シリア情勢再加熱とイラク情勢複雑化。トルコとロシアの狙いは?

 

アサド大統領の後ろ盾、ロシアの3つの狙い

ロシアのプーチン大統領としては、トルコがNATOの加盟国であることから、シリアを舞台にしてNATOと戦いたくないという思惑と、Brexitでごたごたしている欧州各国の目を覚まし、ロシア批判を再開させたくないとの思いがあり、形式上、矛を収める決断をしたのではないかと考えます。

しかし、ロシアにとってどうしてそこまでシリア、それもアサド大統領が大事なのでしょうか。表面的には、歴史的なつながりという理由が挙げられますが、実際には3つの狙いがあったのではないかと思われます。

1つは、『体制転覆の阻止』です。これは以前グルジア(現在のジョージア)での革命や、イラクでのサダムフセイン追放のための戦争、そしてアラブの春の影に欧米諸国の意図が隠れていることに気付き、親ロシアの中東における勢力であるシリア・アサド政権の体制維持を至上命題にして、地域における欧米の影響力を削ぎたいとの思惑です。

2つ目は、ISなどの打倒を含む『対テロ戦争』です。ロシアは国内にもイスラム過激派を抱え、常にテロの脅威にさらされていることで、ISなどのイスラム過激派勢力がロシア国内の過激派に影響を及ぼすことを厳重に警戒しており、その勢いを根源から絶つという狙いがあるように思います。ゆえに、シリア国内においても、反アサド勢力をテロリストとみなし、空爆などで破壊するに至っています。それが結果としてアサド政権軍の復活を支え、アサド大統領の権力基盤を強化することで、国内外のイスラム過激派へのメッセージとなっています。

そして3つ目ですが、『中東地域におけるロシアの権益の獲得と確保』という狙いがあります。恐らくこれが最大の思惑かと考えます。例えば、シリアにすでにロシアの海軍基地がありますが、この存在は、北東アフリカ諸国と地中海沿岸諸国に睨みが効き、対NATOの前線基地になるだけではなく、欧米に後れを取った中東への本格的な進出の足掛かりとしてシリアを確保したいという狙いです。反対側(シリアの対岸)では、ジブチやエチオピアに海軍基地や対テロ戦争の大本営を置くアメリカや中国と意図は同じです。

このようなプーチン大統領の狙いを察知してか、3月9日にイドリブ県に赴こうとしたシリア駐在のロシア軍の行く手を、撤退前の米軍がブロックしたという出来事がありました。実際の衝突には至っていませんが、『好き勝手にはさせない』というトランプ大統領からの隠れたメッセージだったのかもしれません。

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