過激発言でタブーに触れた大統領と米国メディアがデスマッチ

 

そしてこうした歴史的背景から、三権分立を維持するためにいくつものタブーが世の中に生まれました。その中でも最も重要なことが、司法と立法、そして行政という3つの権力がお互いの暴走をチェックする Checks and Balances という機能を維持するために、それぞれがお互いに言葉や行動をもって相手を干渉してはいけないというタブーです。また、この制度を保証するために、権力者がメディアなどに対して透明性を保ち言論の自由を阻害してはならないというタブーも尊重されました。

この前提に立って、見出しで紹介したトランプ大統領の話題となったツイートをみてみましょう。これは行政の長である大統領が、中東7カ国からの人々の入国を禁止した大統領令に連邦地方裁判所からチェックがはいり、待ったがかかった直後に発信されたツイートです。ここで、行政の長である大統領が、司法権を執行した裁判官を直接批判したことが、このタブーに抵触し、ひいては三権分立を保証した憲法に違反するのではないかと多くの人が糾弾しているのです。そして、大統領があからさまに一部のメディアを批判し、取材にも応じないことも、権力者がしてはならないタブーに触れているとされるのです。

歴史を振り返れば、現代民主主義の根幹ともいえるこの3権分立制度が育まれるまでにはたくさんの人の血が流れています。それだけに、その3脚の一つを担う権力者が公に他の権力を批判することは、軽率を通り越した対応と非難されたわけです。

ところで、今回メディアの中でも、特に取材を拒否されたCNNは、トランプ大統領への批判を様々な論調で展開しています。ニュース記事の隅々に大統領への皮肉や、直裁な批判が込められています。それは、大統領がその表現に感情的に対応し、勇み足で失言をすることを狙っているかの激しさです。マスコミの意地をかけた果し合いといっても過言ではありません。

今後、大統領令に対してアメリカの連邦裁判所の上級審がどのような判断を示し、それを受けてトランプ大統領がどのようなコメントを流すか。さらに、それにマスコミがどう反応するか。プロレスのデスマッチさながらのやり取りに、深刻さを越えた滑稽さがあるのも事実です。

とはいえ、人々の経済活動や生活に直接影響を与えるアメリカの大統領の動向であれば、シニカルな笑いでそれをやりすごさないように、アメリカの有権者や世界の世論はそれをしっかりとチェックしてもらいたいものです。

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【著者】 山久瀬洋二 【発行周期】 ほぼ週刊

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