しかし、一抹の不安があるとすれば、アメリカを怒らせているトルコのロシア大接近です。最近は、エルドアン大統領とプーチン大統領が“共同での兵器の開発”に合意したというニュースもあり、先日のS400導入の決定と合わせて、アメリカ政府を怒らせる原因を作っています。
トルコもロシアもイランの後ろ盾としても有名ですから、アメリカによるイランへの攻撃がないとしても、ロシアの中東地域への進出の阻止と、トルコのこれ以上の勢力拡大を牽制する狙いから、アメリカが軍事・外交の両面から“何か”を行う可能性があります。
イランへの対応の軟化の兆しは、アメリカがイエメン問題の解決の仲介の任を担うことを発表したことです。フーシー派(イランがサポート)と暫定政府(サウジアラビアがサポート)との間の停戦を意図して、アメリカが、イランとサウジアラビアも交えた会合を指揮しようとしています。
これは、イエメン問題を沈静化させることで、アメリカの地域でのプレゼンスを高め、イランと間接的に手を結ぶきっかけを演出することで、ロシアとトルコの思惑を封じ込める狙いがあると思われます。イエメンでのアメリカの動きについては、直接的な言明はないですが、欧州各国も全面的にサポートするようです。
ただ、この“狙い”も今のところ機能していないようです。その証に9月4日には、イランのロウハニ大統領が核開発の第3段階として、すべての制限を撤廃する指示を国内関係機関に通達しました。実際にこれで急に何かが起き、イラン国内の核開発のレベルが上げられる訳ではないですが、明らかにアメリカおよび欧州各国への不満の表明と捉えることができるでしょう。
アメリカとイランの間の直接的なチャンネルが閉じられる中、先日のフランス・マクロン大統領による“仲介”が功を奏したのでしょうか。先述のように、9月25日にニューヨークでトランプーロウハニ会談を行うべく、両国間で調整中とのことですので、何かのbreakthroughを期待したくなりますが、アメリカとイランの衝突は、コミュニケーション、そして意図伝達の難しさを痛感する事案です。
ここまで見ると、「やはりイラン情勢は混乱の極みなのだ」という結論に思われるかもしれませんが、日韓の間で起こった『韓国からのGSOMIAの一方的破棄』と、それに起因するアメリカの憤怒から生じる北東アジアでの混乱が、実は欧州をも巻き込んだ世界的な安全保障上の懸念の増大へとつながる可能性が出てきました。
それは、今後、『アメリカ軍事的プレゼンスのシフトチェンジ』が起こり、それが欧州の安全保障体制にそれなりの影響が出てくる可能性です。すでに述べたように、イラン問題が長引くことは、必ずしもアメリカ国内のトランプ大統領とその政権への支持率向上には繋がらないとの分析結果があるため、来年の大統領選挙までは、トランプ大統領はイラン問題の劇的な変化は狙いに行かず、おそらく緊張を保ったまま、現状維持をするのではないかとの思惑です。