80年代にデビューし、国民的人気を誇っていた「たけし軍団」その1人であるグレート義太夫さんのメルマガ『貰えるものなら病気でも!』。今回、義太夫さんは最新号を「特別編。志村さんとの思い出…。」と題して、新型コロナウイルスの感染による肺炎で急逝した、芸人として大先輩である志村けんさんとの貴重な思い出をメルマガに綴っています。志村けんさんへの追悼として、今回特別に最新号のメルマガ全文を公開させていただけることになりました。義太夫さんが見た、志村けんさんの素顔とはどのようなものだったのでしょうか?
特別編。志村さんとの思い出…。
最大のピンチ。
芸人・役者・ミュージシャン…。表現者は大変だよ! その「表現の発表の場」が無いんだから! そんなワタクシもイベントが飛びまくりです。これは「死活問題」ですよ。
今まで「災害」などで「自粛モード」でライブが出来なかった事は、何度かありましたよ。それでも、ある期間を過ぎたら「やりましょう!」って事になって、被災地の方々を元気づけに行ったのに、逆に元気を貰って帰ってきた事もありました。
などと書いていたら、「志村けんさん」の訃報が入る。にわかに信じられなかった。「この人は絶対死なない」リストに入ってる1人だったから…。
「志村さんの肝臓は、超合金でできている!」
スタジオ前室でそんな話になって、皆んなで大笑いしたのを覚えている。
確かにお酒の量はハンパなくスゴイけど、健康マニアで小まめに病院で検査してる。なんて話もその時に聞いた。横にいたダチョウの竜ちゃんに、
「お前も検査受けた方がいいぞ!」
「ヤですよ、何か見つかったら、お酒飲めなくなるじゃないですか!」
「バ~カ!」
志村さんのスタジオは、笑いが絶えなかった。
加ト・けん・たけしの世紀末スペシャル!!
この3人が一堂に会してコントを繰り広げる。夢のような特番だった。世田谷のTMCスタジオだったと記憶している。朝から夜中まで「コント・コント・コント」この現場にいられたのは、ホンにラッキーで幸せだった。
エレベーターコント一つ取っても、殿と志村さんの作り方は全く違う。志村さんのコントは、台本がきっちりあって、セリフも決まってて、それに伴って志村さんの頭の中には「カメラアングル」まで入っている。
言わば「緻密なコント」それに対して殿のコントは「エレベーター」と言うシチュエーションだけ決まっていて、後はその場のノリでコントを作っていく。もちろん本もあって、それに沿って作っていくんだけど、殿からバンバンアイディアが出る。
その都度、
「こうしてみようか?」
「こっちの方が面白いな」
そうやって、どんどんコントが進化していく。だからスタッフさんは大変だ。ひょうきん族のカメラスタッフの苦労を思い出す。殿のコントは「臨機応変」が大前提(笑)。
殿と志村さんのピンのコント、全くタイプの違う先生の授業を受けているようだった(笑)。もちろん軍団もカラミがあって、コントに参加するんだけど、ほとんどセリフは「口移し」と「だいたいの感じ」を言われるだけ。この時怖いのが、殿が思っている「オチ」向かっての流れにそぐわないセリフを言おうもんなら、烈火のごとく怒られる。殿は、何をするのでも「センスの無いヤツ」を嫌う。そんなコントの作り方を見て、志村さんの作家さんたちが驚いていた。
忘れられないコント。
このお三方との絡みのコントがあった。3人が「整形外科医」で、そこにボクが「包茎の手術」を受けに来る患者。台本には無かったと思うんだけど、いきなりリハで、この3人が「オカマ」と言う設定になった。
「ヤダ~、包茎ですって~」
「ねぇねぇ、誰が切るのよ~」
「ちょっと、そっち抑えなさいよ!」
「ダメよ、摘んじゃ!」
顔に布をかけられて、声しか聞こえないんだけど、それがおかしさ倍増で(笑)。でも、そんな所で笑ったら、コント台無しだからね、大叱られするよ。必死になって耐えた(笑)。当たり前だけど、お三方の「演技の瞬発力、尋常ではない。
幾らかかってると思ってるんだ!
好きなコントがある。ホテルに泊まったお2人が、ふとした弾みで、全裸で廊下に出されるコント。殿は前後を「桶」志村さんは「お盆」で隠しながら、なんとかフロントまで行こうとするんだけど、ことごとく邪魔が入る(笑)。エレベーターに乗ろうとすると、中から団体さんが出てきて、脇の観葉植物に隠れたり、石像のふりをしたり。結局最後は二人が鉢合わせになって、とぼとぼ廊下を歩いて行って、終わりじゃなかったかな?
もちろん桶の下、お盆の下は「全裸」である。カメラワークとお二人のテクニックで、絶対映らないようにしているんだけど、面白いのは休憩の間。もちろん休憩の時は、バスタオルを巻いたり、ガウンを着たりするんだけど、椅子に座っているお2人の体型が、いい感じで「ブヨブヨ」で、ついそれを見て笑ってしまったら、お腹を摩りながら二人声を揃えて、
「バカヤロウお前、この体にするのに、幾ら使ったと思ってるんだ!」
「そうだよ、幾らかかってると思ってるんだ!」
それにまたスタジオ大爆笑(笑)。
笑わない。
お二人のコントを見てて、とにかく凄いのは、お二人とも「絶対に笑わない」もちろんスタジオで見ているスタッフやボクたちは、笑っていい事になっている。志村さんの演技を見た殿、殿の演技を見た志村さん、スタジオは爆笑なのに、お二人は絶対笑わない。
「笑わす側が笑ってどうすんだよ!」
志村さんは、よくそう言われていたそうだ。これ誰から聞いたんだっけな?
宝物。
この番組の打ち上げだったと思う。TMC近くの焼肉屋さんだったね、加藤さんはいなかったんだよね。お二人の他は軍団と、もちろん「ダチョウ倶楽部」の3人もいた。この時、殿と志村さんのお二人から聞いた「印象的な話」をね。殿に言われたのは、
「オイラとけんちゃん(殿は志村さんをこう呼ぶ)は、動物園で言ったら『ライオン』なんだよ、そこにいるだけでいいんだ、寝てても、いるだけで人が見に来る。お前ら(軍団)は犬とか猿だからな、一生懸命芸しないと人は見にきてくれないんだよ。ただな、オイラもけんちゃんも、ライオンの位置に来るまで長かったよなぁ…」
そう言いながら二人顔を見合わせて笑っていた。
構成。
志村さんが話してくれたのは、コントの構成について。要は「順番」だよね。これは聞いていて、目から鱗だった。
「お客なんていうのは、勝手なものでさ、80点のコント続けるだろ、そうすると目が慣れてきて、面白さを感じなくなってくるんだよ、で、どうするかって言うと、最後のコントの前にわざと60点のコント持ってくるんだよ、そうすると最後のコントが80点でも客が勝手に100点にしてくれるんだよ、これが構成力なんだよな」
この志村さんに教わった「構成力」今自分がネタをやるようになって、非常に参考にさせてもらっている。落差・ギャップが生む笑い。同じ笑いでも「順番」間違えると笑いが半減する。それは肝に銘じている。
「面白いものを茶の間に届けたい」
志村さんを突き動かしていた「原動力」は、これだったと思う。
信じられないよ。
入院されて、ICUで治療されていると聞いていた。すぐに良くなって、またコント見せてくれる。と信じていた。「変なおじさん」も「瞳婆さん」も「バカ殿」も、志村さんでないとできないんです。他の誰にもできない「芸」なんです…。沢田研二さんとの「鏡コント」も好きでした。
どうぞ安らかにお休みください。あ~、でもいかりやさんがいらっしゃいますから、ゆっくりはできないかもですね(笑)。
ご冥福をお祈りいたします。
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