそういう考え方だったんですね。

で、女子が寿退社するとその後に再就職なんて考えられない時代でした。なぜ再就職が考えられない事だったのかというと、あまりにも家事が重労働だったからです。

今現代は便利な家具がいっぱいあってボタン一つでほとんどの事をこなしてくれますよね。ところが昭和30年代あたりですかね。ちょうどその頃から洗濯機、冷蔵庫、白黒テレビなんかが出てきました。これを三種の神器と呼ばれました。

洗濯機と言っても基本的に手動なのでなかなか体力的に重労働でしょうし、冷蔵庫も大きな氷入れて冷やすみたいな感じでしたけどね。冷蔵庫が出来てビールを冷やすと美味しい事がわかって、それ以来ビールの人気が高まってきます。

それでも洗濯機が出てきたおかげで、今まで全部手で洗ってた頃よりはマシになったところでしょうか。お米なんかはかまどで薪とか、紙なんかを燃やして火を起こして炊いていたから今みたいな便利すぎる炊飯器のようにはいかないですよね。

とにかく家事が忙しすぎてとてもじゃないけど働きに出れるような時間なんて無かったわけです。そういえば掃除機も無かった時は箒とか雑巾がけですよね^^;今は掃除機で楽ちんですけども(笑)。

便利なモノが流通するようになってきて、家事に対する負担が少なくなってきたから少しずつまた働きに出ようとする女性も増えていきました。よって、便利になっていくまでは男は外で働いて、女子は家事労働で1日がほぼ潰れていたわけです。

その間の女子に対する年金の保障はどうしたかというと、今までの記事でもお馴染みとなってきたサラリーマンや公務員の専業主婦は国民年金には強制的に加入させませんでした。

なぜかというと、夫が厚生年金を貰うようになれば、将来は妻の分の生活費は夫の厚生年金に加給年金として支給して(本来は一生支給するものだった。妻が65歳になっても関係なかった)保障する。

もし、夫が死亡すれば夫が貰っていた厚生年金の半分(今は報酬比例の4分の3)を妻に遺族年金として老後保障するから大丈夫だろうから専業主婦に国民年金に強制加入させる必要は無かったと考えられた。国民年金に加入しなければ将来は自分の名前で年金が貰える事は無く、年金保障は夫頼みという事になりますよね。

ところがここで問題視されたのは、離婚時でした。夫には夫婦ひっくるめた金額の年金を夫に独占して支給してるから、そうすると離婚してしまうと年金のお金はすべて夫が独占してしまう事になる。

離婚しなくても、亭主関白とか性格悪い夫だとなかなか妻にお金を渡さないという恐れもありますよね。

なので将来的な事を考えたら妻にも個人名義で年金を貰えるようにした方がいいという事も課題だったので、昭和61年4月1日の基礎年金導入時にどんな人でも国民年金に加入し、65歳になるとみんな共通の年金として国民年金から老齢基礎年金が支給されるという制度に変わった。

しかし、妻は国民年金第3号被保険者と呼ばれる被保険者になりまして、個別に国民年金保険料を納める必要は無かった。妻の年金のための保険料は夫が支払う厚生年金保険料に含まれるという形だからです。

この事に関して平成になってから、これは不公平だ!って随分批判されるようになってきて、できるだけ短時間労働者でも厚生年金に加入させようという動きに令和現在は変わっています。

保険料支払わないで年金貰えるなんてとんでもない事だ!許さん!って言われるけども、実際は不公平な制度というわけではないです。この記事ではまた簡単に説明で留めますが、不公平ではない理由はこうです。

先ほども話したように、昭和って夫は外で働いて、妻は家の事をするという時代でしたよね。そして将来に年金が支払われる時は夫に夫婦2人分の保障を考えた年金を夫にすべて支払っていました。それで夫婦の老後生活はやっていってくださいよと。

つまり、働きに出てる時は夫が厚年の保険料を全部負担して年金の取り分は夫が100で妻が0という事ですねそれで夫婦の生活を保障するものだったから、世帯型の年金という事です。

ところが、昭和61年4月1日以降はどうなったかというと、妻にも個人名義で年金が受け取れるようにしたいですよね。じゃあ今まで夫が保険料を全部支払って、年金の取り分100を夫が貰ってたのを、妻に基礎年金分を分けてやるといい。

というわけで、例えていうなら夫が取り分60として妻は取り分40にしようと。そうすると、昭和61年4月前後と変わらずに、夫から全部厚年の保険料は取るけども取り分を夫婦で分けたような形にしてるんですね。

今まで夫が年金の取り分100持っていってたのを、夫婦で分けるような形にしたから別途妻に保険料を支払ってもらう必要は無いから、サラリーマンや公務員の専業主婦はそのまま保険料を負担する必要は無かった。

なので昭和61年3月前後の制度の違いを知ってもらわないと、不公平ではないんですよって言ってもわかってもらえないので「永久に不公平だ!」って言われ続ける事になります^^;

この事情を説明する場合は過去の年金制度を知らないといけないからですね。

● 参考記事 国民年金第3号被保険者がそもそも不公平ではない理由と歴史(2019年7月バックナンバー)

というわけで昭和61年4月1日からは専業主婦にも年金が個人名義で貰えるようになりました。貰えるようにはなりましたが、それまで厚生年金や国民年金にさえ加入してきた期間が無かった人が多いので、どうしても将来的な年金額は女子は不利ですよね。しかも働いてたとしても女子の賃金は男子よりも随分低いものでした。

昭和61年に男女雇用機会均等法が出来て雇用に対する男女差別も禁止されるようになったし、徐々に社会進出していく女性が増えていくという変化が出てきて厚年に加入する女性が増えてはきましたが、まだまだ女子の賃金は男子よりも低めな事が多いといわざるを得ません。

平均賃金としては大体男子が35万として、女子は23万くらいなのでやはりまだ現代でも大きな差があるのは否めない。

さて、冒頭の話に戻しますが離婚した場合の女子の年金は、過去の年金加入事情で非常に厳しいものとなる事があります。そのため、離婚したら婚姻してる間の厚生年金記録を夫から貰いますよっていう年金離婚分割制度が平成19年4月1日に創設された。

これにより、国民年金からの基礎年金の割合が多い女子に対して、厚生年金を貰えるケースも増えたわけです。なので今回も離婚分割によって年金額を増やす事例を見ていきましょう。

1.昭和31年4月20日生まれの妻(今は64歳)

(令和2年版)何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!

絶対マスターしておきたい年金加入月数の数え方。

20歳になる昭和51年4月時点では定時制の大学に通っていて、昭和53年3月までの24ヶ月間は国民年金に強制加入し、保険料は母が支払ってくれた。夜間、通信、専門学校、定時制などの学校は任意加入ではなかった。

学校卒業と同時に昭和53年4月にサラリーマンの夫と婚姻したが、妻は昭和53年4月から民間企業に就職して昭和54年2月までの11ヶ月間は厚生年金に加入した。この間の平均標準報酬月額は16万円とする。

なお、この11ヶ月間で稼いだ給与(総報酬額)は16万円×11ヵ月=176万円とします。

昭和54年3月からは専業主婦に徹し、昭和61年3月までの85ヶ月間は国民年金には任意加入しなかった。昭和61年4月からの基礎年金導入により専業主婦の妻は国民年金第3号被保険者として国民年金に強制加入するようになった。

夫が定年する平成24年5月までの314ヶ月間は国民年金第三号被保険者とする。平成24年5月に夫が定年したから、平成24年6月から平成28年3月までの46ヶ月は自ら国民年金保険料を納める。

先にこの妻の65歳(令和3年4月受給権発生)からの年金額を計算する。年金生活者支援給付金計算は割愛します。

・老齢基礎年金→781,700円÷480ヵ月×395ヵ月=643,274円

・老齢厚生年金(報酬比例部分)→16万円×7.125÷1,000×11ヵ月=12,540円

ちなみにこの妻の生年月日であれば普通は60歳から年金が貰える人ですが、厚年期間が12ヵ月以上無いので65歳からの支給となるという事に注意。

次に夫の年金記録ですが、煩雑を避けるため妻の離婚時年金分割の計算に使用する部分のみを使います。夫の生年月日は昭和27年6月3日(今は68歳)とします。

婚姻は昭和53年4月であり、そこから60歳前月の平成24年5月までの410ヵ月厚年に加入。この410ヵ月間の平均的な月給与(平成15年4月からは賞与込みで)は50万円としてみる。

そうすると、婚姻した昭和53年4月から平成24年5月までの間に、50万円×410ヵ月=2億500万を稼いできた事になる。夫が稼いできたこの2億500万円を報酬総額と呼びます。この2億500万円の記録を夫婦で分けるのが離婚分割。

なお、離婚分割の制度がもう一つ増える「平成20年4月」から平成24年5月までに稼いだ金額を50万円×50ヵ月=2,500万円とします。なので昭和53年4月から平成20年3月までに稼いだ分は2億500万-2,500万円=1億8,000万ということであります。

妻が63歳の時に離婚したいと言ってきたため、妻が64歳になる令和2年4月に離婚した。さらに厚生年金を分割したいとの事で、上限の50%(半分)を分ける事になった。

さて、年金の離婚分割の場合は話し合いで決める合意分割(平成19年4月に始まった)と平成20年4月から導入された3号分割というのがあります。

平成20年3月までと平成20年4月以降ではちょっと違いますが、まず平成20年4月から平成24年5月までの妻が国民年金第3号被保険者になってる期間50ヵ月の2,500万円の半分の年金記録は、強制的に妻に半分渡す。離婚分割する際に3号分割できるところがある場合は、順序としてまず3号分割を先にやる。

つまり、妻にまず50ヵ月分の1,250万円渡す。ココは話し合いも何も考えずに半分にしちゃってください(笑)強制で分捕っていいんで。

こうすると夫にあった報酬総額2億500万円は1,250万円減って1億9,250万円に減る。妻は自分が過去に稼いだ176万円と3号分割1,250万円合わせて、1,426万円に上がった。

まず分捕った3号分割したうえで、次に昭和53年4月から平成20年3月まで360ヶ月間稼いだ1億8,000万と、平成20年4月から平成24年5月までの1,250万円の総額1億9,250万円を半分分割する。

ココは話し合いになりますが、大体の夫婦は半分しようって事で決着してますね。

——
※ 注意
離婚分割は3号分割をした後に、改めて合意分割に移る。3号分割で分捕っておいてまた取るの!?と思われたかもしれませんが、順番は3号分割した上で合意分割処理をやる。
——

半分するんなら1億9,250万円の半分やね!っていうと、まあそうなんですが妻の分の1,426万円がありますよね。ちょっとした計算式を使う。

まず、半分するので50%(0.5)とします。この0.5を按分割合といいます。按分割合0.5でちゃんと分割できるようにするための計算をします。それを改定割合といいます。

・改定割合→按分割合0.5-(妻の婚姻期間中に稼いだ額1.426万円÷夫が婚姻期間中に稼いだ額1億9,250万円)×(1-按分割合0.5)=0.5-0.0370390(小数点7位未満四捨五入)=0.4629610(小数点以下7位まで取る)

——
※ 注意
改定割合というのは按分割合通りに分割するための計算なので、一応公式として覚えてもらえばいいです。
——

この0.4629610を夫の報酬総額に掛ける事で、妻へ分割する分が出せる。わかりにくいですが、夫の総報酬額の0.4629610分を妻に渡すっていうイメージです^^;

・昭和53年4月から平成20年3月までの360ヵ月の1億8,000円の夫の総報酬額に0.4629610を掛けると、83,332,980円となる。

平成20年4月から平成24年5月までの50ヵ月の1,250万円×0.4629610=5,787,013円

そうすると、妻の婚姻期間中に稼いだ報酬総額と夫から貰った報酬総額は、妻自身の176万円+話し合いの離婚分割で分けた83,332,980円+5,787,013円+3号分割してもらった1,250万円=103,379,993円

じゃあ夫はどうなってるかというと、1億8,000円×(1-0.4629610)=96,667,020円

1,250万円×(1-0.4629610)=6,712,988円

夫の合計は103,380,008円。

夫婦で数円の誤差は出ますが、年金額には影響を及ぼさない。

という事で、婚姻期間中の厚生年金記録を半分に分割する事が出来ましたが、妻の老齢厚生年金額はどうなったのか。

・単純に計算ですが妻の老齢厚生年金額→103,379,99円×5.481÷1,000=566,625円となる。

老齢基礎年金643,274円+離婚分割後の老齢厚生年金566,625円=1,209,899円(月額100,824円)となる。

なお、離婚分割は「加入期間」を分けてもらうわけではないので、この年金を65歳前から貰うには妻自身が12ヶ月以上の厚年に加入しなければならない。12ヶ月以上加入にならないなら、65歳からの支給となる。

離婚分割の考え方はこの辺まで覚えておけば大丈夫です。

それでは今日はこの辺で!また来週お会いしましょう~。

image by: Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。 1979年12月生まれ。 佐賀大学経済学部卒業。 民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。 その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て、スーパーバイザーの後に統括者を務め、相談員全体の指導教育に携わってきました。年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。 私のメルマガの場合、いつもながらよく事例や数字を多用します。 なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴めないからです。 このメルマガを読んでいれば、年金制度の全体の流れが掴めると同時に、無駄な損をする事も無くなると思いますので気軽に楽しみながら読んでいってほしいなと思います。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 事例と仕組みから学ぶ公的年金講座 』

【著者】 年金アドバイザーhiroki 【月額】 ¥770/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 水曜日 発行予定

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け