ゾルゲ事件で朝日新聞社員も逮捕されていた
長谷川氏は、さらに歴史を遡って、ゾルゲ事件にもメスを入れている。元朝日新聞記者の尾崎秀實が政府内の情報を、ソ連スパイ・リヒャルト・ゾルゲに渡していた事件である。尾崎はすでに朝日新聞を退職していたが、実は朝日新聞東京本社政治経済部長の田中慎次郎と同部員・磯野清も逮捕されている。
検事側の情報では、陸軍担当だった磯野は、作戦計画の機密を田中経由で尾崎に流し、この情報を受けた蒋介石軍が待ち伏せして、日本軍に大損害を与えたという。この大敗により、日本軍は国民政府軍を包囲殲滅できず、蒋介石はさらに中国大陸の奥地に逃げて、戦線膠着を招いた。
尾崎はあくまで日本軍と国民政府軍を戦い続けさせて、共倒れにさせ、中国共産党に漁夫の利を与えようとしたのである。
尾崎は死刑となったが、田中、磯野は釈放された。二人を公判に付したら、陸軍の機密漏洩も表に出るので、それを恐れたのだろう、と長谷川氏は推測している。
いずれにせよ尾崎秀実は朝日新聞の中の異分子ではなく、戦前から朝日社内にはびこっていた共産主義の「大義」を信ずるシンパの一員だったようだ。
「『大義』の機関紙はアジびらである」
長谷川氏は、さらに多くの事例を辿りつつ、朝日の体質をこう断ずる。
…事実の追求から離れ、陰に陽にマルクス主義の思考にくるまり、従って前出の条件反射(JOG注:「日本軍=悪」というような思考停止の条件反射)も起こしやすく、世の中、物事を見る視野が非常に狭くなってしまっている…こうした精神環境は安易に、一種の集団心理とも思える「大義」なるものを生み出し、それを担ぎ出す。
(同上)
…こういう「大義」好きはもう新聞ではないと私は考える。「大義」の機関紙を私は新聞とは呼ばない。なぜなら、「大義」の正体を暴くのが新聞と思っているからだ。「大義」の機関紙はアジびらである。
(同上)
「事実」を追う「ブンヤ」は常に自分が間違っているかも知れない、と謙虚に構える。一方、「ジャーナリスト」は「大義」や「真実」を大衆に教えるべく、都合の悪い事実は隠し、都合の良いものは事実かどうかもよく調べずに報道する。
長谷川氏は持ち前のブンヤ魂をフルに発揮して、朝日の歴史を丹念に辿りながら、朝日は新聞ではなく、「大義」の機関紙、すなわち「アジびら」である、という結論を下しているのである。
文責:伊勢雅臣
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