感傷的になる米国市民。オバマ大統領が「お別れ演説」で語ること

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アメリカの憲法や制度は世界でも稀な素晴らしいもの。でも、それは市民が政治に参加して初めてその価値が活かされるのだと、彼は国民に語りかけました。移民国家アメリカは、移民国家ではない他の国々に対してもアメリカで培われた自由や平等への哲学を押し付けようとし、世界で摩擦を起こしてしまうとよく批判されます。

世界の多くの国は国民国家で、そこでは主要な民族を中心に国が成り立っています。日本などはその典型です。ロシアや中国には様々な民族が混在していますが、それでも元々の成り立ちはロシア人や漢民族による国民国家でした。しかし、アメリカにはネイティブ・アメリカン以外には元々そこに暮らし、文明を育ててきた民族は存在していないのです。アメリカ人はいてもアメリカ民族はいないというのがアメリカの特徴です。

オバマ大統領の演説は、そんな特異な国家であるアメリカだからこそなし得る多様性を尊重した国づくりの重要性を改めて国民に訴えたのでした。

では、国民国家である日本をはじめとした多くの国々は、このお別れの演説をどのように捉えたらいいのでしょうか。いうまでもなく、我々は過去の歴史の中でも最も人々の行き来と交流が盛んな時代に生きています。言葉を変えれば、我々は移民や海外の人との付き合い方、接し方を学ばなければならない時代に生きています。そうした視点でこの演説を捉えるとき、ここで語られた移民国家アメリカでのビジョンを参考にすることは意義が深いはずです。

オバマ大統領をはじめ過去のアメリカの指導者が重要な演説の中で必ず取り上げるのが diversity、つまり「多様性」という価値観です。前回紹介した、大統領婦人のお別れ演説でも、この価値観が大きく取り上げられました。多様性とは、単に様々な人種や民族が共存することだけではなく、そこでの宗教観や政治的なスタンスをはじめ、人種や民族を超えた個々人の個性や異なるものの見方を尊重しようという価値観を意味しています。

異なることを認め尊重することが民主主義の基本であるというわけです。このビジョンは、民主党、共和党に関係なく、アメリカでは常に時々の指導者が人々に訴えてきた考え方です。オバマ大統領の今回の演説は、そんなアメリカの政治のビジョンを国民の前で再確認したのです。

オバマ大統領は、任期の前半は前政権以来の不況と中東やアフガニスタンでの軍事問題に翻弄されました。2期目になって、それも後半になってやっと彼なりのカラーとビジョンが見える政策を打ち出しはじめました。それだけに、彼が造り上げた未来へ向けた政策が、次期政権で砕かれることへの危機感、怒り、そして悲しみを持つ国民が、今回のお別れ演説を単なるお別れとは捉えられなかったことも、また事実なのです。

オバマ大統領がホワイトハウスを去ることを、今になって惜しむ人々の感傷も垣間見えた演説でした。

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【著者】 山久瀬洋二 【発行周期】 ほぼ週刊

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