いまパナソニック<6752>は買いか、売りか。大型買収報道を市場はネガティブにとらえて下落しましたが、今後の展開はどうなるでしょうか?業績が伸び悩む理由とともに解説します。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従ことした後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
日本人の生活に馴染むパナソニック製品
今回の記事で取り上げる銘柄は「パナソニック<6752>」です。
この銘柄はもちろん皆さん知っている銘柄だと思いますし、持っている方、あるいは買おうかどうかと考えている方も多いのではないかと思います。
そもそもなぜ私がこのパナソニックを取り上げようかと思ったかというと、気がついたら家の周りの商品がパナソニックの製品だらけになっていたということが挙げられます。
具体的に言うならば冷蔵庫、それから電子レンジ、コーヒーメーカー、さらには空気清浄機、そしてインターホン電話といった家の中のありとあらゆるものが、気がついたらパナソニックだらけになっていました。
一定以上の品質があり、欲しい機能があるということを考えたら、結果的にパナソニックを選ぶということで、それほど日本人の生活様式には非常に馴染んだ商品を作っている会社だという実感が持てます。
ただパナソニックでやっているのはそれだけではなくて、幅広く事業を展開しています。
ここにあります通り、事業セグメントとしては主に5つありまして、アプライアンス、ライブソリューションズ、コネクティッドソリューションズ、オートモーティブ、そしてインダストリアルソリューションズという5つの事業モデルとなっています。
カタカナで非常にわかりにくいというところがあると思いますが、『アプライアンス』に関してはいわゆる家電です。エアコン、ドライヤー、テレビ、ショーケースとあります。
『ライフソリューションズ』というといわゆる家の中の住宅設備です。照明器具や配線器具、システムキッチンそして空気清浄機、これらは家電ではなくてライブソリューションズに分類されています。
『コネクティッドソリューションズ』は航空機内エンターテイメントシステムとありますが、国際線なんか乗るとをよく有ると思うのですが、モニターをパナソニックが提供していたりですとか、統合ライン管理システムは工場なんかで使われるやつです。それからプロジェクター、パソコン、タブレットは業務用が中心なんですが、この辺りもパナソニックで製作しているということです。
それから最近では『オートモーティブ』ということで電気自動車、あるいは自動運転、さらには車内が色々な電子製品で埋め尽くされているという状況が進んでいるので、それに対しても手を打っていまして、コックピットシステム(運転席にある様々なシステム)ですとか、車載用電池は今をときめくテスラと共同で電池を作って納入しています。
あとは『インダストリアルソリューションズ』ということで、細かい部品、あるいは電池などを提供しています。
Next: 伸びないパナソニックの業績。なぜ?
なぜか伸びない業績
このように幅広いビジネス展開しているのですが、一方では業績というのは必ずしも芳しくありません。
このように過去十数年の業績を見てみますと、売上高に関してはほとんど伸びていないですし、利益も上がったり下がったりを繰り返すということで緩やかな衰退と言ってもいいのではないかと思います。
事業別に見ますと売上高に関してはかなり均等になっていて、一方で利益率のところに大きな差がありまして、アプライアンス家電のところは昨年度利益率2.5%で、あんまり儲かっていません。
ライフソリューションズは10%近くてわりと儲かっています。
コネクティッドソリューションズ部品のところもわりと儲かっているというところがありますが、一方でこのオートモーティブはこの車載用電池は今どんどん売上高が伸びているというところがあるのですが、利益に関しては赤字ということで、なかなか厳しい環境にあります。
では、業績の低迷の理由とは何なのかということについて、私なりに分析してみました。
日本でしか売れない家電
1つは家電部門の世界的競争激化ということがあります。
家電というと日本で言うとパナソニックやソニー、日立、東芝、三菱電機といったいわゆる総合電機と言われるところが提供してきたのですが、日本にも様々な外国の物も入ってきていますし、機能を絞った物で言えば最近ではアイリスオーヤマなんかが非常に人気で、一方で高級なところで言えばバルミューダですとか、そういった物がどんどん入ってきています。
とはいえ日本ではかなり高いシェアを誇っているのも間違いないのですが、ただこれが海外でウケているかというと決してそうではないのです。
日本向けにカスタマイズして色んな高性能な物を付けてきたのですが、日本人はそれでいいということになっても、海外に関してはそんなに機能はいらない、電子レンジは温められればいいと考えている人も少なくありません。
その結果、海外では韓国のLG電子とか中国のハイアールといった機能を絞って価格を抑えた物が売れていたりします。
その結果パナソニックの家電というのはほぼ日本でしか売れていないという状況です。
パナソニック全体の売上高で見ても国内の売り上げがおよそ半分ということで、国際競争力は必ずしもない。
そして日本の市場というのは必ずしも伸びていませんし、その中でこの高機能競争という形で高機能とそして値段の競争というのが家電量販店で常に行われていますから、なかなか利益を取りづらい分野になってしまっているということが挙げられます。
Next: 力を入れる事業が定まっていない? 業績が伸び悩むワケ
大企業病に陥っている
さらにはバラバラな事業構成というところがあります。
どこの分野で伸ばすかというのがはっきりしていません。
それぞれの事業でそれなりの製品を出しているのですけれども、ここが儲かってここに全力投球するというようなそういった状況ではありません。
一方で、常に赤字を垂れ流すような事業も多くあったりしますが、それらが放置されて結局なぁなぁになってしまっている、そういう大企業病的なところも少なからずあると思います。
これは元々パナソニックは松下電器でしたけれども、松下電器、松下電工、かつて買収した三洋電機、これらが買収で膨らんできたのですが、整理されないまま融合が遅れてしまっているというのが、1つ原因としては挙げられるという風に考えられます。
その中で、不採算部門の継続。
本当はもっと大胆にリストラしていかなきゃいけないのですが、特にM&Aを行った時なんかはそれによってシナジーを出すというのが王道なのですけれども、それができずに不採算部門が継続してしまっていると、株主としては望ましいことではありません。
成長分野の「電池」もテスラにうまく利用されている
さらには電池部分は成長分野と見込まれているのですが、正直、客観的に見ればテスラに良いように使われているなと思います。
テスラとしては安く入手したいわけですから、ハッパをかけられて無理しながら安い価格で納入させられているという実態があるのではないかという風に思います。
テスラというと世界を股にかける、そしてイーロンマスクというとんでもない経営者がいますから、そこに流されているという側面がなきにしもあらずというところがあると思います。
構造改革でコスト削減。成長できるか
そんな中でこれじゃ駄目だということで構造改革も実施しています。
例えば半導体事業はもう完全に譲渡してしまいましたし、希少パネルは生産終了、これらは規模がないとなかなか儲からない事業ですから、中途半端なところでやっていく必要性もないということです。
それからソーラーや、テレビ、照明は決して儲かる分野ではなくなってしまったので、縮小、あるいは最適化という形で構造改革を実施しています。
その結果、コスト削減はできています。
直近の方で見ましてもこのコロナ禍の中で一部の売り上げ落ちたのですが、一方ではこのコスト削減が効いたおかげでセグメントによっては増益になっているところもあります。
ここにあります通り構造的赤字事業によって、年間150億円まで損益が改善されるということになっています。
固定費の削減、様々ないらない物を削った結果、年間300億円削減するということになっています。
これらは合わせて450億円もの営業利益の改善に寄与するということ。
必ずしもそうなるとは限りませんけれども、かなりの割合で利益を改善させる力があるということになります。
これは構造改革を続けていけば少なくとも利益率という点に関しては、結構改善する見込みがあるのではないかという風に思われる会社です。
先ほど構造改革で営業利益が450円億円ぐらい改善すると言いましたが、これまでの利益に関して言えば構造改革が効いた結果、直近でも300億円。
数百億円の営業利益の会社ですから450億円これが丸々利益になるとしたら、かなりの改善であることは間違いない言えます。
Next: 利益改善だけでは不十分。世界中で売れるヒット製品が必要
世界中で売れるヒット製品が必要
ただ利益が改善しただけで、それは結局ダメだった事業を売っているので、これだけでは決して成長はありません。
世界中の競争は激しいですから、うかうかしていたら、どんどんシェアを奪われてしまいます。
そこで何らかの成長をしていく必要があるのですが、その課題としては車載電池に関しては、正直かなり厳しい収益環境になっています。ましてこの世界中で車載電池の競争が起きているということから、収益性が本当に確保できるのかというような課題があります。
またこの住設や家電に関しては、国内は正直、市場としても頭打ち。どんなに頑張っても伸びるのが難しいということになります。
一方で、コロナ禍で大きく売れている物がありまして、それが空気清浄機です。パナソニックの「ジアイーノ」というウイルスを退治するというようなことを謳った空気清浄機を出しています。それが中国でも日本でもバカ売れしています。
中国というともともとPM2.5の問題とかで空気に関しては、かなり敏感に対処をしています。もともと外の空気汚いというところもありますから、室内ぐらいは綺麗にしようということで、この空気清浄機が売れているということあります。このコロナ禍を受けてすごく売れてて、直近の利益にも貢献しています。
またこの住宅設備や家電、これらを全部インターネットで繋げて、スマホで管理できるというそういうシステムを作り上げることができれば、それ自体がかなり強みになるのではないかということが考えられます。
実際に今それを十分に行っているかというと、まだまだだという風には見えるのですが、その力を持った企業であることは確かではないかと思います。
パナソニックの課題は?
ただ1つ気になるのは、やはり国内が売上の中心ということですから、これをどうしても世界に持っていかないと利益、業績を伸ばしていくのは難しいです。
それだけの力と意欲があるのかというところであります。
また、BtoBということに関してはそこそこ儲かっています。馴れ合いだけでやっていたらそうそう利益が伸びるものではなくて、新たなの顧客を開拓してどんどん利益を伸ばしていく必要があります。
図で表しますと例えば成長率と収益性というマトリックスを取ると、今それぞれの事業はこういった状況ではないかと思います。
住宅や家電に関しては、成長性も収益性もそんなにないというところだと思います。BtoBに関しては収益性はそこそこありますが、このままでは成長するのは難しいです。
車載電池に関してはどんどん成長するということが想定されていながら、収益環境に関して直近では黒字になったというところもありましたけれども、基本的にはまだ赤字で、しかも競争が厳しいということになっています。
車載電池に関してはもっと何とかして収益性を出さないといけないということになりますし、この住宅家電についてはもっとIOTとかそういった物で先進的な商品、あるいはユーザーの心にもマッチした製品という物を作っていくことで、収益性、あるいはもっと売れる商品としていかなければなりませんし、BtoBに関しても新しい顧客を捕まえなければいけない。
これらがやはりパナソニックの課題ということになってきます。
BtoB分野の成長戦略は成功するか?
特にBtoBの分野に関しては直近で手を打っている物がありまして、7,000億円をかけてアメリカの「ブルーヨンダー」という会社を買収するという報道が出ています。
このブルーヨンダーという会社がサプライチェーンを供給網の効率化を手がける米ソフトウェア大手ということですから、 BtoBの分野に関しては成長をするということで一つ手を打ってきたということが考えられます。
しかし、株式市場はネガティブに反応しています。
やはり7,000億円というのは高すぎるのではないか、まして売り手がブラックストーンとニューマウンテンキャピタルというファンドです。
ファンドの目的というのはとにかく高くこの株式をパナソニックに売るということが目的ですから、パナソニックとしては高値づかみになってしまう可能性があります。
また来年度から社長が代わって新体制になるのですけれども、そういう時に景気良く一発打ち上げるかということで、投資銀行なんかがこの会社買いませんかということで結構売り込んできます。
それに乗せられて買って、結局、利益を出せずにグダグダになってしまったケースが後を絶ちません。そもそも、M&Aの成功率は3割という風にも言われています。なので、そういった環境には注意する必要があるのではないかと思います。
Next: パナソニックは買いか? 求められるものは「強いアピール」
現在の株価は妥当か
株価ですけれども、業績低迷していたことから2018年をピークにずっと下がり続けていました。
パナソニック<6752> 週足(SBI証券提供)
コロナ前で少し戻りかけていたのですが、やはりガッツリ落ちたということになっています。
しかし直近では市場全体が好況ということもあって、パナソニックのようないわゆるバリュー的な株と言われるところでも、株価が戻ってきまして、今1,300円、1,400円前後という形になっています。
表面的なPERを見ると20倍程度ということで、少し割安ではないようには見えるのですが、これは目先のコロナの影響も受けた業績に対するPERですから、やはり少し調整してみる考えが必要です。
直近で構造改革によるコスト削減が進んでいると言いましたが、それを元にどのような業績になるかということを想定してみたいと思います。かなりポジティブに見積もった数字だということはご理解下さい。
直近の売り上げ予想がコロナの影響を受けて6.6兆円ですので、上手くいって7兆円ぐらい出たとしましょう。それで今の営業利益率が3、4パーセントというところなんですが、これが構造改革が効いて6%出たとしましょう。すると営業利益が420億円、そこから導き出せる純利益がおよそ300億円ということになります。
今の時価総額がおよそ3.2兆円ですから、これを純利益300億円で割ることで、PER10.7倍という数字が出ます。
株式に馴染みがある方だと比較的わかりやすいかと思いますが、PER10.7倍ということになると比較的割安な数字と見ることができるではないかと思います。
もっともかなりポジティブな見積もりに対して10.7倍ですから、そういった意味では今の株価とわりと妥当なのかなというところが私の考え方です。
確かに言えることは、少なくとも構造改革で利益が維持される分にはそんなに割高ではない、急激に下がるというようなものではないと思うのですが、一方では成長性がないとそこから上がるのは難しいということになります。
求められるものは「強いアピール」
ここからは私の意見ですが、パナソニックはまだまだ厳しい環境に置かれているということは確かだと思います。
何故なら、これから重要になる成長分野と目されているところは「車載電池」という、何とも競争の激しい業界なわけです。
いま間違いなく行われていることはイーロン・マスク率いるテスラによって、良いように使われているというのが正直な印象です。そのテスラもかなりしたたかで、パナソニックだけと一緒にやっているわけではなくて、実は中国の世界最大の車載電池会社と言われる、CATLとも取引をしているということです。また中国にはBYDという、自ら電気自動車も作っている電池メーカーもあります。
これらに対して特に中国はいま国内で電気自動車をとにかく世界一の市場にしようということをやっていますから、もちろんそんな中ではパナソニックよりもCATLとかBYDの方が当然有利になってきますし、利益度外視でシェアを取るということが大切にもなってきます。
規模の経済が間違いなく効いてくるところですから、そこが重要になってくるということになって、それを中国の習近平の後押しでどんどんやっていくということになりますと、やはりパナソニックとしては売上増がずっと続くという可能性もあるわけです。
そうなってくると先ほどの資産はあまり使えなくて、利益はもっと下がり続けて、しかもいつ利益を取っていったらいいのかわからないし、負けてしまったらもマイナスで終わるということも十分考えられます。
それに対してどちらかというと安定的に期待出来るのは、住宅設備とか空気清浄機を始めとする家電ということになります。
そちらで先進的なIOTの製品とかを出し続けていくことができれば、パナソニックといえばこういった家電設備だということをアピールしていけるのではないかと思います。
現状のところ、そこまでのアピールには正直至ってないと思います。
私もパナソニックのCMを見ていてもまだ洗練されてないなというところを感じますし、また決算説明会なんかを聞いても正直、受け答え聞いていると、どこか経営者が他人事なのではないかと思えてきます。
例えばテスラに関して質問を受けた時には、テスラなんか十分な知財を持っていないということを言ったり、中国勢に関してもあっちは CATLが強いけど、うちはこっちが強いから大丈夫だよということを言ったり、どうも危機感や当事者意識というものを感じられません,
今度社長が交代するということでその先どうなりますかという質問を受けたら、「それは次の社長に聞いてください」みたいなものすごくドライなやり取りをしていました。こんな状況であるうちは、まだまだ成長というのは難しい気がしています。
今の構造改革に関してはこれは利益を間違いなく増やすものですから評価しているのですが、そこから先も力強さを感じられるという状況ではないというのが私の見立てです。
Next: 少なくとも割高ではない。今後の経営戦略に要注意
今後の経営戦略に要注意
まとめますとコスト削減は一定の効果生んでいますし、それを踏まえた株価に関してはかなりポジティブに見た場合ですけれども割安感はある。
少なくとも大幅に割高という状況ではないので、大きく下がるという可能性は限定的であろうというところです。
一方で、成長分野である車載電池に関しては「いばらの道」ですから、果たしてどうなっていくのかということ、場合によってはドロ沼にはまり込んでしまう可能性があります。また住宅分野で力を発揮できればいいのですが、まだまだそこには至っていません。
これからの状況によく注意が必要ということになります。
(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)
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『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2021年3月14日号)より
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。