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ホンマでっか池田教授が指摘、Qアノン信者と人為的地球温暖化論者の共通点

トランプ大統領の熱狂的支持者の一部が信じていた「Qアノン」と呼ばれる陰謀論も、大統領就任式までに「The Storm」(嵐)が起きなかったことで、多くの人が騙されていたと気づき下火になったようです。しかし中には、期限を延ばして妄想に耽る人もいて、人為的地球温暖化を叫ぶ人たちと共通する傾向と指摘するのは、CX系「ホンマでっか!?TV」でもお馴染みの池田清彦教授です。教授は自身のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』で、妄想に捕らわれる人たちの脳の仕組みを解説。太平洋戦争時の指導層の妄想に導かれた日本を例に、政治的妄想とポピュリズムの親和性の高さを危険視しています。

妄想はどこから来るのか:Qアノンとカプグラ・シンドローム

アメリカの大統領選挙は終わって、バイデン大統領が誕生したが、選挙に不正があったと主張するトランプ前大統領は、最後まで負けを認めずに支持者を煽って、2021年1月6日、投票の結果を認定してバイデンの次期大統領就任を正式に確定する上下院合同会議が開催されていた連邦議会を襲撃させて占拠させ、4人の死者が出る事件まで起こした。

トランプを熱狂的に支持する一部の人たちは、「選挙は盗まれた」(不正選挙の結果バイデンの得票数が増えた)とするトランプの主張を信じ、さらにはQアノンと呼ばれる陰謀論に加担して、妄想を膨らませていった。Qアノンとは、世界規模の児童買春組織を運営するディープ・ステイト(DS)なる秘密結社があり、メンバーは小児性愛者や人肉嗜食者や悪魔崇拝者であり、民主党の政治家や政府高官、ハリウッドセレブが入っており、トランプはDSと戦う英雄であるという主張である。

妄想が嵩じて、Qアノンの信奉者は、1月20日の大統領就任式の当日までに、トランプが戒厳令を敷き、DSのメンバーを一斉検挙して、ことによっては処刑する「The Storm」という一大イベントが行われると信じて、待ち構えていたようだが、周知のようにバイデンは無事大統領に就任し、トランプはすごすごとフロリダの別荘に帰っていった。

どんなにエビデンスを挙げても、選挙で不正があったという妄想を消し去るのは難しい。一度そう信じた人はどんな証拠を突きつけられても、次々に妄想の物語を作ることができるからだ。誰かがトンデモナイ妄想の物語を考えてSNS上に流し、それを信者たちが次々にリツイートすれば、この妄想を真実だと思う人の数も加速度的に増加する。

ところが、明証性が際立つ未来の出来事についての妄想は、外れた場合は、言い逃れることが難しい。1月20日までに「The Storm」が起きて、DSのメンバーが拘束され、トランプが大統領になるという妄想は、バイデンが大統領になった後も、正しいと言い募るのは難しい。選挙の不正に関しては、尤もらしい物語を考えることはいくらでもできるけれど、「The Storm」が起きてトランプが大統領に就任したという尤もらしい物語を作ることは不可能だからである。

1月20日にバイデン大統領が就任した事実を受け、多くのQアノン信奉者は騙されていたことに気づきがっかりしたらしいが、この人たちは人間として真っ当であり、新たな陰謀論に騙されなければ、しばらくすれば普通の生活に戻れるだろう。中には諦めきれない人もいて、「DSの悪事は今後4年間のうちに暴露される」として時間を引き延ばす人もいる。4年後に何事も起こらなかったら、次は40年後に時間を引き延ばせば、死ぬまで妄想に浸っていられる。幸か不幸かは知らないけれどね。

と、ここまで書いて、実はこれって人為的地球温暖化論者の手口と選ぶところがないと気が付いた。1990年代に人為的地球温暖化を叫ぶ人たちは、2020年には地球は温暖化して危機的になると言って、人々を脅かしていたが、温暖化は20年以上前からストップして、地球は危機的にならなかったので、今度は、2050年には大変なことになると言って、時間を先延ばししている。そう考えれば、人為的地球温暖化論は「カルト」だということがよく分かる。信者の数と「カルト」に注ぎ込まれた膨大な税金を鑑みれば、Qアノンより質が悪いかもしれないな。

実は、本物のバイデンはすでに刑務所に収監されている、といったすさまじい妄想もある。これで思い出したのはカプグラ・シンドロームである。V.S.ラマチャンドランの名著『脳の中の幽霊』(角川書店)に詳しいが、少しおさらいをしてみよう。

自動車事故で頭をフロントガラスに強打して3週間も昏睡した後、意識が戻ったアーサーという少年の物語だ。アーサーはリハビリ療法の甲斐あって、見かけはすっかり正常になったが、一つだけ両親が偽物だという妄想にとらわれて、いくら本物だというエビデンスを示しても偽物だと言い張ったという。

不思議なことに、アーサーが偽物だと言い張るのは両親に関してだけで、以前の知り合いはどんな人でもちゃんとわかり、偽物だとは言わない。さらに両親と電話で話す時には偽物だと言わない。アーサーに限らず、カプグラ・シンドロームの患者は、親しい人(両親、子供、配偶者、兄弟姉妹)を見ると、別人だと思い込む。患者の3分の1は、自動車事故のような脳の外傷性障害に端を発しているようだが、自然発生的に起こることも多い。今のところ、有効な治療法はないようだ。

脳の中には様々な領域があるが、顔や物を認識する領域は側頭葉にある。顔を認識した側頭葉から大脳辺縁系にある扁桃体に情報が送られると、情動の中枢である扁桃体は、愛、怒り、幻滅、暖かさ、等々といった感情を発火する。親しい人や不倶戴天の敵の顔を見ると感情の発火は激しく、そうでない人では取り立てた感情は起こらない。

ラマチャンドランの仮説では、カプグラ・シンドロームの人は、認識に関する領域と、情動に関する領域の連結に障害があり、アーサーは、以前は両親を見ると感じていた「あたたかさ」を少しも感じないので、何かおかしいと思い、目の前にいる人が実は両親ではないというお話を作って、認識より自分の情動の方を優先したのだという。

アーサーの場合、人の声を認識する領域と扁桃体の連結は阻害されなかったので、電話の場合は両親の声で「あたたかさ」を感じたので、両親が喋っていると信じることができたわけだ。また、以前の知り合いは、昔も今も、会見しても、さしたる感情が浮かばなかったので、偽物だと思う理由はなかったということになる。

ここから敷衍して、一般に妄想は、扁桃体で感じる情動と、他の脳領域で認識している事実が齟齬を起こして、認識している事実よりも、扁桃体で生じている愛、憎しみ、好悪、願望などの感情を優先して、事実を歪曲して解釈するところから生じると考えられる。

例えば、トランプに勝って欲しい、あるいは民主党は嫌いだという願望が強いと、トランプがボロ負けしたという事実を受け入れられずに、選挙で不正が行われたといった願望に合わせた物語を作って、事実を糊塗しようとするわけだ。民主党が嫌いという感情が嵩じると、DSという物語を作って、「The Storm」により自分たちの願望が実現するに違いないといった妄想が生じることになる。

カプグラ・シンドロームといった個人的な妄想は、他の人にはなかなか理解し難く、本人の周りの人は大変だけれども、社会に大きな影響を与えることはない。しかし、QアノンやDSといった党派的な妄想は、時として厄介な政治問題となって、社会に災難をもたらすことがある。

事実を直視できず、願望に合わせた物語を作って、太平洋戦争に突き進んでボロ負けした昭和10年代後半の大日本帝国の指導層は、ひどい妄想に取り憑かれていたわけだが、恐らく、政府や軍の高官でも真っ当な頭の人はこれが妄想だということに気づいていたに違いない。気づいていても妄想を止められなかったのはなぜか。誤解を恐れずに断言すれば、政治的妄想はポピュリズムと親和性が高いということだ。

ナチスも、太平洋戦争時の日本の軍部もそうだけれど、情報を統制して国民が喜びそうな妄想を垂れ流せば、事実を知らされてない大方の国民は、被害がわが身に及ぶまでは、妄想の情報を信じるようになる。B29が飛んできて爆弾を落とされて、身近な人が犠牲になれば、軍部の流す大本営発表を怪しいと思う人が出てくるけれども、妄想をかたくなに信じてしまうと、やがて神風が吹くとか、神国日本は不滅といった願望が実現されると信じるようになる。Qアノンの信者と選ぶところがない。(メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』より一部抜粋)

image by:Julian Leshay / Shutterstock.com

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