例えば、鍼の治療で痛みをとることがあります。これは痛みを伝える神経細胞(ニューロン)の末端からサブスタンスPと呼ばれる痛みを伝える神経伝達物質が分泌されるのですが、鍼の刺激によってβエンドルフィンやエンケファリンが分泌されて、それが痛みを伝えるニューロン上にある受容体と結合するため、神経末端からのサブスタンスPを抑制するというメカニズムです。
このメカニズムこそが「病は気から」のメカニズムにも繋がっていきます。いわゆるプラシーボ効果というやつです。メリケン粉のような偽薬を本当に効く薬だと信じて飲んだ場合に、時として痛みを感じなくなったりする事があります。これは鍼灸のような刺激に頼らずとも、偽薬によってβエンドルフィンを作っているからなのです。
ちなみにβエンドルフィンの作用を抑制する薬を与えると、その薬が何であるかを知らずとも急に痛みを訴えるようになるそうです。病は気からの魔法が解かれてしまうのです。
このように体自体で作り出す天然の鎮痛剤でもあるβエンドルフィンは、ストレスがかかると下垂体から分泌されるケースがあります。ご質問のランナーズハイのような状態が、まさにこのケースです。
マラソンのように長距離を長時間走ることは苦しい状態です。特に走り始めからしばらくは頑張ってペースを保とうとすると、特に苦しく感じてきます。ところが、走り続けていくうちにさっきの苦しみが嘘のように無くなって、身体も軽くなりむしろ快感を覚えるようなシーンが生まれたりします。これがランナーズハイと呼ばれる状態です。泳ぐ場合にもスイマーズハイは起こりますし、ウエイトトレーニングなどでもそれに近い爽快感を覚える人は多いでしょう。
これはまさにβエンドルフィンが分泌される事によって起こっているわけですが、これは行き過ぎた減量やダイエットによって拒食症となってしまうケースにも見受けられるのです。物を一切食べないのに空腹に耐えられるというのは、通常の状態では考えられません。エネルギーを含め栄養素を補充するというのは、身体を維持させていくうえで相当優先順位が高いからです。その空腹すらも苦痛と感じない原因はβエンドルフィンになります。
自分の感情を抑えたり、肉体的な苦痛を感じなかったりという状態の時、血中のβエンドルフィンの濃度が高いのです。意図的にこれを出せるかと言われれば、少し難しいかもしれません。ただし、日々のハードなトレーニングや練習を自らの意志で行う事で、それに近い高揚感を得られる事は比較的頻繁に起きますから、その先にはβエンドルフィンの分泌が待っているかもしれません。
苦痛を感じないからといって、くれぐれもやり過ぎには気をつけてください。やがて体への負担に耐えられなくなる危険性をはらんでいますから。
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