カジノという名のギャンブルを成長戦略に据えるアジアの愚国

 

わが国の観光産業はこれまで日本人を相手にしてきた内向きのビジネスだった。それを外向きの産業に変えるには、外国人が関心を示すありとあらゆる分野で魅力的なメニューがそろっていなければならない。

観光資源は多いが、たとえば文化財行政は保護を目的としていて、宝の持ち腐れだ。世界の観光地ではツアー客を楽しませるさまざまなイベント、仕掛けがある。「観光立国」にはインターネット環境、交通インフラなど投資が不可欠だが、国の財政が厳しく財源の余裕がない

とりあえず以上で区切っておこう。まだ、ここまでにカジノは登場しない。いわば「観光産業論」だ。おもてなしの心で評判のいい現下の日本の観光産業ではご不満のようなのである。

もっとカネを注ぎ込まねばならない。だけど財政が厳しい。そう強調したうえで、いよいよ殺し文句がやってくる。「ではどうすればいいのか。ひとつだけ方法があります」。こう言われると聞きたくなる。

それは「観光消費」の中から徴収した財源をさらに「観光振興」のために投入することができる仕組みをつくることです。…そんな都合のいいものはないだろうと思われるかもしれません。しかし、世界にはすでにその実例があるのです。それを可能にするのがカジノを含む「IR」なのです。

IRはラスベガス発祥のビジネスモデルだ。十数年前から世界に広まった。岩屋議員は、その理由をさぐると「MICEというキーワードに突き当たるという。

MICEはミーティング(会議・研修・セミナー)、インセンティブツアー(報奨旅行、招待旅行)、コンベンション(大会、学会、国際会議)、エキシビション(展示会)の頭文字を取った造語だ。国際会議や展示会への参加などビジネスユースが主となるため、たくさんの集客ができ、消費額も大きいというのだ。

だが、こうしたMICEの施設は維持費がかさみ不採算になる。だから、カジノや娯楽商業施設で穴埋めしようというのである。

手間をかけた説明だが、いやはや、なんと甘い算段であろうか。どんな産業やビジネスにも成功、不成功があり、成功例はごくわずかなのがふつうだ。岩屋議員は、シンガポールの成功例をとりあげて、日本も成功するだろうと楽観視しているのである。

このあたりでひとつ疑問点をはさんでみよう。シンガポールと日本の観光客数の伸びの比較についてだ。

シンガポールでは、2010年に二つのIRを立て続けに設置したところ、それまで年間1,000万人前後だった外国人観光客数が1.5倍の1,500万人へと急増した。

日本では外国人観光客数が2013年に初めて1,000万人に達し、14年1,341万人、15年1,974万人と順調に拡大、2016年には2,000万人を超えた。実に3年間で2倍でありシンガポールの増加率をはるかに上回っている

円安などいくつか要因はあるだろうが、日本はIRなしに外国人観光客が激増したのである。シンガポールだってIRのおかげかどうかはわからない。

もう一つ。シンガポールがIRで客を呼ぶのに成功している間に、これまでIRでラスベガスをはるかに超える巨利を稼いできたマカオは4割も収益が減少している。これはどう説明すればいいのだろうか。

一般的には中国の景気後退などで中国富裕層の足がマカオから遠のいたとされるが、シンガポールが伸びているのは中国富裕層のおかげではないのだろうか。つまるところ、カジノ施設が増えたため、客が分散したに過ぎないのではないか

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