焼き芋を売る美術作品という未曾有の表現を前にして、これまで観客たちはどのような反応を見せたのだろう?
「だいたいの人は遠目に眺めながら『ワロタ』『ワロス』みたいな感じですね。はじめはその距離感に僕ら自身も戸惑いをおぼえ、内心『これ、大丈夫か?』と不安でした。でも次第に、よくわからないビジュアルの車におそるおそる近づいてみてくれて『本当に売ってるんだ!』『えーマジで!』と驚いてくれるし、買うてくれはったり。金時がだんだん街になじんでゆく、街が変わってゆく感じが面白くって」
金時がそこにあるだけで街の空気が変わる。これは取材していた淀川沿いの住宅地にいても、肌にびんびん伝わってきた。では世代や性別による反応の違うはあるのだろうか?
「おばちゃんは、とにかく焼き芋ですね。訊いてくることといえば『焼けてんの?』『どのくらい大きさの芋なん?』と。おばちゃんたちの目にはこの車が見えていないのか? と思うくらい。でもよくリピーターになってくれるのも、おばちゃんたちなんです。『きのう買うて食べたらおいしかったから、また来たわー』って。アートとして観られないのがいやじゃないかですか? いえいえ、むしろ焼き芋の味を認めてもらえてめっちゃ嬉しかったです。おっちゃんはどうか? 反対におっちゃんたちの興味は車ですね。『車の写真、撮っていい?』『乗らしてもらってもいい?』というふうに。車が好きな人たち、たとえば『なになに會』とかあるじゃないですか。そういう方々は探してでも来てくれる。『2日がかりで、やっと見つけたで』と。そして『あっぱれやな』と言って、ご褒美のように焼き芋を買ってくれる。子供はもっとテンション高くて『サインして』とねだられます」
聞けば、ずいぶんと幅広い年代とさまざまなタイプがコミットしてきている。そして、その多くは日ごろギャラリーなどには足を踏み入れない人たちだ。金時がそこに一台あることでアートが幅広い人たちに伝播し、道ゆく人たちを巻き込み、街が変わってゆく。なんという素敵なことだ。そして社会彫刻の送り手である彼らもまた、街とのかかわり方が変わってきているようだ。
「確かに取り巻く状況が変わったと思います。採りあげてくれる媒体もアートの専門誌だけではなく、トラッカーのための雑誌『カミオン』に取材されたり。『実話ナックルズ』で大島薫くんと並んで紹介されたり」
人気の「男の娘」の隣に焼き芋の記事とは、ページ構成になんらかの意図がはらんでいるのを感じずにはおれないが、紹介する媒体もアートの枠を超えて拡がりを見せているようだ。さて、気になる今後は?
「今後というか……実はこれ、まだ完成していないんです。僕らは1回作品を作ったあともどんどん変えていく。あくまで現時点がこれというだけ。もともと、できあがりって、あんまり決めてない。だから『まだできてない』と思ってるんです。こいつのビジュアルももっとデコしたいしバージョンアップさせていくつもりです。だから改造は続きます。飽きられるまでやる。いまはまだ全然飽きていないし、飽きない以上、一生できあがらないかもしれない。それでいいと思ってるんです。焼き芋が『作品から生みだされる作品』である以上、ずっと焼き続けていきたいですね」
永遠に完成しない焼き芋の屋台は、言わば動くサグラダ・ファミリア。気が遠くなるほどロマンチックだ。そんなふうに深い感動に包まれていると、いよいよ注文していた焼き芋ができあがった。割ってみると、……湯気もうもう、蜜がたっぷり。う、うまい。飴色になった芋の食感はクリーミーでほっこほこ。甘みとうまみがしたたり落ちるよう。身も心もあたたまるこのひとときは、まさに金時(ゴールデンタイム)だった。
画像提供:Yotta
● Yottaオフィシャルサイト
http://yotta-web.com/
● 「金時」オフィシャルサイト
http://yotta-web.com/kintoki/
*金時の出没情報を速報しています。
撮影場所:六感を刺激する料理空間「世沙弥」
ご主人の和田大象さんには撮影および取材の際、多大にご協力をいただき、まことにありがとうございます。
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