想定以上に長生きしてしまうリスクは、最終的に「カネをどうするのか」という問題に帰結していく。生活費はどうするのか。医療費はどうするのか。介護費用はどうするのか。貯金を使い果たしたらどうするのか……。日本はいずれ、安楽死の是非も含めて少子高齢化への対応を迫られる。(『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』)
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プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、主にアメリカ株式を中心に投資全般を扱ったブログ「フルインベスト」を運営している。
「長生きすることのリスク」が上昇していく
これから日本で社会問題化することがひとつある。それは「長生きリスク」だ。
現在は血縁も地縁も希薄になり、徹底的な資本主義社会になり、高齢者も子どもや地域に助けられる社会ではなくなっている。
高齢であっても「自分の面倒は自分で見よ」という社会である。日本は単身世帯が増えているのだが、この単身世帯の増加は配偶者を亡くした「おひとりさま」の高齢者が増えていることも要因のひとつとしてある。
結婚しない若年層だけではなく、高齢者も単身世帯化しているのである。かつての日本は家族3代が同じ家で暮らす大家族だったのだが、そんな家族構成はもうとっくに昔の話だ。
この社会で高齢者の命綱になるのは、言うまでもなく「貯金」や「年金」だ。
長生きすればするほど貯金は乏しくなっていく上に、長生きする人が多くなればなるほど社会保障費は削減されるようになる。
日本は少子高齢化を放置し続け、子どもが減っていることが日本の問題を引き起こしているというのに、いまだに少子高齢化対策を他人事のように思っているので、増え続ける高齢層を国民が支えることが限りなく難しくなりつつある。
そのため、社会保障費は充実していく方向に向かうのではなく、限りなく削減されていく方向にいく。年金受給年齢も引き上げられるし、年金額で生活することもできなくなっていく。
かくして「長生きすることのリスク」が上昇していくことになる。
長生きを喜べない高齢者たち
1963年には153人しかいなかった100歳以上の高齢者は2018年は6万9,785人で、約7万人になろうとしている。100歳どころか110歳を超える高齢者も日本では珍しくなくなっている。人口動態で見れば、日本は間違いなく世界でも有数の「高齢者国家」なのである。
それは喜ばしいことなのだが、多くの高齢層は長生きしたことをそれほど単純に喜んでいない。「老後の生活はどうするのか」「経済的困難の中で生き続けなければならない」という不安を抱えているからだ。
実際、生活保護受給者はすでに高齢層が半分を占めているのだが、この割合はこれからもどんどん増えている。生活を支える貯蓄が不十分なまま高齢化してどうしようもなくなってしまった高齢層が苦しんでいるのである。
Next: 「老後が心配」83.4%に。高齢層の存在は「社会的コスト」になっていく
困窮していく高齢層は減っていくことはない
本来であれば、生活保護を受けなければならないほどの貧困の中にあるのに、プライドからそれを拒絶して極貧の中で生活している人もいるし、生活保護という救済制度を知らないで苦しんでいる高齢層も多い。
こうした層が生活保護に流れ込むと、生活保護受給者の数はいくらでも増えていくのは目に見えている。
そして、困窮していく高齢層は減っていくことはない。これから1947年から1949年生まれの団塊の世代が、そしてその後は団塊の世代ジュニアが高齢化して生活苦に落ちていくことになるからだ。
こうした現状は大都市に住んでいる人間はあまり実感しないが、地方に住む人たちは共通して危機感を持っている。地方は、もうとっくの前に見捨てられた高齢層だらけになっているからだ。
少子高齢化の中で、日本は地方から崩壊していくという認識を私たちは持たなければならない。
高齢層の存在は「社会的コスト」に
金融広報中央委員会の『家計の金融行動に関する世論調査(2人以上世帯調査)』では、老後の生活について「心配である」と回答した世帯の割合は83.4%であったことを記している。
ほとんどの高齢層は長生きすることのリスクを感じているのだ。
そこに喜びなどない。歳を取って身体が動かなくなり、誰からも必要とされなくなってしまい、その上にカネもなくなってしまうのだから、高齢層が抱えているのは「不安」というよりも「恐怖」というのが近い。
想定以上に長生きしてしまうリスクは、最終的に「カネをどうするのか」という問題に帰結していく。
生活費はどうするのか。医療費はどうするのか。介護費用はどうするのか。貯金を使い果たしたらどうするのか……。
こうした問題が長生きした高齢者にのしかかるのだが、実際にそうなったらもはや高齢者ひとりの力ではどうにもならない。無い袖は振れない。かと言って「働く」という選択肢も取れない。
「ただ生きているだけ」の人生となるのだ。だから、最終的には高齢層は社会が面倒をみるしかないのである。
増え続ける高齢層を資本主義社会では「社会的コスト」と言われるようになる。自分が「社会的コスト」と呼ばれるようになっても長生きしたいと思う高齢層はひとりもいない。それは人間の尊厳を破壊する言い方でもある。
しかし、長生きする人が増えれば増えるほど社会保障制度は危機的になっていくので、高齢化社会が進めば進むほど高齢層の存在は「社会的コスト」と扱われるようになっていき、「社会問題」と見られるようになる。
Next: 全体の41.2%が「長生きしたくない」。尊厳死を認めるしかない?
自分の死も自分でコントロールしたい
2018年、メットライフ生命保険の調査で今の日本人は「長生きを望まない」という統計が出たことを時事ドットコムが報じたことがあった。全国の20歳から79歳の男女1万4100人に調査したところ、全体の41.2%が「長生きしたくない」と答えている。
若年層は「80歳まで生きたくない」と考える人がかなりいて、「何歳まで生きたいか」との問いに20代男性は78.1歳、20代女性は76.9歳が平均になっていた。
しかし、このまま医学の進歩が進んでいくと、彼らこそが最も長生きする世代になり、平均寿命は90歳にまで上昇していく。
長生きする物質の発見、癌治療の進化、手術の高度進化は人間をより長生きさせる。こうした長寿医療が実を結ぶのがあと20年後くらいになるからだ。
そのため、団塊の世代、そして団塊の世代ジュニアが高齢層のピークを過ぎた後も、高齢者問題は一向に収まらない可能性が高い。高齢者問題はさらに危機的なものになっていくはずだ。
長生きできても、カネは自動的にどこかから湧いて出てくるわけではない。だから、高齢者問題は貧困問題と直結し、「社会的コスト」になって跳ね返り、社会を苦しめる大きな問題となる。
そんな中で、あと10年から20年もすれば確実に社会的議論になっていると思うのが「安楽死」「尊厳死」の権利の主張である。
日本人は「死」から目を背けており、こうした議論を正面切ってすることを好まない国民性を持つが、恐らく高齢者自身が「安楽死を認めよ」「尊厳死させてくれ」と主張するようになって、社会はそれを無視できないことになるはずだ。
いずれ日本は「長生きリスク」への対応を迫られる
自分の死も自分でコントロールしたいという人も確実にいる。体力的に動けなくなり、立てなくなり、意識も混濁し、食事も自分で取れなくなり、それでも生き続けることを可能にするのが現代の医学である。
皮肉なことに、長生きすることのリスクは、安楽死や尊厳死のように自分の死を自分で合法的にコントロールできるようになると、かなり低減する。
日本人がそれに気づくのはいつのことになるのだろうか? もしかしたら、そんな遠い話ではないのかもしれないが、最初に主張する人は「生命を軽んじている」と袋叩きに遭うだろう。
しかし、現状を見ると、日本人は長生きし過ぎるリスクの対応と解決をいずれ迫られる国になるのは必至だ。
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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2020年10月18日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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