「安全と水がタダ」だった時代は今や昔。日本は、安全や水にお金を払うのが当たり前の社会になった。その中で、今でも日本人がタダだと思っているのが「情報」である。(『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』近藤駿介)
プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。
「まとめサイト」を見るたび、日本人は身も心も貧しくなっていく
DeNA『WELQ (ウェルク)』閉鎖問題の本質
「キュレーションサイト」をはじめ、多くのネットビジネスが抱える限界と問題点の本質は、それが広告ビジネスであるという点にある。
ディー・エヌ・エー(DeNA)のキュレーション(まとめ)サイトの不祥事を巡り、第三者委員会が今月、記事の質より量産を優先した運営の問題点を指摘する報告書を公表した。
出典:DeNAは他山の石 まとめサイト、改善へもがく – 日本経済新聞(2017年3月27日)
「広告」ビジネスにおいて重要になってくるのはPV数である。DeNAが「記事の質より量産を優先した運営」に偏っていったのも、このPV数を確保しようとしたためだと言える。
小生のところにも、キュレーションサイトから記事の提供依頼が来たこともあるが、原則無料で公開しているコラムの転載以外はお断りしている(おかげで最近はこうした申し出は来なくなっている)。
それは、執筆料がほとんど出ないからである。執筆料がほとんど出ないサイトに、きちんとした記事を提供する執筆者はほとんどいないはずである。
ディー・エヌ・エー<2432> 日足(SBI証券提供)
無料で多くの記事を集めるのは、質の高い記事を集めることが目的でなく、PVを集めるのが目的だからである。したがって、PVを集められる記事がいい記事で、内容が良くてもPVを集められない記事は悪い記事となる。要するに記事の質は求められていない。
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安全も水も金で買う時代に、日本人は「情報」をタダだと思っている
1970年にベストセラーとなったイザヤ・ベンダサンの『日本人とユダヤ人』のなかに、「日本人は安全と水をタダだと思っている」という記述がある。それから50年近く経った今日、安全も水もお金を払って購入するのが当たり前の社会になった。
その中で、今でも日本人がタダだと思っているのが「情報」である。タダで得られる情報は、もともと価値が乏しいか、裏側に請求書が付いているかのどちらかのはずで、質の高い情報を得たいのであれば「情報」にお金を出して購入する必要がある。
「情報はタダではない」
こうした認識が当たり前になれば、今回のようなキュレーションサイトの問題は自然と収まっていくはずだ。
情報を得るには「コスト」がかかる
ネットで溢れている情報は、怪しげなものも含めて「情報」である。そうした情報の真贋を確かめるには、自分自身で真贋を見極めることができる審美眼を身につけるか、コストを払って情報を購入するかどちらかである。どちらにしてもコストをかけることになる。
著作権侵害の管理などサイト運営者が法令を遵守することは当然のことだが、読者側が、誰かが真贋を見極めてくれた質の高い情報だけをタダで手に入れようと思う限り、こうした問題がなくなることはないはずである。
心しておかなければならないのは、まとめサイトの質向上だけでなく、読者側の質向上も求められているということだ。
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『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2017年3月27日)より
※記事タイトル、本文見出し、太字はMONEY VOICE編集部による
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