「こうならなければよかった」「元気な人が羨ましい」などと思うと、心が沈み、体が重くなります。けれども私のいまある姿は、人工呼吸器を付けたことにせよ、自分で選んだ結果です。他人を思い煩うことなく、我が道を行く。そう心に決めて、この一瞬の自分の体に満足すれば、お天気がいいだけでも嬉しいと感じます。声が出せなくても、心の中で好きだったフランス語の詩を吟じ、フランス民謡を歌っていられます。
そして、いましようとすることを決めて、一つ上の目標を定めると、心が躍ります。ベッド暮らしになってからは、毎日2時間は執筆に充てると決め、既に『ぶる ぶる ぶる ブルターニュ大好き』『美しい日本語の響き』『命尽くるとも 「古代の心」で難病ALSと闘う』の3冊の本の刊行が実現しました。
昨年は「クイズダービー」以来の知人である女優の長山藍子さんから、陽気で社交的な私の妻・礼子を、劇で演じたいとのお申し出がありました。劇の脚本の土台とするべく、夫婦自伝物語『明るいはみ出し』を半年かけて書き上げました。妻との出会いからいままでを楽しく綴り、大変な分量になりましたが、既に校正刷りとなり出版は間近です。
(中略)
人生、何事も上手くいくとは限りません。一時の成功も振り返れば大したことではないと気づいたり、失敗して打ちひしがれることもあります。けれども心の苦しみについては、語らないことで耐えるしかありません。
悲しみは口にしないでじっとこらえ、やり直して明るく前へ進めばいいのです。困難に遭うたび、私は自分にそう言い聞かせて乗り越えてきました。「前進 前進 また前進」はいまも昔も私の行動原理です。
(『致知』2012年3月号掲載)
image by: WikimediaCommons(Kirakirameister)(『クイズダービー』収録が行なわれていたTBSホール)