パパの詐欺、ローラさんがすぱっと弁償?
『今井亮一の裁判傍聴バカ一代 第1412号(2014年12月22日号)』
14時00分締切りで、こと名「ろくでなし子」さんの勾留理由開示の傍聴券抽選。
一般に、勾留理由開示は抽選の倍率が低めといえる。国会靴投げ事件(本誌第1205号)も、なりすましウイルス事件(同第1000号)も、俺は傍聴できた。
なわけでこれも並んだら、嗚呼、なんてこった、これはローラパパを被告人とする「詐欺」の傍聴券抽選だった。 ※ローラパパ=タレントローラさんの父親。
傍聴席は52席、記者が14席取り、当たり券は38枚。90人ほど並んだかな。
俺は52番、傍聴席数といっしょ、なんか当たりそう、と自然に思えたら当たった。
14時30分~15時30分、東京地裁722号法廷(52席、横山浩典裁判官)で「詐欺」の新件。
法廷内撮影が終わって見渡すと、空席が10席くらいあった。またマスコミが当たり件を引きすぎたのか? バカ野郎っ。
14時28分、脇のドアから、焦げ茶色の肌の中年男性が入ってきた。
細身の黒スーツに黒系ネクタイ。きれいな巻き毛の茶髪、日本じゃ売ってないだろと思える洒落た大きなメガネ。
あれっ、ローラパパは保釈された? てかこの人がローラパパだっけ?
お洒落でハンサムなその中年男性は、書記官の隣に座った。通訳人なのだった。
どこか只者じゃない感じがある。あとで裁判官は「先生」と呼んでた。何者だろ。
14時31分、脇のドアから、警察官2人に伴われ、被告人(身柄、留置場)が入廷。
くたびれた感じの黒のジャージ上下、もしゃもしゃの茶髪、手錠をかけられた両手をぐっと下げ、前屈みというべき状態で被告人席へ。
密閉性の高いマスク(白色)で目から下を隠し、もしゃもしゃの茶髪が目に垂れ、うつむいてるもんだから、ほとんど顔が見えない。
ただ、俺の位置からは一瞬、目が見えた。濃くて大きな目…ローラパパだ。
被告人席に着き、警察官2人が、同時通訳の受信機が入ったポシェットを被告人の腰に巻いた。イヤホンを耳に。
裁判官 「被告人は証言台の前に立って下さい」
この先、ぜんぶ通訳人が通訳。俺には全く聞き覚えのない言語だった。
まずは人定質問。生年は1960年1月1日。もうすぐ45歳なのだ。
国籍はバングラデシュ。仕事を問われ、なんとかインターナショナルカンパニーと答えた。その経営者なんだという。
黒ジャージの上衣のすそから、黄色とグレーの派手な細ボーダーのTシャツのすそがハミ出してる。
そのTシャツのすそだけがやけに若く明るく、被告人の憔悴ぶりと対象的だった。
11月12日付けの起訴状を検察官が読み上げた。
検察官 「国民健康保険…海外療養費…」
日本で国保に加入してると、海外での医療費の一部(原則7割かな?)が支給される。
被告人はその制度を悪用し、2007年1月22日~同年2月26日、バングラデシュ・メディカルカレッジ・ホスピタルで、デング熱等により入院治療を受けた旨の虚偽の診療明細書等をつくり…。
2007年4月12日、それら書類を多摩市役所に提出、98万8523円を自分の銀行口座に振り込ませ…。
検察官 「…もって人を欺いて財物の交付をさせたものである」
罪状認否。
裁判官 「起訴状の内容にどこか間違ってるところはありますか?」
被告人は、ひどくうなだれ、小さな声で答えた。
被告人 「ナイ」
間違ってるところは「ナイ」なのか、「間違いない」という趣旨のバングラ語なのか、不明。
通訳人 「間違いありません」
被告人席に戻った被告人は、体を折り、太腿の上に上半身を載せるようにした。そこまでうなだれる被告人はあまりいない。
途中、被告人は何度か咳をし、両手の指で眉間の辺りを押さえたりしていた。憔悴感ばりばりだった。
もしかして風邪で熱があったのか。あるいは、娘(ローラ)に対する申し訳なさ、情けなさで、いたたまれなかったのか。
検察官の冒頭陳述によれば…。
被告人はバングラデシュ生まれ。高卒後、定職に就かず、1989年、日本に入国。
その入国の前か後か、日本人女性と結婚し、日本人配偶者の在留資格を得て、その後、永住権を取得。
日本では中古車の輸入販売業をやり、離婚歴2回、現在は単身。
前科なし。前歴1回。その中身は不明。
2006年、中古車の仕事がうまくいかず、海外療養費をだまし取ることを考え、2007年1月15日、出国してバングラへ。
デング熱等で入院治療を受け、1万3765ドル(だったかな)を支払ったと、虚偽の診療明細書等を知人に作成させ、日本へ郵送させた。
詐取金は、借金の返済や生活費、滞納していた国民健康保険費などに充てたんだそうだ。
眉間を押さえる被告人の左手に、シルバーのリングが見えた。結婚指輪? いや、中指だった。
身柄なのに指輪を付けてるって、あれは外れないのかも。
続いて検察官が、書証の要旨を告知。
甲6号証は、銀行からの電話聴取書。被告人の口座へ支給金が振り込まれたのは2007年8月31日だという。
甲7号証はバングラの病院の院長の調書。
甲7号 「2007年1月22日~2月26日、被告人が治療を受けた事実はない…(虚偽書類にある)3名の医師のうち1名は以前、勤務していた…2名のスタンプは全く異なる…」
甲8号証は、カタカナ氏名の者の調書。被告人と同国人か。
甲8号 「以前、被告人から詐欺…持ちかけられ…被告人がバングラデシュの甥っ子に書類をつくらせてると…」
甲9号証は、公訴時効について。本件は通常だと2014年8月30日に時効成立となるが、被告人は8回にわたり海外渡航してるため、その期間は時効が停止され、2017年11月3日が時効成立日…と聞こえた。
けっこう長く、日本にいなかったらしい。
乙2号証は、被告人の調書。
乙2号 「当時、経済的に苦しく、子どもの養育費(教育費?)が…仕事みつからず…」
逮捕当初、容疑を認めなかったのは…。
乙2号 「子どもが、犯罪者の子どもになるから…しかし警察官からくり返し本当のことを話したほうがいいと言われ…」
乙7号証(犯歴)まで要旨告知が終わり…。
裁判官 「今後の進行についてですけども…」
検察官 「追起訴2件、早ければ年内…いずれにせよ年明けには追起訴…」
今年10月23日付けの報道に「民間保険会社からも3回にわたり、同様の手口で計約103万円を…」とある。これが追起訴の一部または全部かも。
その2件で追起訴は終了だという。
裁判官 「弁護人は?」
弁護人 「被害金、3件すべて返還、弁償済みです。次回はその領収書等を…」
ほ~! 上記だけで合計約200万円、でかい。被告人に払えたとは思えない。
地獄のことは知らないが、刑事裁判においては“下獄(げごく)の沙汰も金次第”。被害弁償がかなりできなければ実刑カクテーイだ。
しかし誰かがすぱっと全額払ってくれた。娘のローラさんが父親のために?
ローラさんはだいぶ稼いでるんだろうけど、それにしてもありがたい娘じゃないか。
弁護人 「(加えて)人証…情状証人を申請するかどうか検討中です」
ってローラさんを検討中なのかな。
ローラさんはもう、切々たる上申書でも出せば十分と思う。本件は前科なし、被害弁償が完璧なんだから、執行猶予は鉄板でしょ。
でも、芸能界での今後の立ち位置等の観点から、ドラマチックに証人出廷するか検討中…だったりして。
次回は、1月30日(金)15時から午後一杯と決め、15時05分閉廷。
法廷の外の小廊下で記者たちが、弁護人が出てくるのを待った。認否で被告人が述べた「ナイ」が日本語なのかバングラ語なのか、話したりしながら。
『今井亮一の裁判傍聴バカ一代 第1412号(2014年12月22日号)』
著者/今井亮一
交通違反専門のジャーナリストとして雑誌、書籍、新聞、ラジオ、テレビ等にコメント&執筆。駐車監視員資格者。著書は20数冊。ほぼ毎日裁判所へ通い、空いた時間に警察庁、警視庁、東京地検などで行政文書の開示請求。
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