【書評】残酷な延命治療で「死なせてもらえない」高齢者たち

 

介護保険制度により高齢者の生活が医療と介護に縦割りにされ、崇高であるべき人間の終焉を分断する結果になった。それに追い打ちをかけるのは、自然な最期を迎えられる高齢者に対して、延命する方法があるからしなければならないという延命至上主義である。死に向かう人がものを食べない、水も飲まないのは、身体がエネルギーの補給を要求しないからだ。むりやり摂取させるのは本人を苦しめるだけだ。老化の果ての老衰という状態は病気ではない。自然の摂理である生命の老化と終焉、つまり老化と死には医療の力は届かない。自然に枯れていくのを阻止しようとする、無意味で残酷な医療が延命治療である。

死ぬときは苦痛が伴う、できるだけ緩和しなければならない、というのが医療の常識だったが、著者が常勤医の老人ホームでは今まで看取ってきた200人を超える人たちに緩和ケアはまったく不要だった。老衰の身体には、脳内モルヒネといわれる神経伝達物質が発生し、痛みを緩和しているらしい。老衰というのは生きものとして本当に自然な幕引きなのだ。老衰によけいな医療的処置はするな、こういう本音を漏らそうものなら、やれ高齢者を見殺しにするのか、それでも医者かとヒステリックに叩かれる。現在の日本は実に変な社会だ。無理やり生かされている気の毒な人は、今後も増え続けるかもしれない。

image by: Shutterstock

 

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