共和党の長年にわたる思考停止
オバマ大統領は3月10日の記者会見で、オバマ政権下で広がった政治的分断がトランプの台頭を生んだのではないかとの質問に答えて、こう言った。
共和党からはいろいろと批判されてきたが、同党の候補者争い(の混乱)についてまで私が非難されるのは意外だ。
共和党中枢は私の政策の全てに反対し、少しでも協力したり妥協したりすれば裏切りだという考えを、過去7年間にわたって共和党支持層に浸透させ続けてきた。それが、トランプが指名争いをリードできる環境を作ったのだ。
この状況と共和党の方向性を懸念する思慮深い保守派の人々は、なぜこのサーカスのような状況が生まれたのかを反省すべきだ……。
その通りである。対外政策について言えば、この7年間にオバマが苦心惨憺、取り組んできたのは、ブッシュ前政権が引き起こした2つの戦争とその必然的な結末としてのシリア内戦とISの台頭、テロの全世界的拡散との闘いだった。そして、それを通じて彼が中長期的な方向付けとして目指したのは、何かと言えば軍事力を振り回す20世紀的な覇権主義の米国をきっぱりと卒業して、21世紀的な多極世界の新しい秩序を創り出しつつそれに米国自身をも適合させていこうとする努力であり、口先だけに終わったとはいえ「核廃絶」宣言もその一環であった。
ところが共和党はと言えば、ブッシュの暗愚を利用してネオコンと共和党タカ派とイスラエル・ロビーのトライアングルが政権中枢を乗っ取って、中東のみならず全世界に災禍をもたらした前政権の愚行に対する一片の反省も総括もなしに、オバマのやることなすことにことごとく反対し続けたばかりか、リビアでもウクライナでもシリアでもイランでも無闇に軍事力を振り回すことなく問題解決を図ろうとする彼に「弱腰」とか「弱虫」とか、まるで低次元の罵倒を浴びせるばかりだった。
そこには、今がどういう時代の変わり目なのか、次の時代を切り開くために米国がどう自己変革を遂げつつグローバルなリーダーシップを発揮すべきなのかという、米国の責任ある政治家としての思考など何もなく、ただ単に、ブッシュ子の「単独行動主義」の迷妄やブッシュ父の「唯一超大国」の幻想、もっと言えばその先にある冷戦時代の「強かったアメリカ」への幼稚なノスタルジアにしがみつくだけの姿だった。
その7年間の知的空白の後では、「力だ、力だ、誰も俺たちに手出しが出来ないほどの力だ」と叫ぶトランプ、「私のIS対策はシンプルだ。徹底的な絨毯爆撃で後に何も残らないように破壊する。イラン? 絨毯爆撃だ」としか言わないクルーズ、そしてネオコンの申し子のルビオという困った3人以外に共和党の大統領候補になり手がいないという末期症状が現出するしかなかったのである。
15日のフロリダ州など6州での予備選・党員集会を目前に、共和党主流派は大混乱に陥っている。フロリダ州はルビオの地元で、またオハイオ州はもちろんジョン・ケーシック=同州知事の地元である。2人がそれぞれ地元で勝てば、最後はルビオに一本化することでトランプを阻止する可能性が残るが、もし2人が負ければ、2人とも予備選から撤退を余儀なくされ、共和党の候補者選びはトランプとクルーズに絞られることになる。
「トランプとクルーズのどちらを選ぶかというのは、銃殺と毒殺の違いだ」と、かつて共和党の重鎮リンジー・グラハム上院議員が言っていたように、これは同党主流派にとって最悪の事態である。そこで、15日には、フロリダでケーシックの票をルビオに集中し、オハイオでルビオの票をケーシックに集中することで、何とかしてトランプを食い止めようとしているが、果たしてそんな器用な芸当が俄に可能なのかどうか。
仮にそれが成功してトランプvsルビオの図式に持ち込むことが出来たとしても、その時にトランプよりルビオのほうがマシだと有権者のみならず国際社会を説得することが出来るのかどうか。