顧客のダイエットを“コミット” するライザップが、2019年3月期の純損益の当初見通しを大幅下方修正し、業績は“コミット”できていなかったことを公表しました。(『らぽーる・マガジン』)
※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2018年12月3日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
元カルビー会長が若い瀬戸社長を全力支援中。V字回復はあるか?
RIZAPグループとして事業拡大
ご存知の通りライザップは、運動と食事管理でダイエットを行う会社で、印象的なテレビCMによって知名度をアップしました。
キャッチフレーズ「結果にコミットする」は瀬戸社長が考案したそうで、「英会話もダイエットも三日坊主で終わる人が多い。大事なのは続けさせるトレーナーの情熱」と語っています。
そのライザップは、いまは健康業界以外の会社に次々とM&Aを行い、「RIZAPグループ」という企業形態になっています。
ちなみに「コミット」とは“必ず成果を出す”という意味が込められていて、経営においては「成長への“コミット”」であったようで、それがM&A戦略だったのでしょう。
M&Aで拡大したRIZAPグループ事業は、主に4つのグループに分けられます。
○美容・健康関連事業
○アパレル関連事業
○住関連ライフスタイル事業
○エンターテイメント事業
美容・健康関連事業は、主軸であるライザップ(完全個室のプライベートジム)に加え、ボディメイクランジェリーやどろ豆乳石鹸「どろあわわ」、コラーゲン繊維のマスクなども手がけています。
アパレル関連事業では、ジーンズメイトを傘下に入れたことは有名です。その他女性服を取り扱う会社を参加におさめています。
住関連ライフスタイル事業では、インテリア雑貨やリフォーム事業、メガソーラ事業を手がけています。
エンターテイメント事業では、フィットネスクラブやカフェの運営、「週刊漫画ゴラク」を出版している日本文芸社も傘下におさめています。「週刊漫画ゴラク」は、「ミナミの帝王」を世に輩出しています。
半年前まで毎月平均1社の買収を豪語
RIZAPグループを率いる瀬戸健社長は24歳で会社を立ち上げ、瞬く間に売上1000億円を超える巨大グループを作り上げました。売上は5年で6倍という急成長ぶり、M&Aは5年間で75社に増えました。
毎月10社の資産査定し、平均1社を買収する…瀬戸社長は半年前までは、こう豪語していました。
それにしても、美容・健康でスタートした会社が、これだけ他分野にまで手を広げるとなると、一体なんの会社なのかわからなくなってきます。しかし、それでも社長は「自分たちの軸はぶれていない」「自己実現事業に特化している」と答えていたようです。
経営との相乗効果が見えにくい企業を買収しても「相乗効果はある」と主張していて、一時は、親子喧嘩の騒動をもたらした大塚家具へのM&Aも検討していたようです。
社長は経営がうまくいっていない企業を買収して再生させる手腕はあると、自負していたのでしょう。
Next: ライザップのM&A戦略は、どこから予定が狂ってしまったのか?
M&Aに関する社長のコンセプト
人々の自己実現への欲求を刺激し、それへのコミットメントを引き出して収益を獲得するという、人間の心理をうまく捉えたビジネスモデルですから、トレーニングを重ねてメタボ体質が改善されると、スリムな服を着ておしゃれをしたいと思うようになるというコンセプトから、ジーンズメイトを傘下におさめることはなんとなく理解できます。
女性服を取り扱うのも、それなりには理解はできます。
しかし、漫画雑誌はどうなのでしょう。健康雑誌を販売しようとしたのでしょうかね。住宅リフォームは、どこにつながっていくのでしょうか。「よりよい環境」を求める人間の欲求を捉えたのでしょうか…。
負の“のれん”
このM&Aには、会計上のメリットがあります。
ライザップの手法はこうです。
業績の悪い企業を割安で買収し、そこで発生した「負の“のれん”」(純資産額より買収金額が下回った場合の差額)を割安購入益として、利益に計上するというものです。これは、IFRS(国際会計基準)で認められているため粉飾ではありませんが、見かけ上は営業利益のかさ上げになります。
2018年3月期の営業利益136億円のうち、74億円が割安購入益でした。
2018年3月期は前期比100%超の収益増加を実現しました。売上収益は6期続けて増収、営業利益は5期連続の増益です。
その背景には、もちろん本業である美容・健康事業の成長がありますが、このIFRSでの「割安購入益」が大きいとされています。
単純に、純資産額10億円の企業を3億円で買収すれば、7億円の割安購入益が発生することになります。
ワンダーコーポレーション買収から雲行きが…
赤字転落の原因は、ゲームソフトやCDの販売・買い取りのワンダーコーポレーションや、ヘルスケア製品の企画販売のジャパンゲートウェイといった、ここ1年以内に傘下入りした企業の再建が計画通りに進まなかったためと説明しています。
RIZAPグループは、2017年5月に繊維商社・堀田丸正の買収を発表後は、悲願となっていた札幌証券取引所から東証1部への上場に向けた準備を水面下で進めていて、業績見通しを左右する大型の企業買収を手控えてきました。
その後、子会社でコンプライアンス問題が発覚し、早期の東証上場は難しいとわかった時点で、再び買収へとアクセルを踏み込んだ、その対象がワンダーコーポレーションだったのです。
ワンダーコーポレーションは、ゲームソフトや書籍を扱う「WonderGOO」、CD・DVD販売の「新星堂」などを北関東中心に全国展開していて、年間売上は700億円超(減量ジム売上は300億円弱)の会社です。傘下の新星堂が、CD販売市場の急縮小という逆風にあえいでいるところでした。
瀬戸社長は、子会社経営再建を優先するために、買収を凍結していました。これが誤算を招きます。2018年度の業績見通しに織り込んでいた、利益の押し上げとなる前述の「割安購入益」が見込めなくなったのです。
会社利益を「割安購入益」が大部分を占めていたことによります。
いつも思うことですが、本当に一つのボタンのかけ違いから、その後の結果が大きく左右され、事が大きくなっていくものです。
Next: もとからわかっていた財務面の脆弱さ、それをカバーする対策とは…
M&Aのリスク
瀬戸社長は、赤字企業など経営の悪化した企業を買収してきました。割安企業ですからね。それが続くと、財務リスクは上昇することが考えられます。その懸念から、同社の買収戦略を“赤字企業の爆買い”と指摘する専門家もいました。
割安購入益計上は一時的なもので、将来にわたり成長(リターン)を伸ばしていくことが大事となってきます。その手腕が瀬戸社長には試されていました。
瀬戸社長のところには、金融機関や赤字会社から買収の話が引きも切らずに持ち込まれていたそうです。売上高と営業利益をかさ上げできる負の“のれん”を目当てに、M&A案件の評価が甘くなっていた面もあるという指摘もあります。
今回2019年3月期が赤字転落のきっかけとなったワンダーコーポレーションの再建計画は、在庫の評価損を計上したものの、音楽CDの不振は今に始まったことではなく当然予測できたはずだという厳しい指摘もあります。
積極的にM&Aを行ってきた2018年3月期の有利子負債は768億円、自己資本比率は16.3%でした。財務面での脆弱さは明らかで、買収した企業の再建が進まず、収益を上げられなければ、株価の下落や資金繰りの悪化につながりかねない状況にあったとされています。
買収した企業を再建できなければ、「負の資産」は「負」のままで、本業収益をも蝕んでいくことは明らかでした。
拡大路線を掲げた瀬戸社長は振り上げたこぶしを下ろせなくなっていた…。
市場関係者の見方です。瀬戸社長は、自分で事業拡大を「コミット」したことに縛られて、まさに振り上げたこぶしを下ろせなくなっていたのかもしれません。
業績下方修正後、株価は2日続けてストップ安を記録しました。本業での収益拡大やシナジー追求といった原点に立ち戻った経営ができるかが問われるとうのが、市場関係者のコメントでした。
そんな中、カルビーから救世主が現れたのです。
カルビーからの救世主
ライザップはおもちゃ箱のような会社で面白そうと思っていたが、いくつか壊れているおもちゃがある。今修繕しないと大きな問題になる…。
決算説明会に同席した松本晃COO(当時)の言葉です。
松本晃氏は、現在は構造改革担当代表取締役となっています。瀬戸健社長が師と仰ぐ、カルビーから招いた経営の「プロ中のプロ」です。
松本氏は、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人の社長を務めた後、経営手腕をカルビー首脳に見込まれて、2009年に会長兼CEOに就任。コスト管理を徹底しつつも、ドライフルーツが豊富に入ったシリアル『フルグラ』を大ヒットさせ、業績をV字回復させました。
松本氏は、創業者の松尾一族が、経営へ口出ししないというコーポレート・ガバナンス体制を整える条件でカルビーに参画。それまで11年間交渉してきた世界最大急の食品・スナック菓子メーカーのペプシコとの提携を成し遂げ、創業者悲願の上場まで果たしました。
松本氏は、北海道のジャガイモ大不作によるヒット商品「じゃがりこ」の危機を経験し、乗り越えてこられました。
もちろカルビー退任後、たくさんの企業から引き合いがありましたが、瀬戸社長の経営者としての将来性を見込んで、瀬戸社長を一人前の経営者にするためにRIZAPグループを選んだと言われています。
瀬戸社長が振り上げたこぶしを、上手に下ろしてくれるのが松本氏であり、その役目を瀬戸社長がじきじきにお願いしたからこそ、瀬戸社長は松本氏の言うことには素直に耳を傾けることができるのでしょう。
Next: 今後、どのようにしてRIZAPは再起をかけていくのか
70歳のプロ経営者から学ぶ40歳の創業者
瀬戸社長の経営に対する考え方、企業利益に対する考え方に問題があったのでしょうが、その方針をきっぱりと変えられる。これまでのM&Aによる拡大方針を松本氏のアドバイスできっぱりとやめられるところが、瀬戸社長の「すごさ」だと言えそうです。
一人で売上高1,300億円の企業を作り上げた若き創業者が、親子以上に年の離れたプロ経営者を外部から招きいれることは、なかなかできることではありません。
おそらく創業者で大株主の瀬戸社長には耳の痛い指摘ばかりされていたのでしょうが、それでも、これまでの拡大路線を否定された現経営陣と松本氏との対立があったRIZAPグループ取締役会で、瀬戸社長の一声で、M&A拡大路線を見直すことになりました。
「現時点で、ライザップの買収戦略が無節操か否かを断定するのは難しいが、そう言われる余地があることは確かだ。それは、同社経営陣が真摯に受け止めなければならない。本業の強化に加え、買収戦略の意義、リスクの適正さに関する一段の説明は不可欠だ。その部分で松本氏がどのような役割を果たし、その指摘に瀬戸氏が耳を傾けることができるか否かが問われる…」(SankeiBiz 2018年10月21日「“おもちゃ箱”ライザップが稀代の「プロ経営者」を招いた狙い」記事より)
と法政大学院真壁昭夫教授は述べています。
瀬戸社長はいかにしてRIZAPを作り上げたのか
瀬戸社長は1978年、北九州市でパン屋を営む両親の次男に生まれた瀬戸社長は、保育園の頃に「およげ!たいやきくん」を聞き、最後に食べられちゃうのが悲しいと体を鍛え始めたそうです。
幼少期に特売のお菓子を買い、自宅のパン屋で売ったところ問屋で仕入れる(やり方の善悪を問うのはさておき)ことで、より利益が出たことで、経営にも興味を持っていたということです
高校3年生ではじめての彼女ができましたが、その彼女が痩せたいからと一緒に走ってあげて、さらに電話で励ましてあげて、3ヶ月後には見違えるほどきれいになったという経験をしたそうです。
24歳で結婚と同時期にライザップの前身「健康コーポレーション」を創業。
「おからクッキー」をつくり、それが大ヒットし、創業4年で100億円を売り上げた実績があります。
その後ブームが去って業績が急降下、高校時代の元カノを思い出し、徹底的に寄り添うことに特化したダイエットとして2012年にRIZAP事業を開始したそうです。
海外では当たり前に「プロ経営者」の存在が注目されますが、1978年生まれの若き創業者が、プロ経営者とタッグを組んでこの難局を乗り越えていくのか、見守りたいと思います。
企業の評価は株価に表れます。投資家が求める企業、投資家が買いたいと思う企業に変貌していくのかどうか、注目していきましょう…。
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