イランの戦略とは?
ここで皆さん、お気づきでしょうか?今回の案件に際して、最高指導者ハメネイ師が頻繁に登場し、反米感情を煽り、ザリフ外相が“怒り”と“融和”のバランスを取る動きをしている中、一度もロウハニ大統領が表舞台に登場していません。 これは、軍事的・国家安全保障関連の権限がハメネイ師にあるからという理由のほかに、国内の情勢および勢力が、今、完全に反米過激派に偏り、その裏で穏健派の代表と目されるロウハニ大統領の勢力が弱体化しているという状況を表しています。
今回、トランプ大統領が経済制裁の強化を打ち出したことで、再度、経済フロントで対峙するロウハニ大統領が出てくるかもしれませんが、イランを敵対視する周辺国からも一目置かれる彼の権限が削がれているような状況であるならば、混迷を極める中東地域にとっては、決して良い材料とは言えないでしょう。
例えば、どのような悪影響が考えられるでしょうか。以前にもこのメルマガでお話ししましたが、サウジアラビアが『イランが核開発を再開するならば、自らも核開発を行う』と公言した核武装化が本格化する可能性です。 シーア派の雄であるイランに対抗するスンニ派の雄であるサウジアラビアは、地域のスンニ派勢力を守るためには手段を選ばないと宣言しているため、ロシアのバックアップを得て核開発に乗り出すかもしれません。
ただ、イランの後ろ盾もロシアですので、この点については、ロシアと、アメリカの出方次第と言えるでしょうが、確実に地域の不安定化は免れない状況です。 次に、イラクの混乱が再燃することになるでしょう。現在の暫定首相はシーア派の勢力であり、比較的イランと近いとされていることもあり、国内のスンニ派からの攻撃を受け続けていますが、今回のソレイマニ司令官の殺害とイランによる反撃が、どちらもイラク国内で行われたという、非常に迷惑な現実に直面し、政治的にも、治安面でも、不安定化が進むことになってしまいます。
そして、そのイラクの不安定化と、中東諸国間のデリケートなバランスの崩壊は、追い詰めたはずのISISの再興・復活へとつながることになります。ISISを追い詰めるにあたり、今回殺害されたソレイマニ司令官は掃討作戦で大活躍をしていましたが、その象徴的な存在が倒れたことで、イラン、イラク、シリア、レバノン、イエメンなどでの混乱が激化することになり、小康状態になっていたはずのシリア内戦も、ISISへの対策という新たなフロント(戦線)が復活することで、再度、複雑化することになってしまいます。