海兵隊には、このジャン署長を危険視する将校がいなかったわけではない。例えば、ジェイソン・ブレズラー少佐とアンドリュー・テレル少佐は2010年、ジャン署長による麻薬・武器密輸、敵の攻撃の手引き、制服の横流し、少年の拉致・購入・性的虐待を突き止め、州知事にジャン署長を解任させている。
その後、ブレズラー少佐は予備役に編入し、ニューヨーク市消防本部に勤務しながら大学院で学んでいたところ、2012年7月25日、テレル少佐から「サルワル・ジャンが帰ってきた!」という件名のメールが飛び込んできた。テレル少佐はブレズラー少佐に、ジャン署長についての資料を至急、別の隊員に送るよう求めていた。
ところが、この資料をブレズラー少佐が一般回線で送信したことが、機密保護規則に違反したとして問題となった。ブレズラー少佐は違反を自ら上官に申告し、戒告されたが、海兵隊は2013年からブレズラー少佐を追及し、除隊させる方針を決めた。その一方、ジャン署長についてのブレズラー少佐の警告を無視した海兵隊側の責任は追及されることはなかった。
同様のケースはほかにもある。アフガニスタン北部のクンドゥズ州の警察幹部アブドゥル・ラフマーンは2011年9月、少年を拉致して性的虐待し、その母親を部下に殴らせた。それを米陸軍特殊部隊グリーンベレーのダン・クイン大尉がとがめると、アブドゥル・ラフマーンはあざけり笑いを返してクイン大尉に殴られることになった。しかし、クイン大尉のほうが米陸軍から出国を命じられ、その後除隊することになった。さらに米陸軍は、このクイン大尉の制裁に加わったチャールズ・マートランド1等軍曹についても、除隊させる手続きを進めている。
折しも9月28日、クンドゥズ州の州都クンドゥズは、アフガニスタンの州都としては2001年のタリバン政権崩壊以後初めて、タリバンに制圧されることになった。アフガン政府と米軍上層部のモラルの崩壊が、タリバンの勢力を勢いづかせていることは間違いない。
静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之
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著者/小川和久(軍事アナリスト)
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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