最後に、日本も当事者である北方領土問題はどうでしょうか。プーチン大統領としては、四面楚歌だった外交舞台において、日本をつなぎ留めておくための好材料であり、安倍総理にも前向きと捉えられる発言を行いましたが、実際には日本からの外交的、経済的な支援をつなぎ留めておくための駒として使われた感じがします。
ウラジオストックやハバロフスクの知事を使って「北方領土問題への対応」を批判させたり、モスクワをはじめとする大都市で『クリル諸島は渡さない』としたデモを起こさせたりしつつ、プーチン大統領自らは一切ネガティブなことは発言せず、ラブロフ外務大臣を急先鋒に仕立てて、日本への揺さぶりをかけています。
対日関係というよりは、北方領土問題は今や(そしてソ連時代から)、あくまでも対米戦略における重要拠点としてロシア外交および安全保障政策の柱に据えられています。
対日交渉においては『歯舞群島と色丹島の2島返還』を“解決策”として提示していますが、すでにロシア人の住民もいますし、モスクワなどから移住する者には給料を10倍にして、すべてのインフラを提供する、という究極のインセンティブを提示して、ロシア人の移住を進めています。今後は空港も新設され、光ファイバー網も整備されるなど、どう考えても返すつもりはないものと思われます。
本心を表明しているとすれば、『北方領土4島(クリル諸島)を“仮に”日本に返還する場合、アメリカ軍の基地を設置しないことの確約が必要』とするポジションでしょう。
残念ながら、これを日本に対して要請しても、アメリカ政府にとっては、一応、日本政府には諮ることになっていますが、実際にはアメリカの安全保障上の戦略から必要と認めれば、基地の設置を止めることはできません。それをロシアも知っているからこそ、無理難題を押し付けています。完全にロシア外交の思うつぼと思われます。非常に悔しい限りですが。 G8からも疎外され、欧米からロシアへの風当たりは強いですが、国内での“神通力”が低下しているとさえ言われるプーチン大統領が操るロシア外交は、確実に回復し、強化されているように思います。
私が国連の紛争調停官として様々な案件に携わる際、ロシア政府とはいろいろと折衝を行いました。その際に、先輩方から教えられたのは、『ロシア外交というのは、シロクマのようなもの。正面で対している限りは、とても愛想がよく、かわいいところもあるように思うが、背を向けた瞬間に、牙と爪で一気に襲いに来る。絶対に背を向けてはいけない。どのように動くのか、注意深く、見ておかないと痛い目に遭うよ』と。
今後、そのロシアがどのような外交的なゲームを仕掛け、国際情勢に変化をもたらすのか。懸念とともに、とても関心を持って追いかけたいと思います。
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